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第四百三十九話『情報提供』

「……うん、美味い!」


「簡単に味付けをしただけなのに、なんだかすごく味わい深いわね……野営って環境がそうさせてるのかしら」


 焼きあがった干し肉を頬張って、俺たちはその味わいに舌鼓を打つ。濃い目に味付けされた肉は口の中でしっかりと存在を主張し、量は少ないながらもしっかりとした満足感を与えてきていた。


 なんでも量が少なめなのは意図的らしく、満腹にし過ぎると火の番に支障が出てしまう可能性があるからなんだとか。見た目や戦い方とは裏腹に細かなヴァルさんの気遣いが心にしみる。


「野営料理の肝はいかに満足感を得られるか、だからな。そういうところで調味料ってのは重要な役割を果たしてくれてるってわけだ」


「やけに濃く味付けをしているなあとは思ったけど、そういう意図だったんだね。……確かに、一串しか食べてないとは思えないくらいに味わったような気がするよ」


「そうでしょう? いついかなる時も第一に果たすべきことは身の安全の確保で、そのためなら食事にも気を使わなくちゃいけない。それが野営ってやつで、出来るならやりたくない類の仕事っすよ」


 ふかふかのベッドが恋しいっす、とぼやきつつも、ムルジさんは串焼きを頬張っている。なんだかんだ言いつつもヴァルさんのフォローや尊敬は見え隠れしているあたり、この軽薄そうな話し方も何らかの意図があるんだろうな。……それが何のためのものかに踏み込むのは、俺のしていい事ではないだろうけど。


「やりたくない類の仕事―—ね。それならお二人は、どうしてボクたちの旅の護衛をしているんだい?」


 俺の中に去来していった疑問を上塗りするかのように、アリシアが直球の質問を二人に投げ込んでいく。それに対してヴァルさんは少し悩むようなそぶりを見せるも、すぐに何かを決心したようにうなずいた。


「……先輩、大丈夫なんすか?」


「……一日目を無事にしのいだお前たちのことだ、少しくらいは伝えても大丈夫だろ。何の情報も開示せずに王都まで着いたら、それはそれでスムーズに物事が進まなくなるだろうしな」


「……了解です。それじゃあ、説明は先輩に任せますよ」


 何かを心配したムルジさんがヴァルさんの決断に口を挟むも、落ち着き払った態度は揺らがない。それに納得したムルジさんが引き下がるのを見て、ヴァルさんは改めて口を開いた。


「……実のところ、王都では今深刻な人不足が起こってる。冒険者不足とかじゃねえぞ? ……純粋に、やるべきことが多すぎるんだ」


「王都での人不足、か。……だが、カガネの街にそのような事情は伝えられてこなかったな」


「そうだろうな。この問題は、やみくもに人を集めてどうにかなるもんじゃねえ。それがギルドの判断だし、多分これからも変わらねえよ。この国一の規模を誇るギルドのメンツにかけて、アイツらは意地でも自分たちの力だけでこの問題を解決するだろうさ」 


 代表様たちの厄介な性分だよ、とムルジさんは苦笑いを浮かべる。俺たちが知らない――知る由もないような事情が、ムルジさんたちの中にはまだまだ残っているようだった。


「……ちょっと待ってくれ。そんな中で王都に踏み込むボク達って、もしかしたら最高にめんどくさい要素なんじゃないか?」


「あちらさんからしたらそうだろうな。外からの冒険者を迎え入れている暇なんてないのに、それでも無視できないような存在ってわけだ。俺は正直、お前たちが何をしたのかはよく知らねえけど――」


 そこで言葉を切って、ムルジさんは俺たち五人の顔を順番に見まわす。何かを確かめているようなその視線を、俺たちは無言で、目をそらさずに受け止めていた。


 その時間がしばらく、一分くらいは続いただろうか。パチパチと火が弾ける音だけが響くその空間は、さっきまでの賑やかな空気とは打って変わって神聖な雰囲気を放っている。……だが、その空気はヴァルさんの笑顔が浮かぶとともにどこかへ隠れていった。


「……お前たちは、いい目をしてる。道場で一緒に競い合ってきた奴らと似たような目だ。……悪い奴じゃねえって、目を合わせれば一発でわかるな」


「それは光栄ね。信頼を得られるってのは大事だもの」


「ああ、めちゃくちゃ大事だ。多分あちらさん側は、お前さんたちを品定めしているんだろうからな」


「品定め……」


「せわしなく状況が変わりゆく今の王都において、お前さんたちに時間をかける価値があるかどうか。―—この旅も、その審査を受けるための前段階として用意したものなんだろうな。……どういう訳か、依頼料がやたらと高かったしよ」


「つくづくおいしい仕事っすよね。慣れた分野で勝負出来て、連携を乱すような王都の奴らもいなくて。……それでいてこの縁が見つけられたのなら文句なしっす」


「ムルジさん……」


「喜ばしい事ですね。既に一線を退いた身ですが、新たな縁を繋げることはいつになっても嬉しい事だ」


 ここまで無言を貫いていたムルジさんが、ヴァルさんの後押しをするようにそう微笑む。その柔らかさこそがムルジさんの本性なのだろうと、俺は何となく理解できた。


「……とまあ、今お前さんたちに教えられるのはここまでだな。ここからはまた明日、王都に着いたときにでも話すとするさ」


 区切りをつけるかのように軽く手を打って、ヴァルさんはアイテムボックスを開く。その中から取り出されたのは、小さな筒と細長い木の棒。その見た目と組み合わせは、なぜだか日本で見たことがあるような気がして――


「さて、ここからは火の番だな。せっかくだし、組み合わせは神様の意志に任せるとしようぜ?」


――そうヴァルさんが切り出した瞬間、俺はその意図を悟ったのだった。

ということで、王都への道のりも折り返し地点というところに達しようとしています!火の番の組み合わせがどうなるのか、そして彼らは無事に夜を越えられるのか!ぜひお楽しみにしていただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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