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第四百七十六話『交友の足掛かり』

「……なんというか、大変なことになって来たわね……」


 噴水が水を高く吹き上げるのを背にして、ネリンは一連の出来事を総括する。この噴水広場に来てからのカロリーの高さは半端なものじゃなかったのもあって、そんな雑なくくりになってしまうのも納得できる話ではあった。


『それでは、先に戻ってギルドの方に報告をしてまいりますので』とだけ言い残し、ロアは俺たちより先に噴水広場を離れている。別に俺たちと一緒に戻ってもよかっただろうに、何かやるべきことでもあるのだろうか……?


「充魔期……まさかそんなことが、この王都で起こってるなんてね。外から見る分には非常に面白いと言えただろうけど、いざ当事者の一人として巻き込まれることになると少し厄介だな」


 ネリンに続くようにして、アリシアもあごに手を当てて何かしら考えるようなポーズをとる。好奇心旺盛んなアリシアでさえも、充魔期というイベントには警戒の感情が勝ってしまうようだ。


 ミズネが限界まで自分の力を使いつくしてやっと振り切ることができたあの魔物の話もあるし、そう思うも無理はない話なんだけどな。充魔期について図鑑に何かしらの記述が見つかればいいのだが、ここまで隠匿されているとなると書類として世に出ているかも怪しいところだ。


「そんな状況の中で、冒険者としてこの王都にしばらく滞在するんだもんな……ロアの言う通り、これ以上の試験もねえか」


 考えれば考えるほど、俺たちの立ち位置がいかに微妙なものだったかがよく分かる。俺たちからしたら完全に無自覚だったのがまた厄介で、その扱いはギルド側からしても難しいものだったのだろう。


「ロア様……と、言いましたか。バルトライ家の人間が試験官を務めるという話は聞いていましたが、まさかあんな小さなご令嬢が務めることになるのは少し予想外でしたね」


「あ、あたしもそれは思ったかも。話してみたらしっかりしてたし、仲良くやっていけそうな感じもしたけど――」


「あの子の話を聞く限り、バルトライ家というのは相当大きな家のようだからね。多くの人間がいるはずのその家でロアを選んだ理由も気になるところだ」


 ロアのおかげでいくつかの疑問は解決されたが、ロアの存在が生み出した疑問というのも数多い。そういうことも、あいつと過ごす時間の中で少しは見えてくるのだろうか。


「……とにかく、ギルド側に俺たちと対立する気はないってのは安心材料だよな。俺たちだって喧嘩したいわけじゃないし」


「したくてもできるような規模の組織ではないからな。そういう意味では、苦難を乗り越えて王都にたどり着いたことはある程度の箔を私たちに付けてくれているのかもしれない」


 俺の確認に、ミズネはそう見解を付け加える。今のピリピリした王都の中で馴染んでいくための通過儀礼としてあの馬車での旅を考えるなら、ある程度過酷なのも理由は付けられそうだった。


「まあ、それだけでは足りないのも残念な事実ではあるがな。いくらバルトライ家の人間と繋がりを作れたとはいえ、他の冒険者と関わらないでいられるわけもない」


「そうですね。私も昨日足を運びましたが、ギルド特有ののんびりとした空気感はあまりありませんでした。……どちらかと言えば、納期を目前にした鍛冶師たちの気配に近いかもしれません」


「何かに追い立てられているような、そんな感じかな……? 自由が売りな冒険者とは真逆の位置にある物ではあるけど、それも充魔期のせいってみればまあ理屈は通るか」


 唯一肌でギルドの気配を感じて来たクレンさんの言葉に、首をひねりながらアリシアはそうこぼす。俺たちはまだそれを知らない以上確かなことは言えないにしても、カガネのギルドを想像すると痛い目を見てしまうのは確定事項とみてよさそうだった。


「……でも、周りとうまくやっていくことを放棄することもできないんだろ? それなら、何とかしてきっかけを作っていかないと」


「ヒロト様の言う通りですね。その点に関しては、冒険者の方々と年代が近いあなた方の方が適任でしょう。……ふがいない話ですが、私は昨日そうした足掛かりを見出すこともできませんでしたので」


 俺の言葉を受けて、クレンさんはしょんぼりと表情を曇らせる。ヴァルさんたちもいただろうし、そんなに責任を感じることでもないと思うんだけどな……。


「とにかく、交友関係も大事にしなくちゃいけないってことよね。ロアがその仲介役になってくれるかは、まあ微妙なところだけど――」


「――ああ、それは無理だね。だってあの子、相当な引っ込み思案なんだよ?」


 ネリンの疑念に、背後から突然割り込んできた声が答える。予想外が過ぎる闖入者に俺たちが思わず振り向くと、そこには一人の少年が居た。


 少し癖のある灰色の髪に、特徴的な紺色の瞳。この場にいる誰もが知らなくても、俺だけはその顔を、名前を憶えている少年。まさか、ここまで早い再会になるとは思わなかったが――


「……ゼラ、なんでここに⁉」


「ああ、昨日ぶりだねヒロト。……約束通り、色々話すとしようか?」


 銭湯で出会った知り合い――ゼラ・フィリッツアは、俺に向かって茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。

ということで、意味深な退場をかましたゼラがここから本格登場です! 果たしてこの五人とどんな関係を築いていくことになるのか、楽しみにしていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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