第四百十八話『立役者たち』
その言葉が聞こえた瞬間、会場から大きな歓声が響いてくる。舞台裏にまではっきりと届くほどのそれが、懇親会を締めくくるこの場への期待をそのまま示しているかのようだった。
「急遽新設した催しでありながら、このようなご期待を頂き感謝しかありません! そのご期待を裏切らぬよう全力で努めていきますので、どうぞ最後までご声援の方は絶やさずにいていただければと思います!」
ベレさんが声を張り上げると、それに負けない歓声が返答として贈られる。まだまだなにも安心はできないが、掴みはオッケーと言ったところだろう。
「こういうところは流石ベレさんって感じね……経験が物を言ってるというか、雰囲気作りがうまいというか」
「どんな雰囲気でも作れるってのは流石に尋常じゃない才能を感じるけどね。宴会のノリからこういう祭りの賑やかなノリはもちろん、定例会では真剣な雰囲気を一人で作り出して見せた。……あんな人は、王都で探しても中々いないんじゃないかな」
「そういや、スカウトだなんだを断りながらずっとここにいるって受付の人が言ってたな……その理由は未だにはっきりしないらしいけど」
正面切ってベレさんに尋ねてみても、きっと素直な答えが返ってくることは無いのだろう。それでも、今こうやってみんなの前に立って声を張り上げている姿はその答えの一つになっているような気がした。
「この街そのものに愛着があり、この街に住む人々たちにも愛着がある。それさえあれば、多少不便だろうがずっと一つのところにとどまる理由としては十分だからな。……大方、彼もそうなのだろう」
いつかを懐かしむようにしながら、ミズネがベレさんの在り方をそう考察する。その眼がいつを見ているのかはよく分からないが、共感できる部分があるのは確かみたいだ。
「さて、私の前置きはそこそこにしておきましょう。この祭りは、とある四人の協力があってこそ成り立ったものですからね。主役を差し置いて私が長々としゃべるのもお門違いというものです」
「お門違いなんかじゃないわよ……。むしろあなたも主役って言って胸を張っていいでしょうに」
「これを心から言ってるのがベレさんなんだよな。自分のしたことを笠に着ないというか、して当たり前だと思ってるというか」
だからこそ冒険者はベレさんの背中を追いかけるのだろうし、誰からも信頼される存在足りうるのだろう。……かくいう俺も、右も左も分からない街の中でベレさんに助けてもらったから今こうしているわけだしな。
「さあ、それではご登場願いましょう! 今回の懇親会を陰に日向に支え、全く新しい祭りを作り上げたのは……この四人だっ‼」
その叫び声が聞こえると同時、俺たちは舞台裏から駆け出す。舞台に上がって前を向くと同時、聞こえていた歓声の正体が俺の眼に飛び込んで来た。
と言っても、別段変わった存在がいたわけじゃない。そこにいたのはたくさんの観光客の人たちだった。ちょくちょく見覚えのある顔も混ざってはいたが、それでもここにいる人のほとんどは懇親会を目当てにしてカガネに来てくれた人たちだろう。こんなにも多くの人が、この祭りの幕引きを見届けようとしてくれているのだ。
「その存在を知っている人も知らない人も、ここでもう一度確認をしておくとしましょう! では皆さま、自己紹介をお願いします!」
人の多さに圧倒されていた俺を、ベレさんの司会進行が一気に現実へと引き戻す。事前にしていた打ち合わせを必死に思い返しながら、ベレさんの一番近くに立つ俺が先陣を切って頭を下げた。
「花谷大翔です。……この度はお集まりいただき、本当にありがとうございます」
「ネリンよ。二日間にわたるお祭り、最後まで楽しんでいってね!」
「ミズネだ。最高の幕引きに立ち会っていただけること、嬉しく思う」
「ボクはアリシア。最後まで仕掛けはたっぷり仕込んだから、どうぞお楽しみにね」
ネリンは快活に、ミズネは優雅に、そしてアリシアは含みのある笑みを浮かべながら、それぞれの自己紹介を終える。その間も鳴りやまない歓声が、俺たちのことを歓迎してくれているようだった。
「彼ら彼女ら四人には、それぞれの区画のリーダー、あるいはその補佐を行っていただきました。彼らのアイデアと努力があり、『四分割された区画同士で勝敗を争う』という画期的なシステムは見事実現へとこぎつけたわけであります」
ベレさんがそう説明すると、観客席からはどよめきが上がる。その中には「楽しかったぞー!」なんて声も混じっていて、俺の頬が思わず緩んだ。
「どれも素晴らしく、優劣をつけるのが難しい作品であったのは当然の事実です。ですが、最初からこれは勝負として決められたもの。であるならば、その結果をこの場で示すのが筋でしょう。ですので、さっそく結果発表と行きたいところですが――」
そこで言葉を切り、ベレさんはふっと笑みを作る。観客席の人たちがごくりとのどを鳴らすのが聞こえてくるかのような緊張感が、こちらまでびりびりと伝わってきていた。
「せっかくの機会です。……四チームそれぞれで素晴らしい制作を作り上げて見せた彼らが協力するとどのような作品ができるのか、皆様興味はございませんか?」
ベレさんの問いかけに、今日一番の歓声が肯定の意を示す。俺たちにとってこの懇親会最後の山場となる瞬間は、すぐそこにまで迫ってきていた。
次回、ネリンが示した案の全貌が明かされます! 果たしてその発想がうまくいくのか、楽しみにしていただければ嬉しいです!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!




