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第四百三話『スーツが馴染むということは』

「私抜きでそんな楽しい事をしていたなんてつれないじゃないか。無理やりにでも起こして巻き込んでくれてよかったんだぞ?」


「いや、流石にそこまでする気にはならないわよ……あたしたちは緊張して眠れなかっただけで、これからのことを考えるとここはしっかり寝とかないとダメなところだしね」


 少しむすっとして見せるミズネに、ネリンは困ったように手をひらひらと振る。それを見てミズネはふっと笑みを浮かべると、「冗談だ」とネリンの肩を叩いた。


「とはいえ、私も緊張はしているんだがな。いろいろな場を経験していくと、緊張している中でもどうにか寝付く技術というのは身について行くものだ」


「何つーか、そこまで行くとプロの領域だよな……踏んできた場数が違うというか、歴戦の猛者というか」


「実際その通りだしね。エルフの長についていろいろな大舞台を経験したって話だし、緊張しているという事実と自分がするべきことを切り離して考える技術に長けているんだろうさ」


「そこまで冷静に分析されるとなんだか恥ずかしくも感じるが……まあ、大方その通りだ。重要な式典に出席するにあたって目の下にクマを作るようなことがあっては問題だからな。今となってはそこまで気張って考える必要もないのだが、どうにも癖としてしみついてしまったらしい」


 照れくさそうに頬を掻きながらも、ミズネが語る心構えは本物のプロのようだ。緊張をしっかりと漢字ながらもそれに流されないメンタリティは、長年の経験が作り上げた揺るがないものらしかった。


「経験が物を言う分野だとはいえ、しっかり自分をコントロールできるのは羨ましいよ……俺なんて緊張しいでどれだけ苦労してきたことか」


「アンタは割と度胸ある方だと思うけどね……そうじゃなきゃプレゼンの場になんて立てないわよ」


「アレはもう勢いだよ。お前たちが流れに乗ってくれたから、それを殺さないように頑張るしかねえって腹くくって突っ込んだんだ」


 ああいう場では変に間を取るほうが話しだしづらくなるからな。前の人が残してくれた雰囲気にただ乗りするというのは、雰囲気作りが苦手な俺からすると結構大事なスキルだった。


 まあ、何よりこっちに来てから度胸がついたってのもあるんだろう。自分が何とかしなきゃ手詰まりになってしまう場面ばっかりだったし、誰かの陰に隠れていて事態が好転することもない。そんな環境に置かれたら、嫌でも度胸はついてくるってものだ。


「その度胸にセレモニーでも期待するとして、そろそろ出発するとしよう。事前打ち合わせやら観光やらがあるから、意外とスケジュールはカツカツだぞ?」


「そうね。もう少しのんびりしたいところだけど、早いとこ動いちゃいましょうか」


 そう言って手元のお茶を飲み干すと、ネリンはゆっくりとソファーから体を起こす。その足で手際よく食器の片づけを終わらせていくのを横目に、俺たちは持ち物の確認を始めた。


「セレモニーは流石に正装だもんな……あれ、まだ服に着られてる気がしてなんとなく落ち着かないんだよ」


「誰だって最初はそんなものさ。かくいう私も、長老から与えられた正装に慣れるのに相当な時間を要したんだからな。『せっかくの美人なのだから存分に着飾るがよかろう!』だなんて言って、当時最高級の素材を使った服を仕立てていたんだよ」


「今のミズネがそれに負けないくらいには気品ある立ち振る舞いをしているのは確かだろうけどね。あまり見たことのないタイプの美人さんだし、あの方が気合を入れるのはなんとなく分かるよ」


 アイテムボックスにセレモニー用の服が入っているかを確認していることもあって、繰り広げられるのはやっぱり服装の話だ。アリシアの賞賛にミズネは照れくさそうにしていたが、その点に関しては俺からも言いたいことがあった。


「ミズネもそうだけど、お前らみんなびっくりするくらい美人さんだよ。それぞれタイプが違うというか、似合う服のジャンルが違うってところはあるけどさ」


 ミズネには大人っぽい服装が似合うし、アリシアはちょっとミステリアスなフード付きの衣装なんか来たらしっくりくること請け合いだろう。一番おしゃれに気を使っているネリンはその点しっかり自覚しているのか、少しボーイッシュな動きやすいコーディネートが定番になっているし、実際それが似合っていると思う。その中に俺が放り込まれると、どうにも浮いているような気がしてしょうがないんだよな……。


「そうやって自然に人をほめられるのがヒロトのいいところなんじゃないの?確かに着られてるような感じは否めないけど、そのまま行けばいつかは馴染んでくるでしょ」


「馴染むほどこのスーツを着る機会、この先あるとは思いたくないけどな……」


 スーツを着るってことはつまりかしこまった場にいるってわけで、それすなわち俺たちがまた大きな出来事の中にいるっていう証明にもなる。お祭り気分も悪くはないが、出来ればのんびり過ごしたいというのが本音ではあった。


「ま、祭りに関してはしっかり最後まで楽しませてもらうけどな。せっかくこういう機会なんだし、楽しまなきゃ損だろ」


「それに関しては異論の余地もないね。ボクたちが仕掛けた祭りではあるけれど、ボクたちも目いっぱい楽しませてもらおうじゃないか」


「いい心意気ね。こっちの準備も終わったし、そろそろ出発しましょうか」


 おそらく俺たちの中で一番張り切って準備を終わらせたネリンが、待ちきれないといった様子でドアノブへと手をかける。そのはしゃぎっぷりに苦笑しながら、俺たちもその後に続いた。


ということで、次回から二日目の変化が明らかになって来ると思います!四人はそれを見て何を思うのか、そして決着はどのような形でもたらされるのか!楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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