第四百四話『二日目の賑わい』
「……うん、今日もにぎやかね。何なら一日目より多いくらいかしら?」
「どうだろうね。二日間滞在してくれた人がどれくらいいるかにもよりそうだけど――」
屋敷に一番近い俺たちの区画をぐるりと見まわして、ネリンは歓声を上げる。その言葉の通り、少なくとも昨日より勢いが落ちているなんてことはなさそうだった。
「それにしても、展示の雰囲気がガラッと変わってるのね。これを夜のうちにやったと思うと、チームの人たちの努力が伺えるというか」
「ほんと、その働きには頭が上がらねえよ……俺のところは全部展示を一新してるから、余計に移動の労力とかはかかってるだろうからな」
俺たちの目の前にある展示は、昨日とはそのテイストをがらりと変えている。昨日の展示が冒険者の設備を整えている一幕を切り取ったものだとするならば、こっちは冒険者がひとりの住人として生活基盤を整えている側面をピックアップして展示しているような感じだ。
「これを考え付くまでには相当時間がかかったんだけどな。作ってくれたものは全部使いたいってのがおウェルさんの希望だったから、全部余すことなく活かしきれる展示スタイルを見つけ出すのは大変だったよ」
「だが、その甲斐は十分にあったように見えるな。もちろん主役と脇役の違いはあるかもしれないが、一つ一つの制作がその魅力を発揮している」
「そうだね。コンセプトが難しかった分、それが形になったときの完成度はすさまじいものだ。一日目とはまた違う印象を受けるし、二日間にわたって訪れた人にはこの制作の主体になった登場人物が同一人物であることに気が付ける。ネリンが掲げたコンセプトにも何ら反してはいないね」
メンバーが作り上げてくれた制作を見つめながら、ミズネとアリシアが頷く。はっきりと言いきられたその評価が、俺たちの道筋が間違っていなかったことを後追いで証明してくれているような気がした。
何が正しいのか分からないまま、気が付けば最終日までがむしゃらに走り続けてきたような感じだったからな……。これが一番いい形だったかはともかくとして、こうやって多くの人に受け入れられ、喜んでもらえているなら成功であることには間違いないだろう。願わくば、このまま優勝まで頂くことが出来れば理想的だが――
「……でも、お前たちも全力でやって来てるんだもんな。俺たちもやれることはやり切ったけどそれで上回れてるかどうか……」
「その不安はあたしだって一緒よ。アイデアを思いついたときは名案だと思ったけど、よくよく考えてみれば問題点も多かったし。多分だけど、皆少なからず納得いってないところはあるんじゃない?」
「……まあ、そりゃね。あくまで期間内でできることを全部やり切ったのが今回の展示だし。もっと長い時間と多くの予算を使えるというのならば、試してみたいことは星の数ほどあったさ」
「それに関しては私も同感だな。今回できることはやり切ったが、それでも試してみたかったことは数多い。私たちが選択した道が懇親会にとって完璧なものだったか、というところにも疑う余地は残されているからな」
ネリンの問いかけに、二人は少し悔しそうにそう語る。特にアリシアのところなんかは一切の無駄を省いたような綺麗な展示だったから、俺と同じような感覚を抱いているのは少し意外だった。
「ということは、結局この投票も接戦必至ってことか。そっちのが面白くはあるけど、心臓には悪い時間を過ごすことになりそうだな」
「プレゼンの時の投票もすごくひりついてたからね……。あまり緊張はしない性質だと自覚しているけど、それでもあのラスト十票は柄にもなく息を呑んだものだよ」
「あの手の緊張に慣れというものはあまり意味をなさないからな。私も舞台慣れしているつもりだが、それでも緊張というものを完全に飼いならすのには程遠い」
当時を懐かしむように語るアリシアに、ミズネが苦笑を浮かべてそう返す。里にいる時は秘書としてエイスさんについてたってくらいだし、魔術に関連するコンテストかなんかにも出たことがあったりするんだろうか。それでもこんな言葉が出てくるあたり、やっぱり大舞台ってのは何立ってもどこか特別なもののようだ。
「緊張しなさすぎるのもまあ問題だし、それくらいでいい気もするけどな。緊張するって言ったって悪い事ばかりではないだろうし」
「あ、それはそうかも。気が抜けすぎるのもよくないからクエストの環境は定期的に変えろってパパも言ってたし」
「まあ、今回のは特別が過ぎるけどね。これを経験すれば大体のことに動じず、緊張せずにいられそうなものだけど……」
「王都で何があるかは分かったものではないからな、そう言い切るのもまた早計だろう。だが、冒険者としての心構えを作るという意味では、この経験は中々に有意義なものだったのかもしれないな」
アリシアの言葉を引き継いで、ミズネがそう指摘する。王都で大舞台に立つことなんてできれば遠慮したいところだったが、今までの俺の旅路を思うと何事もなく終わるなんてことはなさそうなのもまた事実だった。
「できるなら穏便なテストだけで終わってほしいけどな……何かのはずみで城に行くなんて御免だぞ?」
「流石にそこまでのことは起こらないと思うけど……ま、今は目の前のことに集中しましょ。セレモニーの打ち合わせもあるし、出来るだけ早めに見て回らないと」
軽くため息をつきながら、ネリンが俺たちの先頭に立つ。手招きするその姿を追って、俺たちの懇親会観光ツアー二日目は足早に次の区画へ向かっていった。
「
二日目の予定が進行していくとともに、王都への出発も近づいてきています。彼らのこの先に何があるのか楽しみにしつつ、クライマックスに向かう懇親会を楽しんでいただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!




