第四百九十五話『至高の魔剣(色んな意味で)』
「……さて、どうしたものか……」
かなりのハイテンションで市場の中を歩き回り、度々ノリノリの講釈をくっつけてきていたミズネ。その足取りは実に軽やかなものだったが、その動きはとある魔道具の前でピタリと止まっていた。
「……ミズネ、それ買いたいの?」
「……ああ、少し迷っている。あれば確実に役に立つものではあるのだが、いかんせん私が使う機会もそう多くないもののような気がしてしまっていてな……」
ネリンの問いかけに、ミズネは迷いながらも首を縦に振る。その視線の先には、かなりの大きさの魔剣が立てかけられていた。
アリシアやネリンが主武装としている剣のサイズよりも一回り大きく、このサイズの剣を携帯しているのはパーティで言うとミズネだけだ。ちなみに俺の武器はアリシアたちのよりさらに一回り小さい。
ミズネが迷っているのは、そういう事情によるものもあるのだろう。ミズネは近接戦闘にあまり剣を用いるタイプではないし、魔剣を買ったとしてもどれだけ使用機会があるかは怪しいものだ。じゃあ使わないときは近接戦闘組に課そうという発想に至るわけだが、それにしたってサイズが一回り大きいわけだし。
「かなりデザインも術式も私好みなのだが、魔剣使いになることのメリットが私にないのが辛いところだな……こういう時ばかりは自らの適性が憎いよ」
「何でもできちゃうからこそ、ミズネのやり方には外部からの出力を必要としないものね……それだけ聞くと、少し皮肉なものを感じるな」
「あたしは別に買ってもいいと思うけどね……。その剣、使い切りで終わるってわけでもないんでしょ?」
他の魔道具たちみたいに、とネリンはさっきまで通ってきた使い切り魔道具の机を見やる。あれはあれでいくつか購入を決定しているくらいには魅力的なものだったが、その質問に大きく頷くミズネにとって魔剣というのはそれを更に凌駕するもののようだった。
「必要ないと分かってはいたが、やはり遠目から見るのとこうして手に取れるくらいの距離で見るとでは話が違い過ぎてな……。私にもその真価を発揮しきれるか分からない代物であるが、こういうのを見ると好奇心がうずいて仕方がないんだ」
「ミズネ、意外とコレクター気質もあったんだな……。その気持ちもよくわかるよ」
図書館で借りて図鑑を読むのもいいけど、出来ることなら自分のお金で買いたいって気持ちは俺にもあったしな。よく読むジャンルの奴ほど衝動的に読みたくなるし、本当に突発的なそれに対応するためにはやっぱり手元に置いておくのが一番なのだ。図鑑は一冊一冊の値段が馬鹿にならないし、そんなに多くは買えてなかったんだけどな……。
そんな回想にふけっていると、そういえばまだ魔剣の値段についての話がされていないことに気が付く。いったい使い切りの魔道具何個分になるんだと、ミズネと並ぶくらいにまで魔剣に近寄ってその値段を確認して――
「…………たっっっか……」
「やはりヒロトもそう思うか。決して買えない金額ではないが、どうしてもその辺りはひっかかってしまうよな……」
俺が軽くのけぞる隣で、ミズネは神妙な表情で頷く。正直高いなんてカテゴリーからもはみ出してしまいかねないくらいに、その魔剣は高級品と言ってよかった。
予算を使いすぎないように、と一番注意を払っていたのがミズネなわけだが、これを買えば間違いなく予算はオーバーする。それも余裕で。もちろんそれのせいで破産するくらいギリギリな予算を組んでいるわけでもないのだが、これから王都で受けるクエストの一つ一つで俺たちは必死になってその超過分を取り戻すために奔走しなくてはならなくなるだろう。
「……だが、値段分の性能がある事は私が保証する。この剣に刻まれている術式はとても精密なものだ。決して損をすることはない。……と言っても、ためらいは残ってしまうが」
「そりゃそうだよな……ほら、二人もこっち来て見てみてくれ」
後ろから俺たちのやり取りを興味深そうに見つめている二人に手招きして、値札が見える距離にまで誘導する。……すると、価格が見えるなり二人ものけぞるようにしながらこちらに視線を投げてきた。
「これは……確かに、躊躇っても仕方のないレベルのお値段だね……」
「ミズネが言うからには買って損のないものではあるんでしょうけど……。こればっかりはあたしだけの意志じゃどうするかは決定できないわね……」
二人揃って、目の前の魔剣に対してもはや畏敬と言ってもいいレベルの感情を抱いている。まぁなんにせよ、これで俺たち四人の見解は出揃ったわけだがーー
「……さて、本当にどうしたものだろうな……?」
金欠覚悟でこの魔剣を買うか、それとも歯噛みしながら見送るか。……この魔剣の価値を確認すればするほど、その決断は究極の選択と言っていいものに思えてきた。
この魔剣、買うべきか買わざるべきか!一向がどんな決断を下すのか、ぜひ次回もお楽しみにしていただければ幸いです!
ーーでは、また明日の午後六時にお会いしましょう!