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第四百九十二話『憧れは意外と近く』

 俺たちが見たことがある魔道具というのは、大体手のひら大のものばかりだった。一度きりの術式を消費して、どんな人でも一瞬だけ魔術師へと変貌させる文字通り魔法のアイテム。キャンバリーが見せてくれた工房にあった作品たちは――なんというか、魔道具の枠には収められないだろう。


 とにかく、俺から見た魔道具のイメージは大体そんな感じで固まっていた。あくまで脇役というか補助具のようなもので、それ以上の存在に成ることは中々ないと思っていたのだが――


「……これは、確かにすごいな……」


 店全体に置かれた魔道具の数々を見回して、俺は思わずそう呟く。見慣れたカプセル状のものからまるで剣のような形をしたものまで、俺の知らない魔道具が所せましと机に並べられている。


「……これ、全部魔道具なの?」


「勿論。魔道具というのは何も使い切りの術式を刻んだものだけを指すのではなく、魔剣や魔銃というのもある種の魔道具のようなものだからな」


「へえ、結構いろんな分岐があるんだね。それもドワーフの研究によって広がった物なのかい?」


「それに加え、魔術そのものに長けたエルフの協力があってさらにその研究は加速したという話だな。エルフとドワーフが友好関係を結ぶようになってからというもの、ドワーフが術式として刻めるようになった魔術の数は大幅に上がったらしい。それが……確か、四百年前とかの話だったか」


 記憶の蓋を開けるかのようにこめかみに手を当てながら、ミズネは俺たちに向けて臨時の魔道具講座を開講する。四百年前というと、俺より先に来ていた転生者がこの世界の異種族たちを取りまとめることができたくらいの年代だろうか。


 些細な不満点から始まった取り組みがまさかこんなに大きな変化をもたらしていたなんて彼が知ったら、どんなリアクションをするのだろうか。……やっぱり、喜んでくれるんだろうな。


 そんな感傷に浸りつつも、俺は『魔銃』というワードがミズネの口から放たれたのを見逃さない。クレンさんに限って後ろめたい事情なんてないと思いたいが、どう考えてもキャンバリーが一枚噛んでいそうな魔銃を所持しているという事実は俺の頭の中にずっとひっかかっていた。


 懇親会の時も思ったけど、キャンバリーは思った以上に忍んでないんだよな……。まああの日記も研究所と娘を残してカガネを離れるからああいうふうに結んだだけで、本人は思った以上に前向きだったのかもしれないけどさ。


「……ヒロト、どうかしたか?」


「あいや、何でも。魔道具の持つ可能性は無限大なんだなーってぼんやり思ってただけだ」


 ミズネから向けられる視線に、俺は目を瞑ってそう答える。引っ掛かることも気にかかることも数多いが、それを抜きにしても目の前に広がる魔道具たちが無限の可能性を秘めているのは俺に新鮮な驚きを与えてくれていた。


 そんな俺の両隣では、ネリンとアリシアも魔道具の山に目を輝かせている。なんだかんだでロマンチストな二人には、この光景はとてもお気に召したようだ。


「剣に銃に、長いこと使えそうな魔道具もたくさんあるね……ボクもいつかは魔道具を交えて戦えるようになりたいものだ」


「あ、それいいわね。冒険者としての知識もある程度溜まって来たし、今なら魔道具のことをもっと理解したうえで使えるかも」


 魔剣使いって肩書も魅力的だしね、とネリンは笑みを浮かべる。事実としては魔道具機能を持った剣を使っているだけでも、『魔剣使い』と言われればその姿はやたらとかっこよく思えた。


 俺も魔道具を上手く使ってみたいものだけど、俺の適性は後衛だからなあ……クレンさんが持ってるみたいな魔銃なら扱えるかもしれないが、『魔剣使い』花谷大翔が生まれるのは相当先の話になりそうだ。


「それじゃあ、カガネに戻ったら改めて魔道具を扱う練習をしようか。こういうのは思い立った時が習得に一番向くというしな」


「ほんと? じゃあミズネ、先にここで使えそうな魔道具を探さない?」


「ああ、最初からそのつもりさ。ここ以上に高クオリティで多岐にわたる在庫がある魔道具店もないだろうからな」


 ミズネが頷くのを見て、ネリンの表情がぱあっと輝く。冒険者としてもう一段上のステップに進むための道のりは、意外と遠くない場所にあるようだった。


「訓練もなしに使うのはリスクがあるし、買ってもこの王都にいる間は使えないかもしれないけど――まあ、いいものを買っておくことに越したことはないよね。ミズネの言う通り、趣味と実益をとことん兼ねた時間になりそうだ」


「そうだろう? 分からないことがあれば私に聞いてくれ、お前たちに向いた魔道具の種類もなんとなくは思い浮かんでいるからな」


 やはりこういう空間はテンションを上げさせる傾向にあるのか、最早みんなあふれ出る好奇心を隠そうとしていない。あちらこちらに視線をなげる皆の眼はきらきらと輝いているし、多分俺の眼もみんなと同じように輝いているだろう。


「……さて、こういうのは順路通りに回るのがマナーだな。せっかくだから、お前たちには改めて魔道具マスターになってもらおうじゃないか」


 まずは知識からな、と告げて、ミズネは軽やかに足を進めていく。――その後を追って歩き出す俺たちのテンションは、間違いなく王都に来てから一番高まっていた。

ということで、魔道具店巡りスタートです! 王都に来てから一番のハイテンションにあるヒロトたちの姿、是非楽しんでいただければなと!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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