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第四百二話『眠れなかった朝に』

「おはよう。よく眠れた?」


「……正直全然。というか、こんな時間に起きてる時点でお前も眠れなかった性質じゃないのか?」


 窓から外を覗けば、夜と朝の境目がそこにはある。いつもと比べて明らかに早い時間に、俺とネリンは居間で顔を合わせていた。


「ま、そんなところね。テンションが上がっちゃったというか、やっぱり穏やかではいられなくて」


「そりゃそうだよな。……今日、一ヶ月の結果が出るんだからさ」


 ミズネとアリシアはまだ寝ているようだが、緊張するネリンの気持ちは俺にも痛いほどよくわかった。かくいう俺だって目がさえて眠れないからこんな時間に起きてるわけだし、水でも飲んでもうひと眠りするつもりですらあったしな。今日も朝早くから動く予定があるとは言え、この時間はいくらなんでも早すぎる。


「……こうやって顔合わせてると、先週末を思い出すわね。あの時に比べるとずいぶん明るい表情にはなってるみたいだけど」


「あの時はマジで世話になったよ……お前にはしばらく頭が上がらねえな」


「そんなに大げさに考えなくてもいいわよ。あたしはあたしのやりたいようにやっただけ。その結果、アンタを助けるのが一番いいって思っただけなんだから」


 俺の言葉に、ネリンは少し目をそらしながら答える。相変わらず素直ではなかったが、その言葉が半分正解で半分照れ隠しであることは流石の俺にも少しずつ分かってきていた。


「……自分のための行動の過程で誰かを助けられるなら、お前はやっぱり優しい奴だよ。俺はずっと自分のことで手いっぱいだった」


「無茶を覚悟でキヘイドリの大軍に突っ込んでいったアンタが今更何を言ってんだか……。今回はたまたまあたしに余裕があって、アンタはいっぱいいっぱいだった。だからあたしはアンタのそれが少しでも軽くなるように手段を紹介した。……うん、どこからどう見ても普通のことよ」


「それを普通って言えるお前がすごいって話だよ。このお返しはいつか必ずするからさ」


「そりゃそうよ。手が空いてる人はいっぱいいっぱいな奴の荷物を持ってあげる。何かあるたびに役割を変えながらそれを繰り返して、何とか前に進んでいくのがパーティってやつでしょ?」


 本当に何でもなさそうに、ネリンは助け合いの精神を説いて見せる。それが決して口だけじゃないところが、ネリンの一番の長所のように思えた。


「そうだな。……懇親会も、そうやってできてんだから」


「そういうこと。そうやって進んで来た証として、あたしはしっかり勝ち切りたいの。勝ち切るだけの自信はあるし、それだけの時間はかけてきたからね」


 ぐっと拳を握りこんで、ネリンは力強く宣言する。窓から差し込んだ朝焼けの光が、その表情を照らし出していた。


「お前、誰よりも負けず嫌いだもんな。そんなお前だからこそ、アリシアとずっと一緒にいられたんだろうけど」


「それは確かにそうかも。アリシアって何してもそれなり以上のクオリティを出してくるし、どれだけ頑張ってもそれに一足で追いついちゃうの……って、この話はかなり前にしたっけ?」


「ああ、してたな。アリシアがエルフの血を継いでるってこともあったけど、その気質もまた孤立しちゃう理由になってたんだっけ」


「そうそう。……ま、あたしも少し前にはそれが効いてて疎遠になっちゃってたんだけどさ」


 少し表情を曇らせながら笑うネリンの姿に、俺の脳内であることが思い出される。……そういえば、二人の間でよく聞く数字があったような――


「……二か月前、だっけか。コンビニに行ったときにそう言ってたから、本当はもう少し前の話なんだろうけど」


「そうね。あの時のあたしが一番自信が無くて、冒険者になれるかどうかもちょっと疑ってたの。……そんな中受けた試験クエストで、アンタと出くわしたってわけ」


「そりゃまた難儀なものだな。へこんでるときに俺みたいなやつはかなりわけわからなく映るだろ?」


「そうね。変な分厚い本を持ってるし、そんなに戦い慣れてる感じでもなかったし。……だけど、自信だけはあった。それに賭けてみたらドンピシャだったわけだから、ホント面白いわよね」


 そう言ってくすっと笑うネリンと一緒に、俺もふと笑みがこぼれる。ロマンの欠片もない出会い方ではあったけど、それが運命の出会いってやつなんだから本当に分からないものだ。


「そのめぐり逢いが生んだ対決が、ついに今日決着するってわけか。ここまでくるともはや祈る事しかできないし、もはや時の運レベルの接戦になりそうな気もするんだけどな」


「そうね。誰が勝っても納得できるし、そこに不思議なことは無いわ。……それはそれとして、負けたらめちゃくちゃ悔しいけど」


「そりゃそうだ」


 そう言葉を交わして、俺たちはもう一度笑みを交換する。早起き同士のやり取りを楽しんでいると、居間の扉がガチャリと開いた。


「二人とも、ずいぶんと楽しそうな話をしているじゃないか。……というか、いつから起きてたんだい?」


「そういうアンタも相当早起きだけどね。あたしたちも起きてたのはちょっと前からくらいよ」


 目を擦りながら、アリシアがゆっくりとソファーに腰かける。結果発表に向けた緊張は、どうやらごく自然なものであるらしかった。


「明日からの予定が詰まっている以上、少しでも眠ることが望ましくはあるけど……まあ、ちょうどいいや。どうせ眠れる気もしないし、ボクも混ぜておくれよ」


「もちろん。……といっても、そんな大した話はしてないけどな。ちょっと今までを振り返って感慨に浸ってたところだし」


「朝なんてそれくらいでいいのよ。まだまだ時間もあるし、せっかくならとことん浸りましょ?」


 新しい参加者を受け入れて、俺たちの会話はまだまだ広がっていく。賑やかな昨日の終わりから続く懇親会最終日は、眠れなかった者たちによってとても穏やかに幕を開けた。

次回、四人が二日目の懇親会に出発していきます。変化を楽しむだけの駆け足な旅にはなりそうですが、是非四人と一緒に楽しんでいただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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