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第四百八十七話『湯の呪い?』

「……一回目は転びかけて二回目はのぼせるとか、あんたは風呂に関する呪いでもかかってるわけ?」


「……いや、そんなものをかけられた覚えはねえんだけどな……」


 未だソファーに寝転んで体を休めている俺に、ネリンの呆れたような表情が降り注いでくる。確かに風呂に入るたびに何かが起きているのは事実だが、呪いというのはあまりにも大仰なんじゃないだろうか。


「何とか大事にはならないでいるし、呪いだとしても優しい類ではあると思うけどね。……まあ、風呂限定の呪いって何なんだって話を先にするべきだとは思うけどさ」


「そうだな……。そんな呪いが実在すれば、だけどな」


 なんでアリシアもしれっと呪いが実在する方向で話を進めているんだろう。呪いなんてものは地球ならではの文化でしかないと思っていたから図鑑で調べることもなかったが、もしかしてこの世界にも呪いの類は存在してるのか……?


「呪術師にかかればできないこともないだろうな。……する意味は全く分からないが」


「ミズネが分からないならもう誰にも分かんねえよ……」


 というか、出来るには出来るのかよ……今のところ大事になってないのはそうだとしても、のぼせるのだって気分のいいものではないから是非とも遠慮させてもらいたいところだった。


「……ヒロトさん。しばらく休んでいれば、体調は回復しそうですか?」


 そんな三人に続くかのように、ロアが俺の顔を見下ろしてそう質問してくる。相変わらず表情は薄かったが、心配してくれているのだということはちゃんと伝わって来た。


「ああ、多分な。ちょっと今また頭痛がひどくなったところだけど、それはのぼせたせいじゃねえし」


 どっちかと言えば主に俺の仲間たちのせいだ。……まあ、そんな気楽なノリでいられてる以上、そんなに深刻そうな話でもないんだろうけどな。本当に顔色が酷かったらアイツらは素直に心配してくるだろうし。


「それにしても、あまり長時間でなくてものぼせることはあるのですね……すみません、配慮が足らず」


「いや、大丈夫ですよ。ちょっと今回は事情が事情だったような気がしますし」


 クレンさんが申し訳なさそうにこちらを見つめてきているが、クレンさんだってゼラのプレッシャーを浴びているはずなのだ。俺がそういうのに弱すぎるのか、それともクレンさんが飛び抜けて図太いのか……。人生経験が違いすぎるし、後者だと信じたいんだけどな。


「……ヒロト、牛乳いる? 今そこで余分に買ってきたんだけど……」


「ああ、ありがたく貰うよ。サンキュな、ゼラ」


 そんな威圧感を放った張本人が差し出した牛乳を受け取り、少し硬めの瓶の蓋をどうにか開ける。それが出来るくらいには力が入るみたいだし、多分本当に軽度なものなのだろう。


 それよりも問題なのは、あの威圧感が自覚ある物なのかそうじゃないというところだ。無自覚のものならそれはそれは厄介だが、自覚して出しているんだとしても中々に面倒なことになる。あれだけのプレッシャーを向ける理由が、少なからず俺たちにはあるってことなんだからな。


 ゆっくり体をおこして、蓋を開けた牛乳をグイッとあおる。冷たい感覚が喉を流れて、ぼんやりしていた頭が少しだけ楽になったような気がした。


「……その様子だと、歩くくらいなら大丈夫ですね。もともと今日はこのクエスト一つで終わるつもりでしたし、ヒロトさんはくれぐれも無理はし過ぎないようにしてください」


「そうだな、肝に銘じるよ」


 あまり活躍の機会はなかったとはいえ、クエストの緊張感ある空気はそれだけで体力を削って来るからな。最近は睡眠時間も不足気味だし、正直疲れ切っているのかもしれない。


「本来ならそのまま解散と行きたいところなのですが、今日はギルドの面々に少しでも認知してもらうという目的もありますので。……もう少し、お付き合いいただくことになるかと」


「ああ、それも大事なことだからな。……これから、そう言った人たちと手を組んで動くことも増えてくるだろうし」


「そうね。いざそうなったときに隣にいる冒険者が信じられないなんて最悪にもほどがあるわ」


 少しだけ申し訳なさそうなロアの申し出に、ミズネとネリンが朗らかに頷く。そもそもこの温泉が寄り道なんだし、俺としてもその計画に異論はなかった。


「そう言っていただけると助かります。冒険者の方々は少し……いやかなりクセの強い方々ですが、皆さん根は良い方たちです。きっと、いざという時には助けになってくれると思います」


「そうそう、僕を筆頭にね」


「少し黙っていてください、変人代表」


 ロアの説明にゼラが頷きながら割り込み、それに対して冷たいレスが投げ込まれる。そんなやり取りもいつも通りで、まだあまり見慣れていないのにすっかりなじみ切った光景だ。他の冒険者の人たちとも、こういうふうに打ち解けられればいいのだが――


「……それでは、ギルドに戻りましょうか。ヒロトさん、立てますか?」


「……ああ、大丈夫だ」


 ロアの声に応えて立ち上がると、それを確認したロアはくるりと出口の方を向く。……ギルドになじむための道のりも、とうとう大詰めが近づいているようだった。

思えばこんなにコミカルなやり取りをするのは久々な気もしますね……。王都編はイベントてんこ盛りでお送りしていますが、こういうやり取りもたくさん入れていけたらなあと思っております。これからも盛り上げていきますので、ぜひ応援していただけると幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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