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第五百十一話『速さの才能』

「スピード感というのは戦局を体験するために不可欠なものですからね。……それが欠如しているというのは、後衛に引きこもりがちな私たちにはありがちな事です」


「人によっても様々ですし、それに合わせることの難しさは否定できませんけどね。なんにせよ、最高速度を高めておけば対応できる幅が大きく広がるのは事実っすよ」


 ロアの意見を肯定するかのように、ムルジさんはしみじみと頷く。トップスピードを上げることでその疑問への解答としているのは、スピード感あふれる戦闘をするムルジさんらしかった。


「……でも、それが身に付けば苦労はないというか……速度がいると言っても、今から俺たちがそれを身に着けるには相当な時間がかかりませんか?」


 努力しても足が速くなることは中々ないように、速度感というのは割と天性のセンスにかかるようなものがある。仮に俺が図鑑じゃないものを神に願っていたら、俺がバリバリ前線で戦うようになっている未来だってあり得るかもしれないしな。……まあ、そんな可能性はほとんどあり得ないわけだが。


 俺のその指摘にも、ムルジさんはこくりと頷く。自分の足を軽く触りながら、ムルジさんはゆっくりと口を開いた。


「……まあ、それに関しても否定できないっすね。速度感は才能の依存度が高くて、その壁に打ちひしがれて前衛職を諦める人も多いっす。……うちの道場では、って話っすけど」


 肩を竦めながら、ムルジさんはどこか悲しそうに語る。それに追随するかのように、ロアも小さく首を横に振った。


 その表情は冒険者のロアというより、バルトライ家のロア、試験官としてのロアに近いような感じだ。その眼には、今まで見て来た冒険者の姿が映っているのだろうか。


「……冒険者の皆さんが目指す姿と、その適正がかみ合っていることはとても稀ですから。ゼラやミズネのように、自分の望むことを望むように実現できる才能がある事はとても稀で、幸せな事なんですよ」


「冒険者が最初に立つ岐路の一つっすね。自分が本当にやりたかったことを貫き通して遠回りをするのか、自分の適性を最優先することで実力を高めることを優先するのか――そこに、答えなんかない気もしますけど」


「答えがない問いに挑み続けるのもまた冒険者の定め、ですからね。挑むことをやめた瞬間、冒険者としての格は一段落ちると言ってもいいでしょうし」


 ロアの口調は厳しいが、それは同時に自分にも跳ね返ってくるものだろう。あえて自分に厳しいノルマを課すようなその言葉は、自分の退路を断つための言葉にも思えた。


「成長を止めないことが冒険者の絶対条件なんだとしたら、この街で冒険者と言い続けられる人はそう多くはないでしょうけど――まあ、その志の高さは大事な事っす。……なんで、オレからは少し視点を変えた提案をさせていただきましょう」


 そう言って、ムルジさんは唐突に話し合いの席を立つ。近くの棚にまで軽く一往復してきたムルジさんの手には、小さなボールが握られていて――


「速度は速度でも、一番経験による成長が見込める速度――反応速度の特訓なんて、いかがっすか?」


 軽くボールを投げる仕草をしながら、ムルジさんは楽しそうな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

最近短めでごめんなさい! ヒロトとロアの修業編もどんどんひろがっていきますので、二人の奮闘を温かく見守っていただければ幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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