表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

534/714

第五百三十三話『その足は片道きり』

「……図書室に向かってるだけにしてはずいぶん時間がかかってるなあって思ったら、そんな事になってたとはね。その体勢なら、確かにあの廊下は長いかもしれないわ」


「……いやはや、本当に面目ねえ……」


「自分の貧弱さが、ふがいないですね……」


 俺はミズネに、ロアはアリシアに。それぞれ肩を借りながらテーブルへと戻って来た俺たちを見て、ネリンは困ったような笑みを浮かべる。俺もできれば自分の足で歩きたいところだったのだが、笑いまくる膝がそれを片道しか許してくれなかった。


「まあまあ、オレもかなり厳しめにトレーニングしてますからね。そうなるのはむしろ健全というか、そうならなかったらうまくサボられてる可能性を疑わなくちゃいけないというか……」


「そんなことをしていないのはムルジが一番知っているでしょう……。片道を支え無しで歩けただけでも快挙のようなものですよ?」


 ムルジさんの軽口に、ロアが鋭い視線を向ける。手を抜くも何も、あのトレーニングのペースを握ってたのはムルジさんだしな……。効率よくサボる方法を覚える暇なんてないし、そんな事が出来る余裕すら俺たちにはなかった。


「お前って意外とスパルタな特訓の方が好きだよな。『根性論なんて無駄っすよ』くらいのことは言いそうな感じなのによ」


 そんなやり取りを横から見つめていたヴァルさんが、ムルジさんに対して興味深そうにそう問いかける。その両手にはさらなる肉料理が並んでいて、否が応でも宴会への期待値は高まるばかりだった。


 ヴァルさんが持っているそれとは別に、テーブルの上にはすでにたくさんの肉料理が並べられている。現代日本に持ち込んだら栄養バランスがなんだかんだと頭を抱える人が出てくるのが容易に想像できるが、異世界ならそんなことを言われる心配もゼロだ。


 そんな風に俺がテンションを上げている中、ムルジさんは困ったように頭を掻く。その表情を見ると、それと同時に呆れているようにも思えた。


「……先輩、人を口調だけで判断するのはよろしくないっすよ? オレが先輩の言ったタイプの人間なら、まずはこの道場を潰そうとするところから始めてます」


 スパルタの権化みたいな道場なんすから、とムルジさんはため息を一つ。そのローテンションとは対照的に、ヴァルさんは皿をテーブルに置きながら笑みを浮かべていた。


「ははは、そりゃあ違いねえかもしれねえな! そうなった場合お前は俺の敵になっちまうから、そう成らなかったことに感謝だ!」


「そうっすね。……オレも、先輩が同じ立場でいてくれた方がありがたいっす」


 底抜けにポジティブなその反応に、ムルジさんも苦笑しながらそう答える。ムルジさんの皮肉が伝わっているかすらも分からないその反応は、ある意味ムルジさんキラーと言ってもよかった。


 だけど、これでもコンビとしてはちょうどいいバランスなのが凄いんだよな……。いわゆる凸凹コンビという奴なのだろうが、ここまで極端なのを見るのは初めてのような気もする。ポジティブ思考と慎重思考をお互いに持ち合わせてるわけだし、相性がいいってのは納得できる話なんだけどな。


「……随分と、きついトレーニングだったみたいだね?」


 そんなことを考えていると、ロアの向こう側に立つアリシアからそんな風に声がかけられる。さっきまで受けていたトレーニングのことを思うと、俺はそれに対して大きく首を縦に振る事しかできなかった。


「私のトレーニングは魔術に特化したものも多いからな。いつかは基礎体力をさらに強化するメニューも追加しようと思っていたが、まさかここまで効いているとは思わなかったぞ」


「……もともと、あまり褒められた運動神経を持ってないものでな……」


 自転車をこいで図書館に通い詰めてたりしたから脚力はないでもないんだろうが、いかんせんそれ以外の運動機会に恵まれなさ過ぎた。文化部以上運動部未満と言ってもいいその体力量は、異世界に転生してからも実はあまり成長してなかったらしい。


「ムルジさんさえ許可してくれたら、どんなトレーニングをしていたか教えてほしいものだな。場合によってはいつもの特訓メニューに組み込めるかもしれない」


「……くれぐれも、お手柔らかに頼むぞ……?」


 俺が声をからしながらそう答えると、二人から笑みがこぼれる。その笑みが何のニュアンスを秘めているか分からないのが少し怖いにしても、あのトレーニングなら設備をそろえるのも簡単そうだし、ミズネの理想は実現するんじゃないかと思えた。


「……さあさあ、四人とも早く席に着いちゃってくれ! 折角全部焼き立てなんだ、みんなで楽しむとしようぜ?」


 全ての配膳を終わらせたヴァルさんが、まだ廊下の入口で立っている俺たちにそう呼びかける。その手元のテーブルからは湯気が立ち上っていて、いかにも焼き立てと言った感じの雰囲気がそこにはあった。


「ああ、今向かわせてもらうよ。……二人とも、歩けるかい?」


「大丈夫だ。……折角準備してくれたんだ、一番おいしくいただかないとな」


「ですね。明日に備えて、出来る限りの栄養補給をしておきましょう」


 アリシアの問いかけに答えたのを合図に、俺たちはゆっくりと机に向かう。一つのダイニングテーブルを囲むその形は、なんだか久しぶりの団欒のような気がした。

ということで、次回から宴会スタートです! 果たしてどんな会話が聞けるのか、楽しみにしていただければ幸いです! 六人と一緒の宴会、皆様もどうぞ盛り上がってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ