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第五十話『パーティの志』

「パーティ名……重要だと思っていたのだが……」


「ミズネったらまだ言ってるの?エイスさんの呼び出しもあるし、とりあえずその話は後回しよ」


――ミズネの提案から少し。俺たちは横一列に並んでキリさんの背中を追っていた。


 ふと隣を見れば、しょぼくれた表情をしているミズネをネリンがたしなめているところだった。パーティを正式に組んでからというもの、前に比べてミズネの感情表現が豊かになったような気がする。少し意外ではあるが、それがミズネ本来の性格にも思えてほほえましい限りだ。


 談話室に集合した俺たちがなんでまた歩いているかと言えば、キリさんが唐突に『あ、そういえば長老に伝言を預かったんです』なんて爆弾発言を放り込んできたからだ。

重大(?)な問題であるパーティ名を決めようとしていた俺たちだったが、そう言われては流石にキリさんについていくしかない。


 そんなわけで俺たちは今とことこと歩いているわけだが、発案者であるミズネはいまだにそのことにご不満の様だ。


「キリめ……成長してもその忘れっぽさは相変わらずか……?」


「仕方ないじゃないの、私だって忘れたくて忘れてるわけじゃないんだから。……それに、ほっといたらいつまでもヒロトさんとネリンさんを振り回しそうだったし」


 姉からの恨み言に、キリさんは振り返りすらしないでそう受け流して見せる。ミズネの思い出語りを聞くにもっとミズネにベッタリなのかと思っていたが、どうも二人の絆は思った以上にさっぱりしているようだ。……二人とも見かけ以上に年を重ねている以上、そうなるのも自然な話なのかもしれないが。


「……さ、つきましたよ。……といっても、あまり変わり映えのしない場所でしょうけどね」


 しばらく階段を下ったのちにキリさんは足を止め、木でできた扉を開く。その部屋はさっきまでいた談話室と同じレイアウトだったが、一つだけ明確な違いがあった。


 というのも――


「……すみません、完全に伝言を忘れてました」


「よいよい、病み上がりの身じゃからな。ワシも待つ時間分サボ……いや、思索にふけることができて何よりじゃ」


 キリさんが部屋に入るなり頭を下げたのは、小さな体を大きな椅子に思いっきり預けたエイスさんの姿だった。言動の一部に私情が混じっている気がするが、そこはまあ聞かなかったことにしておこう。


「朝早くから呼びつけてしまってすまぬな。聞きたいことが少々あっての、善は急げの格言に従って呼びつけた次第じゃ」


「そういうところだけは優秀な考え方をなさるんですね……」


 朗らかな表情で俺たちに事情を説明するエイスさんに、会議を打ち切られたことをまだ根に持っているらしきミズネさんがじっとりした視線を向ける。それがかなり効いたのか、エイスさんはすっと目をそらしながら咳ばらいを一つ。


「お前たちはパーティを組んだのであろう?ということは、新たなる拠点を構えて動くということじゃ。今日呼び出したのは、そのあたりの支援の話をじゃな……」


「拠点?……カガネの町で固定しようかと思っていますが。なあふたりとも?」


「話が速すぎないかの⁉」


 気まずさを誤魔化すように話を切り出したエイスさんの疑問を、ミズネが食い気味に切り捨てる。視線を向けられた俺たちが軽く頷いて見せると、エイスさんは驚きの声を上げた。


「私も拠点に持ち家はありませんし、なら駆け出し冒険者の二人の町に拠点を構えた方が効率的かと思いまして。カガネは大都市だと肌で感じたのもありますしね」


「そ、そうなのか……」


 早口で説明して見せるミズネに、エイスさんは若干引き気味だ。こんなに饒舌なミズネは見たことがないが、もしかするとエイスさんも同じなのかもしれない。


「そこまで会議を遮られたのがイヤじゃったか……子供みたいな側面は相変わらずじゃな」


「お互い様ですよ、長老」


 やれやれと息をつくエイスさんに、ミズネは肩を竦めてみせる。昨日までの二人はやる気のない社長と冷静な秘書といった感じだったが、今日の関係性は年の離れた姉妹のようだ。


「まあ、拠点にする町が決まっているのはよいことだ。カガネという町の名はワシも聞いたことがあるしな。……して、次の質問が本題じゃ。お前たちは、どういう冒険をしていくのだ?」


 エイスさんはふっと目を瞑って気分を切り替え、真剣な目線を俺たちに向けてくる。その目にあったのは、長老としての責任だった。


「ミズネよ、いくらお前が外に向かっても、ワシらエルフはお前の行く先を憂いておる。老婆心はうっとうしく思うかもしれぬが、最後のお節介だと思って答えてほしい。……お前たち三人は、何を見据えてこの先を進んでいくのじゃ?」


 真剣な目線が、俺たち三人を捉えている。長老という立場を背負ってするこの質問は、ミズネさんが好かれているからこその質問なのだろう。それに、俺たちが介入する隙間はない。


 俺はごくりと息を呑みながら、ミズネの回答に耳を傾けて――


「……私は、ずっと人里で一人生きてきました。ですが、これからは違います。…………この二人が目指す先なら信頼できると、そう思ったからです」


――左右に視線を振るミズネと、視線がまっすぐぶつかった。「次はお前の番だ」と言わんばかりに、俺たち二人に視線だけで促している。どうもミズネは、俺とネリンの方針に従う気満々のようだった。


――え、そんなことある⁉

今まで奔放な部分が目立ってきたエイスですが、しっかりと長老らしいこともさせたいなーと思っていたのでここでできてなによりです。ミズネの子供っぽい部分もこれから表出してきたりと、関係性の変化もお楽しみいただけたらなーと思っています。これからの物語の方向性が定まっていく次回、二人の言葉をぜひお楽しみにしていてください!

―ーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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