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第四百七十一話『告げられた目的地』

「二人とも、遅れてすまない……っと、クレンさんもいたのか。どうやってこちらの居場所を?」


 俺たちがクレンさんの登場に驚いているところに、アリシアとミズネがこっちに向かってくる。クレンさんの存在には少しばかり驚いているようだったが、それも一瞬の事だった。


「昨日ご一緒した方々から、この街で有名な宿の情報を教えてもらいまして。その中でも皆様が選びそうな店をとりあえずぐるりと回っていたら、ちょうどエントランスで待ち合わせをしていたと思しきお二人の姿をお見かけしたといったところです。見つけることが出来なかったら、おとなしくギルドであなたたちと合流しようと考えていましたよ」


「……だけど、ボクたちを探しに来たのは事実だろう? 何か早めに合流しなければならない理由でもあるのかと、そう疑わざるを得ないんだけど」


 クレンさんの説明に訝し気な視線を向けるのは、ミズネと一緒に降りて来たばかりのアリシアだ。その疑念は俺の中にもあるものだったし、素直に切り込んでくれるのは正直とてもありがたかった。


「まだ全容は掴めてないけど、この王都では多分何かが起こってるはずだ。……その解明のための手掛かりになる情報を持ってきてくれたんじゃないか、なんて思うのは少し期待し過ぎかな?」


「……ええ、半分くらいは正解と言ってもいいかもしれませんね。アリシア様が望むような情報を提供することができるかどうかに関しては、少しばかり不安が残りますが」


 鋭い言及に、クレンさんは苦笑しながら頷く。俺たちより先にギルドに向かっていたこともあって、やはり何かを掴んで来た、あるいは感じ取ってきたのは事実なようだった。


「今は一つでも情報が欲しい状況ですし、どんなに些細なことだって別に気にしませんよ。……クレンさん、俺たちと別れた後に何をしてきたんですか?」


 ギルドの事でも、冒険者の減少の事でも何でもいい。ゼラの証言を思えばクレンさんがギルドにいたのは事実だし、昨日の俺たちじゃ知り得ないことにクレンさんは触れているはずなのだ。


 そんな確信があるからか、俺は気が付けばクレンさんに向かって身を乗り出す形になってしまっていた。エントランスにいる他の客からの視線が少し痛いが、それを気にするのはもう少し後だ。


「……言うほど大したことはできなかったというのが現実なんですがね。私は護衛のお二方に連れられ、私たちを招集したギルドマスターと対面してきたんですよ」


「きたんですよ……って、その時点でとんでもない事じゃない⁉ 本当だったら明日会うはずの人じゃないの⁉」


「ええ、私もそう思っていました。……ですが、ギルド側も色々と複雑な事情があるようでして。代わりに試験官となれるような人材を選定しておいたと、そう一方的に提示されてしまったんですよ。もちろん、こちらの質問になど耳を傾ける気すらないような態度でした」


「……十中八九、この街を取り巻く現状が関係しているんだろうな。あるいは初めから私たちを門前払いしてその試験官に丸投げするつもりだったということも考えられるが……」


「どっちにせよ、そのギルドマスターってやつがかなり偏屈な奴なのは間違いなさそうね。事情があるとはいえ、馬車で呼びつけた相手にそんな態度はあんまりじゃないの」


 まるでたらいまわしの様にされている現状にミズネは困惑し、ネリンは怒りをあらわにする。『最低限の実力を確かめる』というのが馬車旅の目的だったのだとしたら、確かにその行動には疑念が残るところだった。


 それに、代わりの試験官というのも少し不思議な話だ。今ギルドの冒険者は皆余裕がないみたいな口ぶりだったのに、代わりを付ける余裕は変わらずにあるのか……?


「……ああいや、それに関しては少し語弊がありまして。そこを訂正するためにも、ちょっと早めにあなた方にはお会いしたいと思っていたんですよ」


「……語弊、というと?」


「あの手紙を送ったのは、その代理の試験官だという話です。呼び出してその仕事を任じたところ、移動手段を馬車にするようにと命じたらしく。あまりにいきなりの話だったので、ギルドマスターも困惑していたらしく」


「……つまり、本当に文句を言うべきなのはその代理の方ってわけね……。そんな訳の分からないことを言う奴、代理の仕事を下ろしてやればいいのに」


 クレンさんの付けたしによって誤解は解けたようだが、それにしても馬車で呼ばれたことに関しての不満は少しばかり残っているらしい。試験官とうまくやってくれることを祈るばかりだが、まあそこはネリンだしどうにかなると信じよう。


「……そういえば、今回の件は『代理にとってもいい機会』だとギルドマスターがおっしゃられていたのが印象的でしたね。まるで、私たちだけでなくその試験官に対しても何かを期待しているようでした」


 そんなことを考えていると、クレンさんがぼそりと気になることを呟いた。今までギルドマスターには無機質な印象を抱いていたのだが、ここまでの反応を見るにどうもそういうことじゃないらしい。


「試験官も試験されてる可能性があるってことか……何だか思った以上にややこしいな」


「まあ、それはそれでいいんじゃないかな? ややこしい事は増えていくばかりだけど、出来ることは相も変わらず一つしかないわけだしさ」


「そうだな。……結局のところ、試験をこなすという私たちのやるべきことは最初から変わっていない。その中心の周りに、色々と複雑な事情が絡まりだしてはいるみたいだがな」


 頭がこんがらがり始めた俺の隣で、アリシアとミズネはあっけらかんと総括して見せる。よくよく考えてみれば、二人の言う通り俺たちの取れる行動はそう増えてもないのが実情だった。


「それじゃ、早いとこその試験官とやらの顔を拝みにいかなくっちゃね。クレン、もちろんそいつとの合流場所も指定されてるんでしょ?」


「ええ、もちろん受け取っておりますとも。……王都の中心にある噴水広場、そのそばで待っているとのことです」


 手元の文書を読み上げ、クレンさんが次の目的地を示唆する。俺たちの王都生活二日目は、さらにややこしくなりゆく事情を抱えながらも幕を上げるのだった。


次回より二日目本格始動になります! 果たしてどんな試験官が五人を待ち受けているのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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