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第五百三十七話『ヴァルの身の上』

「俺はもともとこの街の育ちでな。だからか、冒険者ってのには昔から憧れがあったんだ。親父たちは街で商売をやってる身なんだが、そっちには不思議と目がいかなかった」


 グラス片手に酒をあおりながら、ヴァルさんはそう切り出す。ムルジさんはどこかげんなりとした様子でそれを聞いていたが、初見である俺たちは軽く身を乗り出しながらその話に耳を傾けていた。


「だがな、うちの両親は最初から冒険者を目指すことを許してくれなかったんだ。冒険者だけを目指すなんて安定性がない、もっと稼ぎを期待できる職も視野に入れられる学び方をしなさい――ってな」


「……なんつーか、現実的なご両親ですね……」


 ヴァルさんの両親の言葉が何故かボイス付きで脳内再生できてしまって、俺は思わずため息を吐く。冒険者って言いかえれば自営業みたいなもんだし、そう言われるのもまあしょうがないと言えばしょうがない……のか……?


「へえ、ネリンのところとは相当違うリアクションだね。ネリンは冒険者を目指すにあたって何も言われなかったんだろう?」


「そうね。……まあ、あれはパパも冒険者だったからっていうのはあるかもしれないけど」


 唐突に水を向けられたことに驚きつつも、アリシアからの問いにネリンはそう言って頷く。その様子を見ていたヴァルさんは、唐突に大きなため息をついた。


「やっぱり、冒険者の親がいるとそこらへんはすんなりいきそうだよなあ……俺なんて説得するのにしばらくかかったんだぜ?」


「そこに関してはオレも知るところですからね……先輩の親御さんたち、相当安定志向みたいでしたから。王都で成功した商人の息子なんて、その店を継いで無難に経営していけば人生安泰ですしね」


 ヴァルさんの言葉に補足するようにして、ムルジさんは淡々と説明する。その隣では、淡々なんて言葉とは対極に位置するヴァルさんが大きく首を横に振っていた。……なんというか、まるで駄々っ子のようだ。いつもは豪快な人だなあくらいにしか思わないのだが、今の状況を鑑みると精神年齢がかなり低く見えてしまっている。


「でもよ、そんな生き方だけじゃつまんねえじゃねえか! 一度憧れてしまったものは簡単に諦められないってのは、ムルジも分かってることだろ?」


「……そりゃ分かってますよ。誰も先輩の生き方を否定しようとはしてませんから、そこは安心してください」


 言葉にただならぬ熱がこもりだしたヴァルさんをなだめるように、ムルジさんが優しい口調でそう応じるその言葉を聞いて、少しはヴァルさんの気持ちも落ち着いたようだった。


「……ま、そんな訳でだ。どうしても冒険者の夢をあきらめきれなかった俺は、何とかして冒険者になるためのスキル習得を目指したんだ。それで、俺が見つけ出したんだよ。ある一つの方法をな」


 そこでヴァルさんはもったいぶるように息を吸い込み、宴会に一瞬大きな間が生まれる。その沈黙を破ることが出来るのは、この独演会の主宰者しかいないわけなんだが――


「『王都騎士団に入隊したいから、そのための道場に通わせてくれ』――それこそが、俺が見つけ出した魔法の呪文だったってわけだ」


 ――得意げにそういうヴァルさんの表情を見るかぎり、この山場は数あるうちの一つでしかなさそうだった。

ということで、酒飲みの独演会は中々長くなりそうです。今後に繋がる事もちょこちょこ出てくるとは思いますので、皆様少しばかりお付き合いいただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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