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第四百七十話『朝を迎えて』

「おはよ。一人で寂しくなかった?」


 ――昨日約束した集合時間まで、あと十五分ほど。そこそこ余裕をもってエントランスで三人が下りてくるのを待っていると、ネリンがスタスタとこちらに向かって歩み寄って来る。目の下にクマとかもできてないし、軽い足取りを見ると寝付けなかったなんてことはなさそうだ。


「屋敷の時も一人で寝てるから特にそういうことはねえよ。そっちこそ、三人で根津から狩ったりしなかったか?」


「特にそういう話は聞いてないわね。一人で寝るにはあのベッド広すぎるくらいな気がしたし」


「つーことはお前が一人で寝てんじゃねえか……」


 間違いなく質問する相手を間違えた。まあ俺から見てもあのベッドは一人用にしてはデカすぎたし、二人になったからと言って寝苦しかったなんてことはないとは思うけどな。一応確認だけは後でしておこうと、俺は心の片隅にメモを取っておく。


「あんた一人じゃ寝過ごすんじゃないかと思ってたけど、早起きみたいで良かったわ。もともと寝つきよくない方だっけ?」


「んや、そんなことはないはずだけど……今日から本格的に動かなきゃいけねえし、無意識に気合が入っちゃってるのかもしれねえな」


 それがいい事なのか悪い事なのかはともかく、こうして早起きできたのは好材料だろう。考え事をしてた割には、頭が疲れているような感じがないのも嬉しいところだ。……本当に考えなきゃいけないのは、今日からなんだからな。


「……そういえば、残りの二人は?」


 そこまで考えたところで、俺はふとそれを疑問に感じる。てっきり三人そろって降りてくるものだと思っていたから、ネリンだけが先行しているこの状況は中々に不思議だった。


 その質問に、ネリンは少し複雑な表情を浮かべて頭を掻いている。その表情を見るに、やっぱり何かしらの事情があるのだろう。


「珍しくミズネが二度寝をかましてるから、寝すぎないようについててもらってるわ。身支度も早い方だし、よっぽど遅れるなんてことはないと思うけどね。『もし早めに待ってたら申し訳ないから』って言われて、あたしだけ先に来たってわけ」


「……まあ、あれだけの魔術を使ったんだもんな。なんだか遠くのことに思えるけど、あれから初めて迎える夜だったわけだし」


 王都で過ごす時間の密度がやけに濃いから忘れていたが、あの激戦からまだ丸一日も経っていないのだ。ミズネの疲労を思えば、かなり厳しい時間設定をしてしまっただろうか。そんなことを俺が考えていると、ネリンが軽く肩を叩いてきた。


「あ、そんなに深く考え込まなくてもいいわよ。昨日の夜のミズネ、結構ぴんぴんしてたし。いきなりあたしとアリシアの昔話をせがまれて大変だったんだから」


「……それなら、確かに大丈夫かもな……」


 疲れてるときは好奇心がまず真っ先になくなるっていうし、ネリンがそういうなら大丈夫だろう。ミズネも放っておくと無理をするタイプだとは言え、最近その傾向は改善されつつあるからな。


「……しっかし、ネリンとアリシアの昔話か。そんな面白い話、なにも俺がしないところでしなくてもよくねえか……?」


「あんたも興味ある方なのね……大丈夫よ、ちゃんとヒロトには悪いと思ってたみたいだから」


 そんな補足を加えながら、ネリンは苦笑を浮かべている。俺からしたら二人の幼少期はかなり興味深いものだったが、こういうのって当人たちからしたら何気ない記憶だったりするもんな。ネリンがそんな複雑な表情をするのも、もしかしたらそういうことなのかもしれない。


「……まあいいや、それはいつかまた聞かせてもらうとして……ネリン、心の準備はできてるよな?」


「ええ、一応はね。何が飛んでくるかが分からない以上、完全に対策しきるのは無理だけど……」


「それに関しては俺にも無理だから安心してくれ。できないってわかってても、ある程度予測することが大事なのに変わりはねえしな」


 ネリンと比較すると俺は図らずも多くの情報を持ってしまっているわけなのだが、それを繋ぎ合わせても俺たちが招かれた事情に対する答えが出てくるわけでもない。というか、俺たちに提示されたそれとギルドが俺たちに要求するものが全く関連していない可能性だってあるのだ。『とりあえず今までの疑問を全て脇に置いとく』なんて行動が、そのまんま最適解になりうるかもしれないしな。


「まあ、予想外のことが起きても対応できるようにしとかなきゃいけないのは間違いねえしな。この先、どんな意地悪な事態が起きたっておかしくはねえし――」


「――お二人とも、おはようございます。誰に言われずとも心構えがしっかりとできているようで、冒険者としての成長を感じざるを得ませんね」


――何が来ても驚かないようにしよう。そう言おうとした俺の声を遮った存在に、俺は思わず飛び跳ねるように後ずさる。だってその声の主は、俺たちがいる場所を知らないはずなのだ。


「え、クレン⁉ あんたは別行動だったはずなのに、なんでここにいるの……?」


 思いっきり驚いてしまっている俺の隣で、ネリンも同じくらい体をのけぞらせている。そのあんまりなリアクションに、声の主――クレンさんは小さく笑みを浮かべると――


「ええ、少し色々ありまして。合流が可能であるならば、出来るだけ早く完了しておいた方が色々と便利でしょう?」


――いつも武器鍛冶連合で俺たちにそうするように、目を細めて見せた。

次回、久々に五人が集合することになると思います! 王都編もここからようやく本題へ入っていきますので、どうぞ引き続きお楽しみいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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