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第五百話『積み重ねた先の今』

五百話です。一年半毎日休まず続けてたら、いつの間にか四桁までの中間地点を折り返してました。だからと言って特別な何かがあるわけでもございませんが、ここまでヒロトたちを見守ってきてくださった皆様に最高級の感謝を送らせてください。

……それでは、王都生活三日目の様子、どうぞ楽しんでいただければ幸いです!

「おはようございます。昨日は初めてのクエストだったわけですが、休養はしっかり取れましたか?」


 朝の噴水通り。昨日と同じようなすました様子でたたずんでいたロアが、俺たちに向かってそう問いかけてくる。昨日と違うところと言えば、男たちに絡まれていないところと――


「大丈夫だよね。昨日温泉行ったし、その後もゆっくりしてたんだもの」


 ロアが無事でいた大半の原因であろうと思われる少年――ゼラが、笑顔を浮かべてその隣を死守しているところだった。


「まあ、ゼラの言う通りではあるな。王都だからこそできることを目いっぱいするというのは楽しいものだったよ」


 背中に携えた魔剣の柄に触れながら、ミズネはゼラの言葉を肯定する。街中でも肌身離さず持ってるの、本当にこの魔剣に惚れ込んでるってのが分かるな……。鞘もしっかり黒をベースにしているから、かなりいかつく見えるのはご愛敬という奴だろう。


「まだまだ王都の冒険者としては駆け出しだしね。こんなところでへばったとか言ってられないわよ」


 少しふにゃふにゃした表情を浮かべるミズネの隣で、ネリンが真剣な表情でそう答える。昨日の話を聞く限りゼラを一番警戒しているのはネリンの様だし、肩肘張っているのもまあ仕方ないといった感じだった。


 結局のところ、新しく生まれた懸念達への対応は『今までの情報を頭の片隅に置いておく』というのが限界だからな。警戒するべきことは多くても、その中のいくつが実現するか分かった物じゃないからな。起きてもない出来事全てに警戒してたら俺たちの方が保たなくなるのが目に見えている。


 そんなわけで、今日も今日とてやるべきことは変わらない。俺たちはこの街の冒険者の一員としてギルドに向かい、課せられた目的を果たす。……何事もなく、危険もなくこの充魔期を切り抜けるための最善手はそれでしかないからな。


「正直なところ、この街の冒険者ははたらきすぎているように思えるからねえ。明日の環境が保証されてないってのは確かにただ事じゃないけど、それにしたってローテーションを回して休みなりなんなりを作ればいいだろうに」


「ここのパーティや冒険者たちの適性を踏まえてそれを考えているうちに一日が経過しますし、それを冒険者たち全員に周知させるのにまた一日かかります。充魔期が来ることが予期できていればそのようなことも可能だったのでしょうが、今の状況からそれを始めるのは無理筋でしょうね」


「そうそう、冒険者ってのは自由だからね。場合によっては一日で終わらないクエストもあるわけだし、周知するって簡単に言ってもそうホイホイ行くものじゃないんだ」


「所在がつかめない人代表が言うことではないですが、まあゼラの言っていることで間違いはありません。……その考え方自体は、とても素晴らしいアイデアだと思いますが」


「お褒めに預かり光栄だよ。予想通りというべきか、冒険者って生き方はどこでも自由な物なんだね」


「俺が知る限り一番自由な職業だしな。それと同時に一番厳しい職業だとも思うけど」


 俺がネリンにもミズネにも、そしてアリシアとも出会えていなかったとしたら、今この瞬間も俺はきっと冒険者としては小規模な仕事しかできていなかっただろう。自分の力で生活を切り開いていけるというのは、裏を返せば自分が力を尽くさなければ何も変えていけないということでもあるのだから。


「冒険者にはいつだって責任が付いて回るものですから。自由に生きるためには様々な制約を受けたうえでそれを乗り越えなければならないというのは、皮肉な話ではありますがね」


「最初から自由とはいかないのは他の職業と一緒だな。私も、何事も師匠の指示を受けたうえで動かなければいけない時期があったものだ」


「へえ、貴方ほどの実力者にそんな時期が……エルフの魔術修行って、僕達がやっているような訓練と違っていたりするのかい?」


 過去を懐かしむミズネの言葉に、ゼラが興味ありげな反応を示す。それに対してミズネは微笑を浮かべると、ゆるゆると小さく首を横に振った。


「いいや、そんな特別なものは多くないさ。私たちも初めは基本から、それが出来たら次の段階へと進んでいく。エルフと人間に違いがあるとするならば、その研鑽に長くの時間をかけられることと魔術を取り巻く環境の二つだけだろうな」


「時間の長さ、かあ……確かに、エルフは長いスパンで物事を見ることが出来そうだものね。そりゃ土台作りに途轍もない時間をかけることが出来るわけだ」


「その上に応用などの技術が磨かれていくからこそエルフの魔術は完成度が高い、と。……これに関しては、私たちにも教訓として生きるものかもしれませんね」


「何事も基礎基本を怠るべからず、ってな感じか。……どこの世界でもどの業界でも、その事実だけは変わらねえな」


 一足飛びに何かを身に着けることなんて本当は難しい事で、しっかり積み上げた先に自分だけの形とか強さとかは見えてくるもので。……多分、それを確立できた人から冒険者として花開いていくのだろう。ミズネもしかり、ベレさんもしかり。……俺も、いずれは自分なりの答えを見つけ出せるのだろうか。


「そうですね。……ですので、今日も明日のための積み重ねを冒険者の皆さんと行っていただければと」


「ああ、そうだね。……それじゃあ、今日もお仕事と行こうか」


 今までの流れを上手くまとめたロアに、アリシアが軽く伸びをしながら同調する。今日も今日とて、俺たちは王都での一日を積み上げることになりそうだった。

二週間の王都生活ですが、流石に毎日毎日事件が起こるわけではございません。たまにはのんびりと、そして朗らかに進んでいくこともあると思いますので、次回以降はそこをもう少し描いていけたらなあと思います、どうぞお楽しみに!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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