第五百二十八話『ロアから見た彼は』
「……それに関しては、あのレストランで少し話したはずですが」
「ああ、そうだな。……だけど、あの時はそのまま俺の話に流れてっちゃっただろ?」
しばらくの沈黙の後、ロアが戸惑ったようにそう返す。それに俺は軽く頷いて、すぐに次の言葉を口に出した。
「ロアはゼラのことを嫌いじゃないってのも聞いたし、奇妙な奴だって思ってるのも知ってる。だからこそ、何だろうな。……お前から見たゼラのことを、俺はもっと聞いてみたいんだよ」
ゼラは、きっとロアのことを特別に思っている。自覚があるのかないのかはともかくとして、あんな威圧感を放ってしまえるくらいには、ロア・バルトライという人間はゼラにとって価値があるのだ。その価値を、『ロア』に感じているのか『バルトライ』に感じているのかに関しては……まあ、分かったような口はきけないけどさ。
「……貴方も変わった人ですね。私の話など、面白みがあるものとも思えませんが」
「面白みなんてなくても話したいときはあるだろ。……それに、お前だって要領のつかない俺の話を聞いてくれたじゃねえか」
仮にロアが自分の話術を面白みがないものだと思ってるなら、それこそお互いさまってやつだ。この世界に来てからいろんな人と話してきたが、揃いも揃ってコミュニケーション能力が高すぎるからな。まあ、そんな中でも俺の話術はあまり成長してないから困るんだけどさ……。
「とにかく、俺はロアの言葉を聞きたいんだよ。他の誰でもないロアの話を聞いて、いろんなものを共有してみたいんだ」
共同戦線を張ってるっていうのに、俺とロアはお互いに知らない事ばかりだからな。下手に踏み込んではいけないと思ったのは過去の話、今の俺たちは同じ目標を見据えたいわば同志なのだ。……だから、その言葉を受け止めてみたいと思った。
「……分かりました。そこまで言われて断れるほど、私は冷徹にはなれませんから」
「ああ、ロアは優しいもんな。……ありがとう、俺のわがままに付き合ってくれて」
ロアの快諾に、俺の表情が思わず緩む。押しに弱いのは人の上に立つべき人間的に悪徳なのかもしれないが、その優しさは間違いなくロアの美徳だと言ってよかった。
「……ゼラとの話、ですよね。なんだかんだ一緒にいる時間も長いですし、語るべきことも多いような気がしますが……どこから聞きたいとかのリクエストがあればお聞きしますよ」
「いや、そんな順序だてて話す必要はねえよ。ゼラ・フィリッツアって人間に対して今のお前がどんな風に見てて、その後ろ姿に何を思うのかを知れれば十分だ」
俺の眼から見ても、二人の関係ってのは相当奇妙なものだからな。簡単に友人ってくくるのもちょっと違う気がするし、だからと言って言語化しようと思ってもしっくりくるフレーズがポンと出てくるわけでもない。だからこそ、ロア自身がどう思っているのかを聞いてみたいのだ。
そんな俺の答えを聞いて、ロアはふっと両目を瞑る。俺たちの間に沈黙が落ちて、台所から聞こえる調理の音だけがしばらく響いていた。
それが破られたのは、ロアが考え込んで一分くらいが立った時のことだ。ゆっくりと目を開けると、ロアは俺の眼をまっすぐに見つめながらゆっくりと口を開いた。
「……そう、ですね。私も短くない時間をゼラと一緒にいますし、クエストなんかもそこそこの数ともに受けてきたのですが――」
そこで一回言葉を切り、ロアはしきりに瞬きを繰り返す。そして、おもむろに机に指を置くと――
「……実のところ、今でもよくわかっていないというのが正直な感想ですね」
その指をぐりぐりと机に押し付けながら、ロアは非常に端的な感想をこぼした。
次回、本格的にロアのゼラ評が聞けるかと思います! 果たしてどんな言葉が飛び出すのか、楽しみにしていただければ幸いです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!