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第四百五十二話『白亜の門』

「――うわあ……」


 馬車から降りて正面を見やったネリンが、その姿勢のままフリーズする。一泊二日の旅路を越えた俺たちの目の前に現れたのは、大きな――本当に大きな白亜の門だった。


 カガネの街を囲む壁も大概大きいものだったが、今俺たちの目の前にあるそれと比較すると小さなものだと言わざるを得ないだろう。それくらい大きく、そして荘厳だった。魔術による修復なんてしなくても、その門が壊れるところなんて想像ができないくらいに。


「ふむ、やはりこの門だけは変わらないのだな……。街がどれだけ変わろうと、それを守る者に陰りはないということか」


「そういえば、ミズネはここに来たことがあるんだっけ。その時からこれなら、本当に強度の高い壁なんだろうな」


 俺の想像がどうやら真実だったことがミズネの呟きによって確定されて、俺は改めてため息をつかざるを得ない。これが日本なら間違いなく世界遺産とかになるようなものなのだろうが、そういう取り決めの類は整備されていないものだろうか。


「これがいつか風化していくところ、想像したくねえな……」


「それに関しては大丈夫だと思うよ、ヒロト。ボクの知識の限りでは、この白亜の壁は特殊な加工が施されているらしいし」


 俺の独り言に応えたのは、御者台からゆっくりと降りて来たアリシアだった。インドア派だとは言え王都に関する知識はある程度備えているらしく、指を一本立ててアリシアは話を続けた。


「この壁は、ここが王都と定まったときからずっとここにあるって言い伝えられているんだ。その時王に仕えていた一人の魔術師を中心として作り上げたそれは、どういう技術か壊れることなく今の時代にまで残されている――もしかしたら、魔術に関する技術は昔の方が発展してたのかもね?」


「そうではない……と言い切れないのが恐ろしいところだな。この技術は、今の魔術師たちの力を以てしてもできるかどうか。失伝している魔術体形も少なくないし、私たちは知らないうちに先人の後を追いかけているのかもしれない」


「有り得ない話ではないね。ボクたちがどれだけ突き詰めても、それはかなり前に切り開かれた道かもしれない。ひいおばあ様みたいな天才が居れば、不自然なまでに技術が急に進んでいくことは無いでもないからね」


「なんかロマンのある話だな、それ。ホントにそうならとんでもないことだけどさ」


 オーパーツなんて言葉が日本にはあったけど、この壁がいわゆるそういうものになって来るのだろうか。それにしたって、建物単位で残ってるオーパーツってなんなんだよって話なわけだが……。


「……そういえば、ミズネは結局一時間くらいしか眠れなかったね。体の方は大丈夫かい?」


 そんな会話を交わした後、思い出したかのようにアリシアは心配そうな視線を向ける。心から慮っているのは間違いないが、それはそれとして自分の好奇心を優先してしまうのがアリシアらしかった。


「まだ万全とは言えないがな。ただ歩くくらいだったら支障はないし、考えることが辛いと感じることもない。――まあ、戦闘はもうしばらく勘弁してほしいが」


「流石にそこはね。もう戦えるとか言われたら流石にボクも認識を改めざるを得ないというか、何というか」


 冗談交じりにアリシアはそう笑って見せるが、あの狼相手にあそこまでの大立ち回りを見せて何事もなく動けるってそれだけで十分にすごい事だと思うんだよな。長い事冒険者をやってきたゆえの回復速度なのか、それともまた少し違う理由があるのか。なんにせよ、ミズネが無事なこと以上に喜ばしいことは無いんだけどな。


「四人とも、体調は大丈夫そうだな。馬車で酔ったりもしていないか?」


「安心しきったときに限って酔いというのは来ますからね。せっかく王都に足を踏み入れるんですし、万全な状態でなきゃ勿体ないですし」


「ええ、大丈夫ですよ。……というか、クレンさんはすっかりそっち側ですね」


 アリシアに続いて降りて来た年長組三人が、俺たちを見回して確認を取って来る。年代的にはそっちのが近いから打ち解けるのも納得は行くのだが、それにしたって馴染み過ぎだった。


「武器への造詣が半端ないからな、クレンは。俺ですら知らない武器がたくさんあるって聞いたときは度肝を抜かれたぜ……」


「とまあ、そういうことです。なんか落ち込んでたみたいですけど、その時にクレンさんからお話を聞いて気を紛らわせられたのに相当助けられたみたいでした」


 二人の様子を見つめていると、ムルジさんが俺たちの方に近づいてきて小声でそう伝えてくる。どことなく呆れたような声色ではあったが、その表情には明確な安堵の色があった。


「ムルジ、何を話してんだ? 俺たちの間に隠し事は感心しねえぞ」


「話すまでもない事ですよ。ちょっとした確認と情報交換です」


 俺たち四人とムルジさんという構図に何かを感じたのか、ヴァルさんがそう声をかけてくる。しかしその返しは鮮やかなもので、ムルジさんは飄々とした様子でヴァルさんたちの下へと戻っていった。


「……さて、こっからが本番だな。いろんなことがありすぎて、ここまでが前座であることを忘れそうになるくらいには濃密な二日間だったけどさ」


「ま、それを越えられるくらいで初めて今の王都に冒険者として踏み入る資格を得られるってことでしょ。……なんにせよ、オレたちの道のりを無駄にしないでくれてありがとうございました」


 そう言うと、二人はくるりと俺たちに背を向ける。王都を見つめるその背中は、今までで一番大きく見えた。


「それじゃ、王都まで案内しないとな。門兵には話を付けてあるから、俺たちから離れないようについてきてくれ」


「ああ、そうさせてもらおう。……ネリン、もう大丈夫か?」


「ええ、十分堪能させてもらったわ。……次は、王都の市街地をたくさん満喫する番ね!」


 今のやり取りの間ずっと景色を眺めていたネリンの背中を優しく叩いて、ミズネがヴァルさんたちを追いかけて歩き出す。その後ろ姿が小さくならないように、俺たちは足どり軽くミズネを追いかけて歩き出した。こういう時に自然と横並びになっていくのが、俺たちのパーティに明確なリーダーがいない理由なのかもしれないな。


 馬車の停車場から門まではそこそこ距離があったが、それを気にする人はいない。やけに遠くに感じていた王都は、今や俺たちの目の前にあった。

次回から本格的に王都の市街地へと踏み込んでいくことになるかと思います! 試練を乗り越えた彼らが王都で何を見るのか、ここからも盛り上がっていく王都編に是非ご期待ください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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