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第四十五話『エルフたちの歓待』

「はい、どうぞ。あたしたちが十年間研究して作り上げたスイーツなのよ?」


「あ、ありがとうございます……」


「……あはは、ありがと……」


 エイスさんたちに連れられて里を回り始めてから二時間。……俺たちは、苦笑いしながら差し出されたパフェのようなスイーツを苦笑しながら受け取っていた。


 いや、味がまずいとか、甘いものが苦手だとかそういう話ではないのだ。……何を隠そう、回るところ回るところでこうして食事を出してもらっているのだ。……正直な話、もうとっくにおなかいっぱいなのである。


「十年とはこれまた早いな。きっと甘味の才能があるのじゃろう」


「そうだな……私が魔術を完全に習得するまでにかかった時間を考えれば、目覚ましい進歩だ」


 そんな俺たちのことに気が付くことはなく、エイスさんとミズネさんは口々に賛辞を口にしながらスイーツをひょいぱくと口に運んでいる。そのペースは二時間前から全く落ちていなかった。


 一緒に里を回り、いろんなエルフと話して気づいたことなのだが、エルフは全体としてよく食べる種族の様だ。消化が速いのか胃の容量が大きいのか、それは定かではないが。


 俺たちを案内してくれている二人もその例にもれず、徐々に失速していく俺たちを尻目にハイペースで食事をしているのが印象的だった。それに対して疑問を抱かないあたり、エルフたちの基準は俺たちのそれよりもよっぽど多いのだろう。俺たちも何とか食らいついてはいるが、それももはや限界に近い。


 そしてもう一つ……まあ、これは創作の世界のエルフや長命種には往々にしていえることなのだが、時間に対してとても気長なのだ。十分くらいの予定のずれを全然勘定に入れないし、物事を習得するのにあたっては十年がスタンダードというか、俺たちにとっての一ヶ月とかそこらと同じようにカウントされている節がある。まあ、長命ゆえの宿命みたいなところはあるんだろうが――


「人間のお二人さん、お味はどう?人間は甘味の文化が盛んだというのだけれど、お口に合うかしら」


 ……異文化交流の難しさを、まさかこんなところで味わうことになるとはな……


「……どうしたの?もしかして、甘味は苦手……?」


 スプーンを持ったままフリーズする俺たちを見て、エルフのお姉さんが心配そうにこちらをのぞき込んでいる。俺はゆるゆると首を振ると、


「いえ、飾り付けがきれいなもので、つい。今頂きますね」


「あらまあ、褒めるのがお上手なこと!たくさん食べて頂戴ね?」


 満面の笑みに見守られながら、俺はおずおずとクリームの山に木でできたスプーンを差し入れる。イチゴのような色合いの粒が混ぜ込まれたクリームはさぞかし甘ったるいのだろうと、もうおなかがパンパンな俺は半ば覚悟していたのだが――


「……おいしい」


 クリームを下に入れた瞬間、俺は自然とそう口にしていた。覚悟していた甘ったるさはなく、どちらかと言えばさっぱりとした心地いい甘さが口の中いっぱいに広がっていた。


「でしょう?二人で過去の文献をあさって再現しようと頑張ったの!」


 俺の反応に、お姉さんは手を合わせて喜ぶ。その反応を見て、隣で躊躇していたネリンも意を決したようにスプーンを口に運んだ。


「……ほんとだ、さわやかでおいしい!カガネの町に店を開いても売れるんじゃないの?」


 何ならうちの宿で提供したいくらいよ、とネリンも手放しで絶賛の言葉を口にする。ちゃっかり自分の宿に引き込もうとしているあたり、満腹な中でもしたたかというべきか。


「そう?かなり急いで完成させた代物だけど、うまくいって嬉しいわ!」


「そうだな、ワシとしても、これはなかなかにレベルの高い食事に思える。人間界での提供も、視野に入れるべきかもしれぬな」


「レシピさえ共有できれば、といったところでしょうか。長老の方針には、お力になれるかと」


 俺たちの隣で、二人はそう口にしながら頷きあう。俺たちよりもずっと長命な二人にも、このスイーツは口にあったらしい。


「まあ、長老様に認めていただけるなんて幸福だわ!生きている中でこんなことがあり得るなんて思いもしませんでしたのよ!」


 それを聞いて、お姉さんはさらに目を輝かせる。エルフにおなじみの長い耳が、その喜びの大きさを示すかのようにピコピコと揺れていた。


 創作の世界とかだとありがちな表現だが、あれはこの世界のエルフにも共通なのだろうか……嬉しくて耳をぴょこぴょこさせるミズネさん、ちょっと見てみたい気もする。


「そうと決まれば話を通さねばな!なに、そこらへんはワシに任せるとよい!できるだけ速やかに済ませるからの!」


「……明日にやるべきことが増えましたね、長老」


 いかにもやる気満々!といった感じのエイスさんだったが、ミズネさんの一言で時が止まったかのように硬直する。そしてぎこちない様子で振り向くと、


「で・き・る・だ・け!速やかに済ませるから、の?」


「……その言葉、信じることにしますよ」


 『行けたら行く』みたいなノリのエイスさんに、ミズネさんは深々とため息をつく。その後にくるっと振り向き、「すまない、話が付くまで一年ほど待っていてほしい」と小声でお姉さんに語り掛けていたのは聞かなかったことにしておいた。……てか、一年ってそんなに少しなのか……


「ミズネ、何をちんたらしておる!まだまだめぐるべきところはたくさんあるのじゃ、早くいくぞ!」


「……はい、出来るだけ急いで向かいましょう」


 そんな事情を知るわけもなく、エイスさんは無邪気にミズネさんを呼ぶ。それにもう一度ため息をつきながらも、ミズネさんは俺たちと一緒にその背中を追って歩き出した。


 なんだかんだ、エルフの里は暖かいし、出てくる料理も量は多いけれど全ておいしい。『楽しい』と、俺はエルフの里観光を振り返ってそう断言することができた。


「さて、次はついにこの里の名物じゃ!期待してよいぞ、なにせ里一番のコックの最新作じゃからな!」


「「えっ」」


……もっとも、これからもそう無邪気に言い切れるかは定かではないようだけど。

エルフの里での一幕をお送りいたしました‼前回までが少し真剣な要素も多いところだったので、この先しばらくは緩ーい雰囲気で話が続いていくかと思われます。それでもしっかりと状況は進めていく予定ですので、ぜひついてきていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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