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第四百六話『並び替えて、組み立てて』

「伝統を受け継いだってのはこの懇親会の中でしっかりと個性として生きてるもんな……事実昨日も今日もたくさんの人が足を運んできてるみたいだし」


「ああ。去年までのそれを見ていればこうなるだろうというなんとなくの予測はあったが、それがこうして形になってくれたことは嬉しいよ。……私の見た輝きが独りよがりなものではないと、証明できたようなものだからね」


 俺の独り言に、クローネさんが振り向いてそう答える。何かを噛みしめるような言葉遣いには、クローネさんなりの信念が見え隠れしているように思えた。


 伝統を引き継ぐって言っても、それを構築してたメンバーが一切合切居なくなってるんだもんな……そんな中でもそれを絶やすまいとするのは、よほどの思いと分析が無ければ不可能な話だろう。


「去年という明確な比較対象がある中で、ここまでの物を作り上げてきたというのは本当に素晴らしい事だと思うよ。ヒロトとミズネは写真でしか知らないだろうけど、去年までの展示は本当に絢爛豪華って言葉がしっくりくる感じでさ、間違いなく芸術の領域にまで到達してたんだよ」


「そうね。だからこそそれを継ぐっていうクローネさんの意志についてくる人も多かったし、それを支えようってするあたしのプレッシャーもすごかったんだけど」


「大丈夫だ、ネリン女史は私たちにとって間違いなく必要な存在だった。君が居なければ、私たちはこの二日目を乗り越えられていないのだからね」


 ネリンの肩を優しくたたきながら、俺たちはさらに展示へと近づいていく。そうなるにつれて継ぎ接ぎに組み合わされた表面がよりはっきりと見えてくるのだが、不思議なことにそれまで含めて一つの作品のような一体感を放っているような気がした。


「この継ぎ接ぎにはもう一つのテーマが隠されてる、って言ってたっけ。そろそろ種明かししてもいいころなんじゃないか?」


「ええ、その通りかもね。……クローネさん、大丈夫ですか?」


「ああ、延々と引き延ばすのも興ざめしかねないからな。君のアイデアなんだ、自信をもって発表するといい」


 ネリンの視線にクローネさんは即答し、ネリンを立てるように一歩後ろに下がる。オウェルさんとは全く違うタイプのリーダーなのは今更言うまでもないが、その在り方もまた優秀なリーダーであることは俺にもひしひしと伝わってきた。


 クローネさんに背中を押されたネリンは、少し緊張したように軽く息を吐く。そのあと軽く頷くと、近くにある一つの作品を指さした。


「……あれをはじめとして、今日の作品は全部継ぎ接ぎでできてるんだけど……そのパーツの中に、見覚えがある物はあったりしない?」


「見覚え……?」


「そう言われても、作品の造形自体から昨日のものとはまた違うし――いや、ちょっと待てよ?」


 唐突な疑問に首をひねる俺の横で、アリシアが何かに気が付いたように声を上げる。そのまま足早にネリンが指さした作品に近寄ると、その中の一点をじいっと見つめた。


「……ああ、どうやらくみ取ってくれたらしいな。ネリン女史の評価は正当なものであったらしい」


「でしょう? 大体のことは出来ちゃうし、理解もできちゃう。今に関しては、それがありがたいんですけどね」


「隠されたメッセージを読み解くのはボクの使命ともいえるからね。今回のそれはアナグラムのようなもの――仕組み自体は単純なものだけど、まさかそれをこんな制作に用いてくるとは全く予想外だ」


 アナグラム……確か、文字を並び替える暗号のことを指している用語のはずだ。ミステリー用語図鑑の中で目にしたことがあるから俺も知っている。……だけど、文字も何もないこの制作の中でその用語が出てきたのは謎だ。キーワードが出てきたのは良いが、それと同時に解かなければならない問題がまた一つ増えてしまった。


「並び変える、あるいは組み替える、か。そのヒントはとても的確かもしれないな。私もなんとなくネリンの仕掛けに察しがついたぞ」


「だろう? 少々使い方としてはイレギュラーが過ぎるけど、なぜだかこの言葉が一番しックルクル気がしたんだ」


 しかし、その隣でミズネは何かを閃いたようにうなずく。アリシアが満足げに頷いているのを見ても、ミズネはそのヒントを正しく受け取ったらしい。


 並び変えることの意義は、並び替えることで新しい意味が見えてくることだ。つまり、組み立てられたあのオブジェたちはそうなることで新しい価値を獲得していることになるわけなのだが――


「……ん?」


 そこまで考えて、俺はオブジェのある一点に目が行く。荘厳な装飾の中に、見覚えがあるパーツが使われているような気がしたのだ。


 となると問題はそれをどこで見たかということなのだが、それがどうもはっきりしない。星をモチーフにしたそのパーツをどこで見たのか、俺は最近の記憶を片っ端からひっくり返して――


「……それ、昨日の展示で一番でかかったオブジェに使われたパーツじゃね……?」


 背丈の三倍くらいはあろうかという大きなオブジェのてっぺん付近にかたどられていた、大きな飾り。目の前のオブジェに取り付けられていたパーツは、それと酷似していた。というか、間違いなく同じものだ。


「……ええ、大正解よ。それが、あたしのアイデアだもん」


「並び替え、組み立て直すことで、全く新しい制作を作り上げた、ということか。……まったく、ネリンのアイデアには度々舌を巻かされるね」


「まあ、そんな感じね。今日の制作は、中心になってるオブジェのパーツを昨日の脇役から、逆に脇役になってるオブジェのパーツを昨日の中心からくみ上げて作ってるの。……どう、驚いた?」


 全員がその意味に勘付いたことにどこか嬉しそうな表情を浮かべながら、ネリンはより正確な種明かしをする。悪戯っぽいネリンの笑みが、まっすぐに俺たちを捉えていた。

ネリンが仕込んでいた変化がついに明かされました!ネリンの珠玉のアイデアがどう映ったか、三人のリアクションを楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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