表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

416/714

第四百十四話『こだわりは負けないし折れない』

「いやあ、いいものが見られてよかったね。まだまだ大会は開かれるけれど、これほどまでにヒートアップする戦いは無いんじゃないか?」


「後半になるにつれてだんだん早押しが一方的になって来るはずだもんね……一番ちょうどいい具合の時間に来れたのはラッキーだったかも」


 アリシアたちの区画を後にしながら、俺たちは熱狂の余韻に浸っている。体の芯が熱くなるようなじんじんとした感覚が、大会が終わって十分位した今でもはっきりと残っていた。


「それでも、積み上げてきた時間ってのはそのまま意地やプライドになるものだからね。最後の一戦なんかは特にそれが如実に出たんじゃないか?」


「執念で勝ち取ったって感じだったもんな……あのガッツポーズ見て文句言えるやつは誰もいねえよ」


 司会が正解を告げた瞬間、大会の優勝者は倒れ込むくらいの勢いで椅子にもたれかかっていた。その動きの流れで形作られたガッツポーズは力なかったかもしれないが、それでも戦いの終わりを飾るには一番相応しいものだったんじゃないだろうか。


「言ってしまえば昨日今日の知識な挑戦者と、この日のため、制作を作り上げるために時間をかけて学んできたメンバーの人たちの戦いだからな……その肩に乗る緊張感と言ったらなかっただろう。その中で優勝を見事持ち帰ってきたんだから、見事としか言いようがないさ」


「超えられるのも時間の問題とは言え、少しでも多く勝ちたいのは事実だろうからね。教えた側のボクとしても、学んだことに誇りを持ってくれるのは素直に嬉しかったよ」


 頬に手を当てながら、アリシアは目を細めてそう口にする。手に隠れてその大部分はよく見えなかったが、その頬は紅潮しているように思えた。


 あくまで中立を保って俺たちに解説してたけど、なんだかんだで一緒に製作を作り上げたメンバーたちのことを応援してたんだろうな。それを直接口にしないのがアリシアらしさでもあるし、その人たちをひいきするよことをしないのがアリシアのいいところだ。


「最後の一問くらい声援を送ったって良かったでしょうに。それだから冒険者の人たちも中々アンタに踏み込めなかったんじゃない?」


「そりゃ仕事中は一線を引くさ。それに、あそこでボクが立ち位置をぼかすようなことをしては興ざめだろう?ボクも皆も、あの大会の中では等しく一人の観客でなきゃいけないのさ」


「それがアリシアの美学、ということなのだろうな。私もこだわりは強い方だと自覚しているし、その気持ちは分からないでもない」


 肩を竦めるアリシアに、ミズネが同調するようにうなずく。そういえば、初めてアリシアと話した時も店員の時とそれ以外の時の切り替えが凄かったもんな……今更店員モードのアリシアを見る機会はそうそうないだろうが、あれはあれで一部の層には人気なんじゃないだろうか。俺は今のアリシアのが接しやすくていいけどな。


「こだわりっていうなら、あたしも譲れないことは結構あるけど……そんなこと言ったら、ここにいる皆こだわりなんてめちゃくちゃ強いんじゃないの?」


「かもな。それに関しては否定できないわ」


 何かに気が付いたようなネリンの言葉に、俺は思わず吹き出してしまう。俺も図鑑に対しては譲れないものがあるし、そこに関してのめんどくささは折り紙付きのものだと思う。そういうのって、いくら自覚しても治らないのが面倒なところなのだが――


「もともとこのパーティは個性のるつぼのようなものじゃないか。それがうまくかみ合ってチームとして成立していることが、ボクたちのことを語るにあたって一番奇跡的な事なんじゃないのかな?」


「お互いのこだわりがうまく重ならないで独立しているからな。だからこそお互い尊重し合えるし、こだわりがあるところはその持ち主に任せて動くことが出来る。これが一つでも被っていたりしたら大変なことだ」


「取っ組み合いの大げんか待ったなしね。それでいて決着がつかなさそうなのがこれまた厄介というか」


「……それ、絶対定例会の人たちのこと思って言ってるだろ」


 俺の指摘に、ネリンは軽く舌を出す。バレたか、とでも言いたげだったが、むしろ俺からしたらその光景しか思い浮かばないくらいにはっきりとした表現だったんだよな……。


 『懇親会のあるべき形は何か』というテーマに対して、あそこにいる人たちはそれぞれ微妙に違った理想を持っている。その答えに不正解はないし、何なら全部正解と言ってもいいくらいだ。それがあるからこそあの議論は永遠にまとまらないのだが、まあその熱量こそが懇親会をこんなに大きくしたって考えればそれもまあご愛敬……なのか?


「あの手の信念って、たとえ負けても消えなかったりするものだからね。今回ボクたちの出し物を通してある程度の決着がついても、次の懇親会の時にはそんなのなかったみたいに喧嘩が起こってたりして」


「毎回この形式で行けるとも限らないもんね……というか、正直二回やれるような引き出しはないし」


「それはそうだな。半年後の懇親会は、私たちではない誰かに託すとしよう」


 二回目の議論を想像したのか、ネリンはげんなりとした表情を浮かべる。それを見て苦笑したミズネの提案に、俺たちは一も二もなく頷いた。


「……まあ、それもこれもとりあえずはこの懇親会を綺麗に締め括ってから、だけどな。せっかく勝負の決着がつくんだし、最後まで全力で盛り上げてやろうぜ?」


「……ああ、そうだね。祭りの終わりは寂しいものだけど、それを忘れさせるくらいに最高の幕引きにしてやろうじゃないか」


 俺の発破に、アリシアが真っ先に応じる。それに続くようにして、残りの二人からも大きな頷きが返ってきた。


「さて……それじゃ、最後の打ち合わせと行きましょうか!」


 景気のいいネリンの掛け声を聞きながら、俺たちは街の中心に向かって歩みを進める。最後の打ち合わせが行われるギルド本部は、もうすぐそこだ。

長かった懇親会編もとうとう大詰めです。最後まで楽しんでいただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ