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第五百二十七話『机の冷たさ』

「……ヴァルさん、そっちの煮加減はどう?」


「後二分でちょうどいいってとこだな! いやー、嬢ちゃんがいるだけでここまで楽に支度が出来るようになるとは思わなかったぜ!」


 包丁の小気味いい音とともに、厨房からヴァルさんとネリンの朗らかな声が聞こえてくる。そのやり取りを聞きながら、俺はテーブルに突っ伏していた。普段は無機質にも感じる机の冷たさが、今だけはやけに心地いい。


 体は幾分か動くようになっているが、それでもまだ動くのは気だるい。だからこそ、この道場でご飯にしようというヴァルさんの提案はすごくありがたいものだった。


 ミズネから伝え聞いた話によれば、今日は肉料理の祭典になるらしい。俺が料理当番の時よく肉を使った料理をしていることから、俺の好みは肉に偏ってるんじゃないかって推測したんだとか。


 その推測が当たっているかはともかく、それで向かった肉市場にヴァルさんがいたっていうんだから不思議な話だよな……。まあ、アイツらからしたら俺がムルジさんのところでトレーニングしてることの方が驚くべきことなんだろうけどさ。


「縁ってやつは、本当に奇妙なものだよ……」


「どうしたんです、いきなり悟りを開いたかのようなことを言いだして」


 俺の呟きに、同じような姿勢で頬をテーブルに当てているロアがぼそりと反応する。最初は『私は予想されていない人員ですので』と固辞していたロアだったが、ヴァルさんをはじめとした俺たちの熱烈な勧誘によって引き留められていた。


 俺たちが今いるのは、ムルジさんたちが管理している道場に併設された宿泊スペースだ。トレーニングメニューが長丁場になったりしたときとかに使うものらしいが、最近はもっぱら門下生やヴァルさん、ムルジさんたちのくつろぎスペースとして使われているらしい。


 俺たち五人が宿泊できるだけの設備もあるらしいのだが、流石にそれは辞退しておいた。そこまで気遣ってくれる気持ちは嬉しいが、二人だけで話したいこととかもあるだろうからな。


 そんなわけで、俺とロアはのんびりと料理の完成を待っている状況だ。何か手伝いをしたい気持ち自体はあるのだが、その反面体はさらなる休息を求めていた。


「……ロア、明日まともに歩けそうか?」


「どうでしょうね……下手するとすごく不格好な歩き方になってしまいそうなのが心配ではありますが、全く歩けないことはないと信じたいところです」


 これでも鍛えてきてはいるんですから、とロアは鼻を鳴らす。疲れ切っている姿で言われてもいまいち説得力には欠けるが、それでもロアの方がトレーニングに早く適応していたのは事実だった。


 スタミナとかは年齢差の問題もあるし、自然に解決されるものだろうからな。ロアが俺くらいの年になるころには、きっと今積み上げているものの成果が出ているだろう。そうなったとき、俺も同じように成長できていることを祈るばかりだ。


「……そういや、一つ聞きたいことがあったんだけどさ」


 そんなことをのんびりと思っていると、あのカフェで聞き損ねた疑問があることを思い出した。それはロアという人物をすこしだけ理解したからこそ生まれてきた疑問で、その答えによってはこの先の人間関係を変えかねないようなものだ。


「……なんでしょう。もう変に隠し事をする関係でもありませんし、大体の事だったらお答えしますよ」


「ああ、そいつは助かる。それじゃ、単刀直入に行くんだけどさ――」


 そこで一度言葉を切り、俺は大きく息を吸い込む。単刀直入に行くとは言っても、それを実行するまでには多少の勇気が必要だ。それをしっかり心の中で取りそろえて、顔をロアの方向に向けて――


「……お前、ゼラに相当気に入られてるっぽいだろ? その事、お前はどう思ってんのかなー、って」


――彼女をして『天才』と言わしめた少年の名前を、口に出した。


少しずつ関係性は変わりつつ、前々から存在していた関係性にも話は広がっていきます。マルクたちの奮闘の先にその関係性は変わるのか、それとも現状維持なのか。まだまだ続く王都編、楽しみにしていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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