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第四百三十一話『黒髪黒目の都市伝説?』

「……そういや、本当にパーティにエルフがいるんだな。事前情報は聞いていたが、それでもにわかには信じられなかったんだが」


「この世界は時々信じられないようなことが起こる。私がここにいることも、そう表現してもいいくらいの偶然の上に成り立った奇跡だと思ってくれればいいさ」


 感心したように息を吐くヴァルさんに、ミズネは薄く微笑んでそう返す。馬車がゆっくりと進みだしてから数十分、意外にも旅路はのんびりと進んでいた。


 馬車の中はスペースが広くとられていて、座席もしっかりと全員分用意されている。長旅ってこともあって、時折姿勢を変えられるようなスペースがちゃんと確保されているのがありがたかった。


 小声でクレンさんに確認したのだが、曰くこの馬車は『かなりいいもの』であるらしい。ますますギルド側が俺たちのことをどう取り扱っているのかの判断が難しくなってしまったが、まあもらえる恩恵は素直にもらっておくのが一番だろう。


「……しっかし、エルフに黒髪黒目の少年か。イロモノぞろい……というと少し聞こえは悪いが、相当稀有な境遇の奴らが集まってんだな」


「イロモノ……黒髪黒目の人って、どこに行ってもそういう扱いなんですか?」


 顎に手を当てるヴァルさんのその態度に、俺は思わずそう声をかける。ベレさんから聞いた話はあくまでカガネでの言い伝えであって、この国やこの世界全体に言えたことではなかったはずだ。だが、今の反応を見る限り珍しいモノ扱いということだけは間違いなさそうだった。


「安心しろ、疎まれてたりするってわけじゃないさ。隣国の王族に黒髪黒目の奴が時々現れるって話をちょうどこの前聞いたところだから過剰に反応しちまっただけだ」


「……その話、もう少し詳しく聞いてもいいですか?」


 思わぬところから飛び出してきた証言に、俺は思わず身を乗り出す。ほわっとした情報ではあったが、それが俺にとって必要な情報であるのは間違いなさそうだった。


「ああ、それに関しちゃ構わねえが……黒髪黒目の当人がそれを知らないってのは意外な話だな。カガネは内陸だし、そういう話が伝わって来ねえのかもしれないが」


「カガネでは単に『幸運の象徴』とだけ言われているね。どういう経緯でそうなったのか、そこまではまだ分からないけれど」


「黒髪黒目には謎が多いっすからね……。過去の英雄には黒髪黒目が多かったって話ですけど、それだってどっかで改変されてる可能性だってあるわけで。運命に恵まれた英雄を後付けで黒髪黒目ってことにしてるんだって噂、オレ意外と信じてるんすよ」


「しょせん都市伝説だとしても、それを否定する証拠すらねえからな……」


 悪魔の証明ってのは難しいもんだ、とヴァルさんは頭を掻く。ムルジさんの発言が真実ということはきっとないのだろうが、その考え方が生まれてしまうのも仕方のない事なのかもしれないな。


 なんせ俺もまだこの世界で俺と同じような見た目をした人に出会っていないんだ、おそらく黒髪黒目というのは自然発生的に生まれてくるものではないのだろう。となると、さっきの王家の話が余計に気になるわけだが――


「例の見た目の英雄の伝説が一番色濃く伝わってるの、西の王国でしょ? 先祖返りの可能性もありますけど、オレとしては特別感を出したいが故の演出にしか思えなくてですね……」


「こら、そこらへんにしておけ。いくら誰もいない場とはいえ、他国に対してあることない事吹き込むのがいい事じゃないのは確かだろ」


「そういうとこ、先輩はお堅いっすよね。俺たち別に王国騎士でもないってのに」


「だが、それと同じ心持ちでいることはできる。かつて目指した場所なんだし、そこへのリスペクトは忘れねえようにしねえとじゃねえか?」


「……そっすね、そこは先輩が正しいですよ」


 どこかすねたような様子を見せながら、渋々ムルジさんは話題を打ち切る。正直なところまだ聞きたいことは多かったが、それでも収穫が大きかったのは確かだった。


 西の王国……バロメルもこの国の西の際にあるような都市だったし、もしかすると転生者が多くいた土地なのかもしれない。今はまだ何も分からないが、図鑑での下調べはしておかないとな。


「……先輩、って言ったね。ということは、お二方は付き合いが長いのかい?」


 そんな俺の決意をよそに、アリシアが二人の関係性を問いただす。ここまでの距離感を見る限り浅からぬ付き合いなのは確かそうだが、その予想を裏付けるようにヴァルさんは頷いた。


「まあ、腐れ縁みたいなもんだけどな。お互い同じ武芸塾に入ってて、二人で王国騎士を目指してた。それで仲良く落ちたもんだから、いっそ二人でコンビを組むかって感じで今に至るんだよ」


「かれこれ付き合いは十年ちょっとくらいになるんすかね。この通り俺はコミュニケーションが苦手なんで、そういうところは助かってます」


「自覚があるなら改善する努力をしろとかねがね言ってるんだがな……まあ、気のいい奴なのは確かだから安心してくれ」


 やれやれと言いたげにため息をつきながらも、ムルジさんの肩を抱きつつヴァルさんは改めてそう俺たちに紹介する。友人とも師弟とも何とも言い難い関係ではあるが、二人の関係が良好そうだってことはそれを見れば理解できた。ムルジさんも顔をしかめてはいるけど、その手を振りほどこうとはしてないしな。


「ああ、それに関しては大丈夫だ。短い旅路だが、こちらこそよろしく――」


「―—っ、何だ⁉」


 二人の挨拶に対して、ミズネが代表してそう返そうとした、その瞬間のことだった。馬車が大きな揺れを立てて停車し、俺たちは物理法則に従って前方へ投げ出される。とっさに倒れ込んだ俺とアリシアに対して、トレーニングを重ねてきた四人が体を揺らがすだけで済ませているのが印象的だった。


「普段のこと考えると、ネリンがそっち側なのはあまり納得いかないけど……‼」


「……どうやら、そんな軽口を叩ける状況でもなさそうだね」


 倒れ込んだ俺たちに心配の目線が向けられていたので、俺たちはそれに対して無事だという意味合いを込めて頷きを返す。それを確認したヴァルさんは窓の外に視線を向けると、目にもとまらぬ速さで馬車を駆け下りていった。

新しい謎や関係性が判明していますが、とりあえずは目の前に現れた異変が優先になります。この馬車に訪れた初めての脅威にどう立ち向かうのか、現状の七人の実力はいかに!次回も楽しみにしていただけると幸いです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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