第三百九十九話『自然と生まれた個性』
「そういえば、アリシアとミズネのところはどっちも情報網がとんでもなかったような気がするんだよな。噂レベルでしかないにせよ、俺たちのやろうとしてることをある程度キャッチしているような気がしてたし」
「あ、それはあたしも思ったかも。クローネさんが噂とかに一切気を配らないタイプの人だったから、その情報の正確さには驚かされたわ」
俺が準備期間のやり取りを思い返しながら問いかけると、ネリンも膝を打って追随してくる。その質問に二人は顔を見合わせ、困ったような笑みを浮かべた。
「ボクのところのメンバーはもともと情報収集が大好きな人間の集まりだからね。そういった人たちが集めて来た情報をすり合わせながら考えていけば、いつの間にやらある程度信頼性のある事実が浮かび上がって来るってわけだ」
「私のところはその逆というか、一人の噂好きなメンバーが大体の情報を収集してきていたな。どこでそんな情報を仕入れてきているかは全く分かったものではないが、その情報のおかげで助けられたのは紛れもない事実なんだ」
「俺のとことの微妙なテーマ被りも内々で解決してくれてたって話だしな。俺のとこにはその情報は入ってきてなかったし、あれに関しては本当に感謝しかねえよ」
曰くメンバーとの会話の中で得た情報だったらしいのだが、それなら俺たちの方にも情報が入ってきてしかるべきというか、そうじゃないと色々とおかしい気もするんだよな……なんというか、話し手としての適性が高すぎないか?
「これが良くない方向に使われてたらって思うと寒気がするわね……。そうなってたらあたしたちには勝ち目がなかったかもしれないわ」
俺と同じ考えに至ったのか、ネリンが自分の腕を抱きながらそうつぶやく。俺たちのチームは情報戦にあまりにも乏しいので、そうなった場合真っ先に優勝争いから脱落していたのは俺たちだろう。
「情報を利用するような真似をしたのは事実だが、その結果として両チームにいい結果が出ているからな。そもそも悪用しない、させないって前提はあったにせよ、提供者の方にもそのつもりが無くて本当に何よりだったよ」
「ボクたちも情報を集めることに関しては情熱を燃やすけど、それをどう扱うかってことに関しては割かし人並みの価値観で動いているからね。悪用しようなんて考える暇があったら自分たちの知識をさらに深めるためのことを考える、それがボク達だったってことさ」
「なんていうか、本当に個性的なメンバーの集まりだったのね……それもチームによってコンセプトが違うというか、それぞれ別の方向に振り切ってるというか」
二人からの解答に、ネリンは軽く息をつく。感嘆なのか呆れなのかは判然としなかったが、肩の力が抜けた様子だったのは確かだった。
「ある程度はネリンだってわかっていてこの話題を振ったんだろうに。そもそもボクの掲げた旗の下に集うような人たちだから、知識欲とか研究への情熱って点では他の人たちよりも優れているんだよね。……まあ、研究者は大体インドア派なのががたたって体力に自信のない人たちが集まるチームにもなってしまっていたわけだが」
ボクが掲げたテーマの専門家も多いから特にね、とアリシアは苦笑して見せる。そう言われてみると、カガネの歴史を追体験してもらうというテーマ自体からメンバーの個性は生まれているような気がしないでもなかった。
「プレゼンに賛同してくれた人たちが中心になってチームが結成されてるんだもんな。明確なテーマが決まってれば、そこに興味を持つ層ってのはある程度固まって来るってことか」
「そうだな。私たちのところには人とコミュニケーションをとることを生業とする人たちが多かった。そういう人たちは外から観光客の人と言葉を交わすことが多いから、そういうところで私のテーマとは親和性が高かったのかもしれないな」
「あたしはほとんどメンバーと話さなかったけど、考えてみればもともとそういう気質の人が揃ってたのかもしれないわね。職人気質というか、どことなくクローネさんと似てるというか」
「伝統を守ろうとする人たちだし、そういった使命感から淡々と作業をしていた、という可能性は考えられそうだね。普段最も多くの人と繋がりを築いているネリンが、準備期間においては一番狭いコミュニティの中で動いていたというのは中々に面白い話だけど」
興味深そうな表情を浮かべるアリシアに、ネリンは少し困ったような表情を浮かべる。この中で一番コミュ力が高いネリンが今回ばかりは一人の人物と打ち解けるために動いていたという事実は、俺にとっても確かに面白い事ではあった。
「しょうがないでしょ、あの人の考え方を理解して、あたしの考え方も理解してもらわなきゃ制作が成功するはずもなかったんだから……そりゃあたしだって色んな人の話を聞きたかったけど、その時間はあまりなかったのよ」
「三週間という期間は長いようで短かったからね。ボクもその時間配分を見失ったせいで、最後にかなり苦労させられたものだ」
「……へえ?それは中々に面白い話じゃない。思慮深いアンタがそういう分野でミスするなんてね」
アリシアの回想に、ネリンは意趣返しといわんばかりに笑みを浮かべて見せる。その反応を待っていたとばかりにアリシアは笑みを返すと、ソファーにぐっともたれかかった。
「まあ、そんなにややこしい話じゃないし、むしろこれほどにわかり易い話もないんだけどね。興味があるなら聞いて行っておくれよ、ボクの読み違いが生んだ、ラスト一週間の大騒動を、さ」
次回、アリシアたちが挑んだラスト一週間のエピソードに踏み込んでいきます!果たしてどんな苦境がアリシアたちを待ち受けていたのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!