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第五百十話『必ずぶつかる壁』

「はあ、はあっ……」


「はい、お水をどうぞ。しっかり息を整えてくださいね」


 あんな動きを見せつけたあとだと言うのに、ムルジさんは疲れをおくびにも出さずに俺たち二人に水を差し出してくる。それを思い切り喉の奥に流し込むと、体中に冷たさが染み渡ってきた。


「あれほどの動きを見せてなお余裕あり、ですか……。私が思った以上に、あなたとの距離は遠そうですね」


「そりゃ長いこと冒険者やってませんもん。最大出力はともかく、持続力だけはちゃんと鍛えておかなければというものっす」


 少なくともいつでも離脱できるくらいの体力はね、とムルジさんは得意げにこぼす。あの旅慣れた感じからも想像はついていたが、年の差以上に戦闘経験の差は大きいようだった。


 ま、こちとらこの世界に来てまだ二ヶ月とちょっとなんだもんな……。そこまでで過ごした時間が濃すぎて忘れそうになるが、俺はこの世界じゃまだまだひよっこもいいところだ。一人で戦った経験だって、本当に最初の最初だけしかないわけで。


「俺、思った以上に周りに頼った戦い方してたんだな……」


「後衛術師はそんなもんすよ。その殻を破って進んで行こうとするんだから、壁にぶつかるのも無力感に苛まれるのも当然っす」


「万能な冒険者など王都にも数えられるほどしかいませんからね。ゼラは近接戦闘に特化し、ミズネさんは遠距離からの殲滅に特化しているように……まぁ、あの二人はその規模が違いすぎて比較するには難しいのですが」


 軽く肩をすくめながら、ロアは俺たちの差をそう分析する。その言葉にはやっぱり羨望の思いが透けて見えるような気がして、俺の心がチクリと痛んだ。


 俺は、あの二人を羨ましいと思えているだろうか。その力の陰に隠れているうちに、見上げることすら忘れてしまってはいないだろうかーー


「……それを正すために、今俺はここにいるんだろうが」


 ふと浮かんできた疑問をそう切り捨てて、俺は二人の方を向き直る。さっき飲んだ水が体に回ってきてくれているのか、戦いの後の倦怠感も少しはマシになってきてくれたところだった。


「ヒロトさん、どうかしましたか?」


「いいや、なんでもない。それよりもほら、早いとこ反省会といこうぜ」


 二人がその話を保留してくれていたのは、俺の疲れがまだ取れてないことを気遣ってくれてのことなのだろう。道場の一角に座り込んで二人に話を促すと、ムルジさんは軽く咳払いをした。


「そうっすね。……と言っても、反省点はもう見えてますが」


「課題は明確ですものね。……あとは、それに対して私たちがどう答えを出していくか、と言うところだけが問題なわけで」


「はい、その通りっすね。俺に、ひいてはゼラさんやミズネさんに並んでも胸を張れるようになるために、二人に足りないものってのはーー」


 そこで言葉を切って、ムルジさんは俺たちを一通り見回す。そして、軽やかに二、三度跳躍を繰り返すとーー


「飛び抜けた人たちの戦闘に喰らいつくだけの速度。……あらゆる行動に対するスピード不足が、お二方にとっての一番の課題っす」


 迷わずそう言い切るムルジさんの言葉に、俺の隣に腰掛けるロアは大きく頷いた。

今のままの自分から脱却すべく、二人の特訓はまだまだ続きます!提示された課題にどう向き合っていくのか、次回以降も楽しみにしていただければ幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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