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第四百九十七話『バレてた隠し事』

「……ふふ、やはり手触りがいいな……魔術に直接関係しないところにもしっかりと手がかかっているあたり、魔道具という文化への愛を感じるよ」


 上機嫌に魔剣の柄を撫でながら、ミズネは軽やかに街道を歩いていく。あまりにハイテンション過ぎて他の通行人と衝突しないかだけを心配しつつ、俺たちはその背中を追って早足で歩いていた。


 ミズネの方からは普段めったに聞こえない鼻歌まで聞こえてきて、すっかり新しい愛剣に夢中と言った感じだ。あそこまで上機嫌になってくれたなら、買われた魔剣も本望というものだろう。俺たちの意見がどれだけ影響したかは分からないが、買いたいという思いを前面に出してくれたのは嬉しい事だった。


 ちなみに、今まで装備していた剣は丁寧にアイテムボックスへ仕舞われている。あれもあれで高品質なのは間違いないしな。というか、あの剣を作ってもらうためにミズネはカガネへと訪れていたようなものだし。


「……やっぱり、好きなことに触れているときが一番魅力的よね」


「そうかも知れねえな。……俺が同じようなことをやると、周りから奇異の眼で見られそうだけどさ」


 しみじみと呟くネリンの言葉を、俺は一言付け加えながら肯定する。やっぱりそういうのはギャップが大事だし、普段からそこそこハイテンションな俺がやっても皆びっくりするだけで終わってしまうだろう。


「ズカンってジャンルは広く知られていない……というか、この国じゃほとんど知れ渡っていない概念だしね。西の王国は変わった文化が多いっていうし、そこでなら情報も得られるかもしれないけど」


「そういえば、ヴァルさんたちもそんなことを言ってたな。……もし仮にそれが事実なら、西の王国とやらにはいつか必ず行かなくちゃいけなくなるわけだけど」


 黒髪の跡継ぎが時折生まれる王国、だったか。正直どこまで信じていいものかは分からないが、調べるだけ調べておいても悪くはないだろう。転生者の事実とかは資料として世に出ることがないだろうし、集められる情報も基本的なものでしかないとは思うけどな。


「……ま、それよりも今は充魔期の事よね。ミズネもすっかり元気にはなってるみたいだし、仕事もこなして行けるとは思うけど」


「……ん、私のことを呼んだか?」


 ミズネの名前が口にされた瞬間、軽やかにミズネがこちらを振り返る。その顔は満面の笑みに彩られていて、俺たちの後押しが間違っていなかったことを再確認することができた。


「ええ、呼んだわよ。ミズネもすっかり体調は良くなったみたいだし、この先も何とかなりそうねって」


「ああ、もう体に異常はないぞ。もとはと言えばただの魔力切れのようなものだからな」


「ミズネほどの魔術師が魔力切れを起こすとか、割ととんでもないことだとは思うんだよ……」


 あの時はミズネ曰くゾーンに入っていたみたいだし、気づかぬうちに体力の限界をぶっちぎっていても無理はない話なのだが。……つくづく、あの狼がどれだけ恐ろしい存在だったかを再確認させられるよ。ヴァルさんとムルジさんによって報告は済んでいるはずだが、果たしてアレはロアの予想通りの難関だったのか……?


「……ヒロト、難しい顔をしているな。また何か考え事か?」


 あの激戦を思い出していると、ミズネがそんな俺の表情をのぞき込んでくる。その距離感がやけに近くて、俺は思わず飛びのいた。


「いや、何でもねえぞ? 俺たちの戦力もアップしたし、あの時より王都にまつわる謎も解けてきてる。王都に来るまではどうなる事かと思ったけど、そこからは何かと上手く行ってるな、ってさ……」


「うん、確かにその通りだね。……だけど、そうコメントするにはヒロトの表情はあまりに硬すぎやしないかい?」


 とっさに出した言葉としては問題もなく、俺の感想になに一つの偽りはない。……だが、その後ろに隠した懸念を見逃してくれるほど俺の仲間たちは甘くなかった。


「というか、今だけじゃなくてちょこちょこ表情が暗い時があったわよね。……また、何か考えてることがあるの?」


 とうとうネリンまで俺の方に一歩グイッと詰め寄り、俺に対する尋問のような形が夕暮れ時の王都に完成する。……というか、うまく隠せてると思ってたのはどうやら俺だけだったみたいだな……。


「……悪い、お前たちがいないところでいろんな話を聞く機会があってさ。それがどこかで俺たちに牙をむいて来やしないかと心配で、色々考えこんでた」


「……ほう、それは聞き捨てならないな。お前が考え込むほどの情報が私たちに足りていないなら、すぐにでもそれを把握する必要がありそうだ」


「ボクもミズネの方針に賛成だね。まったく、今夜は夜更かしすることになりそうだ」


 別にいいんだけどね、とアリシアは伸びをしながらミズネの掲げた方針に賛成する。ミズネはもうすっかり冷静さを取り戻していて、さっきまでルンルン気分で王都を歩いていたエルフと同一人物だとはとても思えなかった。


「……分かったよ。それじゃあ、早めに宿に移動しよう。あんまり不特定多数に聞かせたい話でもないしさ」


 二人だけでなくネリンからも送られてくる無言の意志に、俺はこくりと頷いて宿へ向かうことを提案する。……どうやら、今日も今日とて長い一日になるのは間違いなさそうだった。

次回、ヒロトの隠し事は全て三人へと共有されることになるかと思います! ヒロトの頭を悩ませていたあれやこれやに的確な答えは出るのか、楽しみにしていただければ幸いです!

ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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