第四百七十九話『初クエストの意義』
「こんなにびっしり、掲示板に貼られてる物なのね……」
「今の状況において、いちいちクエスト状況をカウンターで説明していてはラチがあきませんので。少々回りくどい方法ではありますが、王都の冒険者が受けられるクエストに関してはここにすべて網羅させるようにしてあります」
「してあります……というのは、貴女が?」
ロアの説明に、クレンさんが確認を取るようにそう続ける。さもそんな感じの振舞い方だったが、ロアは意外にも首を横に振った。
「……いえ、それを決定したのはおじいさまです。いろんな議論がなされましたが、最終的にはおじいさまの発案を越えられる人は現れませんでした」
「……ま、こういうのは単純が一番いいっていうもんな……これ以上のシステムは中々ないだろ」
原始的ではあるが、難易度順にも振り分けられたその掲示板はかなり整えられたものだ。かなりおびただしい張り紙の量になってしまってはいるが、見やすさという点では全然問題はないと言ってもいいだろう。
「ま、あの人を超えるのはなかなか難しいだろうからね……どうせロアも会議に参加してたんだろ?」
「ええ、もちろん。……やはり、お兄様やお父様のように意見を戦わせることはなかなかできませんでしたが」
掲示板を見つめながらのゼラの質問に、ロアは少し悔し気に肩を竦める。――やっぱり、ゼラと会話してる時が一番感情的なんだよな……。
「……まあ、私のそんな話はどうでもいい事です。……貴方たちの初めての仕事をどれにするか、ちゃんと丁寧に見定めねばなりません。何せギルドの皆さんからしたらそれが初めての評価基準になるわけなのですからね」
「そうだな、まずはそちらに集中することにしよう。最初から舐められた状態で交友関係を築くのは難しいからな」
「対等に接してもらうためにまず実績を見せつけてやろう、ってわけね。いいじゃない、どうせやるならそれくらいの気概はなくっちゃね」
ロアの言葉に、俺たちの中でも初仕事の重要性は大きく跳ねあがっていく。しばらくお世話になるところへの挨拶として、これ以上に分かりやすいものもないしな。
「……ところで、ゼラも私たちの初仕事に参加するのですよね? ここまで首を突っ込んできたんですから、ここで足抜けするなんてできると思わない事です」
「まさか、そんなこと最初から考えてなんかいないさ。僕は君の味方をしたくてここにいるんだよ?」
「……そうですか。まあ、それに関してはありがたい申し出なのでありがたく受け取りますが」
ゼラのさわやかな笑顔に、ロアは渋い表情を返してやる。そこにどんな関係性があるかはとことん分からないが、そのやり取りだけを見るとどことなくアリシアとネリンの会話を初めて見た時のようなものを感じた。
腐れ縁――というよりかは、この距離感が普通というか。この二人の関係性はこうやって築かれてきたんだなってことは、俺の目にも何となく理解できた。
「……ゼラさんが来てくれるなら、それなりに難しいクエストでもこなすことが出来そうですね。……そう、例えば――」
きょろきょろと視線をさまよわせながら、ロアはお目当ての依頼書を探し当てる。少し高いところにあるそれを、背伸びしながらもなんとか引っ張って――
「……これとか、いかがでしょう」
そう言って俺たちに差し出された依頼書には、『王都西部の魔獣監視』という物々しい名前が躍っていた。
今回も短めでごめんなさい、ギルドでのやり取りはまだまだ続きます! 一同にとって大事な初仕事選び、じっくりご覧いただければ幸いです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!