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第五百六話『私が誇れる生き方を』

「共同戦線、って……『同じ目標を共有して頑張る仲間』くらいの認識で言ってたってことで大丈夫か?」


「ええ、そうですね。お互いにお互いのコンプレックスを倒すことなんてできませんが、同じ苦しみを味わい、ともに藻掻けるというだけである程度気は楽になるものでしょう?」


 俺の確認に、ロアは少し微笑みながらそう返す。同じような境遇を抱えた人に出会えたのがよほどうれしいのか、いつもより声のトーンが数段高いような気がした。


「王都というのは当然国内でもトップレベルの都市であるわけでして、ここを訪れるような人たちは大体劣等感なんてない方々ばかりなんですよね……さすがは王城のおひざ元、とでもいうべきでしょうか」


「あーー……。それは、確かにきついかもな……」


 なんかうっかり進学校に入ってしまったはいいもののそこでの勉強に全くついて行けない、みたいな感じだろうか。少なくとも、俺が想像したのはそんな光景だ。……俺の数少ない友達、今でもあの学校で必死に食らいつこうとしてんのかな……。


「でしょう? 私の苦しみは、この王都という街にいるからこそ、バルトライ家に連なる者だからこそ中々共有できないものなのですよ。バルトライ家は、常に冒険者の規範であらねばなりませんから」


「それであのちょっとドライな態度、ってことか。なんつーか、急にいろんなことが腑に落ちて来たな……」


 アレは不愛想という訳ではなく、ロアなりの努力の一つだったというわけだ。それが努力と気づかれていないあたり、ロアのやり方は成功していると言えるのかもしれないが。


「……でもそれさ、やればやるほど余計に追い詰められていくだけじゃないか? 今も冒険者連中は、お前がバルトライ家で頑張ってることを知らないわけだしさ」


「ええ、おっしゃる通りでしょうね。……私も、そうおいそれと今までつけて来た仮面を外すことはできません」


「……だよな。俺と違って、お前は後ろに背負ってるものが違いすぎるし」


 弱みをさらけ出してみろとか簡単に言われるが、実際そんなに簡単なわけじゃないのだ。弱いままでも少しずつ進んでいけばいいと言ってくれる俺の仲間たちが特別なだけで、現実はそんなに優しい事ばかりであっちゃくれない。


「誰にも悟られないようにひっそりと、だけど確実に成長はしなくちゃいけない。……苦しいとか、思わないのか?」


 ロアの歩く道は、茨の道と表現してもなお生ぬるいと感じざるを得ないものだ。その茨が終わることはなく、ロアがバルトライ家の一族として過ごしていく以上ずっとずっと続いていくものなのだから。


「そう……ですね。あなたの言葉通り、私の努力は当然のものとしか受け取られません。仮に私が血の滲むような修練の末に輝きを放ったとしても、外野の人間からは『バルトライ家の血があるから』という解釈で終わってしまうでしょう。……ですが、それを理由に歩む足を止めるつもりは毛頭ありません」


 その問いかけへのロアの答えは、いつも以上にゆっくりと、辿々しく紡がれたものだ。ロアの中でもその答えに辿り着くまでにはきっと距離があって、色んな葛藤があったんだと思う。


 だが、最後に俺を見据えて放たれた答えにはその一切がなかった。全て振り払われていた。……いっぺんの曇りもなく放たれた肯定の言葉に、俺は思わず息を呑む。


「私はロア・バルトライです。私がバルトライ家の人間としてふさわしい生き方をしているかは、誰よりも私自身が知っています。……今はまだ誰かを見上げるばかりでも、最後に自分が誇れる生き方をしていればそれでいい。道半ばで誰かの力を借りることのどこに恥ずかしさがあるものですか」


「……ロア」


「だから、私はあなたの力も借ります。私の気持ちをおそらくこの街で一番知ってくれているであろうあなたと、私は一時でも肩を並べて歩いてみたいのです」


 そう締めくくって、ロアは俺の方に片手を差し出してくる。その志はあまりにも眩しくて、憧れで。……俺も、自分に誇りを持ってあいつらの隣に並べるようになりたいと思った。他の誰でもない、自分自身が自分のことを認められるような冒険者になりたいと思ったからーー


「……お前の提案、喜んで受けることにするよ。改めてよろしくな、ロア」


「こちらこそ、あなたがいてくれて本当に嬉しいです。……これからよろしくお願いしますね、ヒロトさん」


 ーー差し伸べられたその手を握り返すと、ロアの表情が安心したかのように緩む。俺たちの共同戦線が、ここに発足した。

ロアの生き方というのは、今自分に対して迷いを抱えているヒロトの一歩前を行くようなものです。そんなロアと行く共同戦線がヒロトをどう変えていくのか、楽しみにしていただければ嬉しいです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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