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第四十話『エルフたちの世界』

「……さあ、着いたぞ」


 白い光に包まれて、いったいどれくらいの時間がたっただろうか。ミズネさんの言葉に従って目を開けると、そこに広がっていたのは幻想的な光景だった。


 視界のあちこちには色とりどりの花が咲き誇っているのが見え、小さな蝶がひらひらとその周りを舞っている。一見すると地球にもいそうだったが、蝶の飛んだ道筋に残るきらきらとした鱗粉が明確な違いだった。光を受けてステンドグラスのように色とりどりに輝くそれは、この景色をさらに幻想的なものへと押し上げている。


「綺麗……絵画とかで見たことはあったけど、それの何倍もすごいのね……」


 ふと隣を見れば、ネリンがぽかんと口を開けながらその景色に見とれている。ずっと憧れてるって言ってたもんな……その感動は俺より何倍も大きいだろう。


「今は花盛りの季節だからな。二人とも気に入ってくれたようで何よりだ」


 子供のように見とれる俺たちを見てミズネさんはうれしそうに微笑み、すっと一本指を立てる。その指が淡い光を放つと、さっきまで花の周りを飛んでいた蝶の一匹が指先で音もなく羽を休めた。


「綺麗だろう?この蝶は魔力にひかれる性質があってな、うまくやればもっと集めることもできる。それでいて装飾品の材料にもなるから、ずっと前から私たちの生活を支えてくれているんだ」


「へえ……それって、カガネの町とかにも売ってるのかしら」


「どうだろうな……機会があれば、君たちにこの蝶の幼虫が作った糸からできた布と鱗粉でできたハンカチをプレゼントできないか掛け合ってみるよ」


「ほんと⁉ありがとう!」


 ミズネさんの返答に、ネリンは飛び跳ねて快哉を叫ぶ。さっきまでへとへとだったはずだが、憧れの景色の前ではそんなことは気にならないようだった。


 そんな風に、俺たちが美しい景色を堪能していると――


「……ミズネ⁉久しぶりじゃないか!」


 唐突に、そんな声が聞こえてきた。


「……ああ、オノンじゃないか。……そういえば、ずいぶん顔を出していなかった気もするな」


 ミズネさんは慌てて振り返ると、安堵したかのように表情を緩める。その反応を見る限り、オノンと呼ばれた男の人はミズネさんの知り合いの様だった。


「『迷いの森に挑む』って言い残して里を飛び出していったもんだから、てっきり遭難しちまったもんだと……ばあさまも心配してたんだぞ?」


「すまないな……だが、ちゃんと収穫はあったさ」


 どこか困ったような口調にミズネさんは申し訳なさそうな表情をするが、その後ニッと笑ってアイテムボックスから薬草を取り出して見せる。それを見た瞬間、オノンさんの表情が驚きに変わった。


「それは……お前、迷いの森を踏破したのか⁉」


「勿論だとも。……ここにいる二人のおかげで、な」


 ミズネさんは大きく頷いて見せると、俺たち二人に水を向けた。


「二人……って、人間じゃないか!エルフの里に来るのは久しぶりだな……」


「そうかもしれないな。……だが、二人がいなければ私の目的は果たせなかっただろう」


 オノンさんは驚いてはいるようだったが、特に嫌悪感などはなさそうだった。それを確認した俺は一歩前に出ると、


「初めまして、花谷大翔です。冒険者としてやっているなかで、ミズネさんと知り合いまして」


 本当はもう少し複雑な事情があるわけだが、それは話してもしょうがないことだ。俺がそうやって頭を下げると、それを見ていたネリンも続いた。


「あたしはネリン。……パパを超える冒険者になるために旅をしてたら、ミズネさんと知り合ったの」


「なるほどな……人間が来るのは珍しいが、ミズネの恩人とありゃあ話は別だ。歓迎するよ、お二人さん。俺はオノン。エルフの里で魔術の研究をしてるもんだ」


 俺たちの自己紹介を一通り聞き届けたあと、オノンさんはそう言ってにこやかに微笑んでくれた。


 それにしても、魔術の研究か……難しい題材ではあるだろうが、俺としては非常にロマンを感じるテーマだ。今度見学できないか後で話してみよう。


 俺がそう決意していると、ミズネさんがふっと微笑んだ。


「話が速くて助かるよ。……妹は、今どうしている?」


「心配しないでも大丈夫だ。二十四時間体制で回復術をかけてるから悪化はしていない。……逆に言えば、今まで快方に向かうこともなかったわけだが」


 後半で真剣になった表情に、オノンさんも真剣な表情で返す。そこに悔しがるような色が見えたのは、やっぱり自分へのふがいなさなのだろうか。


「いや、里の皆には本当に感謝しているよ。お前の研究が無ければ、薬草を探すための時間すら私にはなかっただろうからな」


「……そう言ってくれると救われるよ」


 ミズネさんのねぎらうような言葉に、オノンさんは力なくだがはっきりとほほ笑んだ。よく見ると、目の下にはクマが見えている。魔術の研究の中には、きっと医療術のもあったんだろうな……


「『たまには気晴らしを』って長老に言いつけられて外に出たんだが、思った以上にいい出会いがあったよ。やっぱし長老の言葉は聞くもんだな」


「長老様の勘はすさまじいものがあるからな……私としても、最初に顔を合わせるのがオノンで助かったよ」


「そうだな。……三人ともついてきてくれ。吉報をもたらす客人だ、里を上げてもてなさせてもらおう」


 そう言うと、オノンさんはくるっと反転する。ミズネさんに変わって、俺たちを先導してくれるようだった。その厚意にありがたく甘えさせてもらうことにして、俺たちはオノンさんの背中についていく。


――エルフの里は、すぐそこにまで近づいていた。

エルフの新キャラも登場し、物語はここから更に賑やかになっていきます!見知らぬ土地でどんな物語が展開されていくか、次回も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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