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第四百十七話『舞台裏にて』

「……どうにか、間に合ったわね……」


 正装に身を包んだネリンが、同じく正装に着替えた俺たちを見つめて軽く息を吐く。この中で唯一ファッションに通じているといっていいネリンは、全員の着付けのために人一倍せわしなく動き回っていた。


 あれから企画を詰めているうちに気が付けば時間は過ぎ、準備を済ませた俺たちは仮説ステージの舞台裏にいる。かなり勢い任せにはなってしまったが、セレモニーの開始時間にはどうやら間に合わせることが出来そうだ。


「悪いな、こう装飾が多いものには慣れていないんだ……。長老を立てるためにも、地味な正装にしか身を包んでこなかったものだからな」


「それでもいい方だよ、ボクなんか懇親会絡み以外で正装なんて着る機会がなかったんだから……」


 申し訳なさそうに眉をすぼめるミズネの肩に、アリシアが激しく頷きながらポンと手を置く。確かにこの二人も相当着こなすのに時間をかけていたが、やっぱり一番ネリンにダメ出しを貰ったのは俺だった。


「制服ってかなり簡略化されてた方なんだな……本気で着ようと思うと細かいのなんの」


「ヒロトってばそういうところ全部無視して着るだけ着ちゃおうとするんだもの、おちおち目も離せなかったわよ……。ズカンに正装のことも乗ってたでしょうから、後でそれ使って勉強しときなさい」


「ああ、そうさせてもらうよ……」


 ぶっちゃけもうしばらく正装なんて着たくはないのだが、勉強しておくに越したことがないのはネリンの言う通りだ。最近は忙しくて図鑑を見る時間も少なくなってきてたし、どこかでまたゆっくり目を通す時間を取らないといけないな。


「開催時間には間に合ったから結果オーライだ!セレモニーの出し物についても詰められたしな!」


「その内容の半分くらいが『アドリブ』でできた台本を詰められたといっていいのかははなはだ疑問だけど……まあ、そっちの方が面白いからいいか」


「そうそう。あれもこれもカチッと決めすぎちゃ面白みがないわよ。セレモニーなんて延長戦みたいなものなんだから、少しでも面白いものを狙えばいいじゃない」


 俺たちの背中をバンバンと叩くベレさんにアリシアは苦笑するが、それを肯定するようにネリンは力強く頷く。ネリンの中に流れているエンターテイナーとしての感性が、本番を前にしてさらに高まっているようだった。


「結界も今のところは安定してるしな。観客を安心させるため、あえて壁の存在を認知させてるんだっけか」


「ああ、そっちの方が落ちついて見てくれそうだと思ってな。視認性を落としているわけではないから安心してくれ」


「そいつはありがてえ!結界とやらのことに関しては完全にお前たち任せだからな、お前たちが思う最良の形を取ってくれればそれでいいさ!」


 結界について説明するミズネの手の中には、ビー玉くらいの大きさの結晶が乗っている。それがこの結界の核であり、俺たちの魔力を結界に変換する触媒なのだそうだ。その仕組みについてはミズネ以外完璧に理解してなかったが、どうやら今のところ結界づくりは上手く行っているようだった。


「本当だったら耐衝撃テストもやりたいけど、そんな時間は流石にないしね。何ならもう人も集まって来てるし」


「そうだな。……見た感じ、結構人だかりになってる感じか?」


「ありがたい話ね……告知もろくにできなかったから、チラシを区画ごとに配ってもらうくらいしかできなかったけど」


「それでも集客効果は十分、か。こりゃ責任重大だね」


 ネリンが冷や汗をぬぐう横で、アリシアは楽しげに笑っている。この大舞台を前にして笑えるのは、流石にアリシアの肝の太さの賜物としか言いようがなかった。


「俺はお前が羨ましいよ……俺も緊張せずにいられたらどれだけ楽か」


「……いや、別に緊張していないわけではないよ? というか、この舞台で緊張しない方が何かと問題がある気がするし。あいや、し過ぎてるのも考え物だけどさ」


 思わず俺がそうこぼすと、アリシアが目を丸くしてそう返す。それを横から聞いていたミズネが、ウッと柔らかく微笑んだ。


「アリシアの言う通りだな。緊張しすぎるのもよくないが、緊張を全くしないというのもまた毒になりかねない。この緊張を楽しんでいる、という方が近いのだろうな」


「ああ、そんな感じだね。……だって、胸が躍るだろう? ここまでずっと競い合っていたボクらが、最後には団結して一つの行事に幕を下ろす。争いあっていたといえど、ボクたちはずっと同じ目標を見つめていた。……それが、ここに来てくれた皆にも伝えられるんだからさ」


 その言葉に、俺とネリンは目を丸くする。その言葉の意味が伝わっていくと同時、俺の中にあった緊張が不思議とほどけていくような気がした。


「……そうだな。ようやく、共同作業ができるんだもんな」


「そうね。……折角なら、何よりも鮮烈に見せつけてやろうじゃないの」


 ネリンの表情が緩み、アリシアにそっくりな笑顔が浮かぶ。それを横目で見ていたベレさんが小さく頷くと、意を決したように舞台へと駆けだした。


「皆様、お待たせいたしました! 懇親会閉会セレモニー、ただいまより開始させていただきます!」

次回、懇親会クライマックスの開幕です!本作最長エピソードのフィナーレ、ぜひ見届けていた誰場と思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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