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第三百九十八話『同じに見えて違ったもの』

「うお、うっめ……こんなジュースが街中で売られてるなんて知らなかったな」


 ゆっくりとジュースを流し込んだ瞬間、口の中にさわやかな甘みが広がって来る。しっかり濃いはずなのにしつこくないその風味は、ミズネが言っていたようにこのジュースが価値のあるものだということを証明していた。


「ボクもこんなジュースがあるなんて話は知らなかったとも。ミズネ、何か秘密があるんじゃないかい?」


 決して少なくない量を飲み干しながら、アリシアはミズネにそう問いかける。どうやら図星だったのか、照れくさそうにミズネは頭を掻いた。


「はは、流石にばれてしまったか。実はこれ、私たちのチームに所属してくれたうちの一人の店で今後販売する予定のものらしいんだ。それの試作品が結構余ってしまったという話を聞いたので、交渉して譲り受けて来た。……ああ、流石に代価は支払ったぞ?」


「なるほど、懇親会でできたつながりがそんな風に広がっていくのね……。あたしはもっぱらクローネさんと仕事をしてたから、そういうつながりが広がる事ってあんまりなかったかも」


「そういえば俺もそうだな……ジーランさんと基本的に一緒にいたし、他のチームメンバーとの絡みはほとんどないって言ってもいいくらいだ。別行動が多くなっちゃった以上、仕方のない話なんだけどさ」


 そこは多分チーム運営の形式の差なんだろうな。あくまで俺とネリンはチームリーダーの補佐って形で所属していたわけで、正面に立って皆を導くようなことはオウェルさんとクローネさんの役割に当たるし。その点二人はチームリーダーであり企画立案主でもあるから、どうしたって俺たちよりも他のメンバーとの交流は増えていくのだろう。


「意外とチームの在り方には差が出た形だよね。最初はネリンやヒロトの方が好条件にも思えていたけど、準備が進むうちにどうもそうじゃないらしい部分も見つかったりしてきたし」


「あたしも最初は補佐だからある程度負担の分散はできるかなあとか思ってたわよ……。考えが甘かったって気づくまでにそんなに時間がかかんなかったことだけが唯一の救いね」


「そう気づけばすぐに立て直そうって動けるもんな。気づくのが遅かったら完全に終わりだ」


 オウェルさんとクローネさんはそのスタイルこそ違えど、理想をしっかり持つという部分では明らかに共通しているところがある。俺たちは否が応でもそれに振り回されることを余儀なくされていたわけだが、その事実を甘く見ていた、というのが俺たちの苦戦理由としては挙げられるのだろう。


「オウェルさんの案は時折ぶっ飛んでいくからな……。ある程度信頼できてたから任せられたけど、それまでに関係性が築けてなかったらそんなことが出来るはずもないし。というか絶対に止めてたな」


「止めるにしたって、信頼関係が無ければ提案が通るわけもないしね……そういう意味ではクレンが一番の功労者なのかもしれないわね、あたしたちのチーム」


『チームリーダーと良好な関係を築く』という俺たちのミッションは、制作を完成させるにあたって必須かつかなり高難易度なものだった。なんせそこに一定の解決方法はないし、一度致命的な失敗をしてしまえば取り返すのも難しいからな。高校で自己紹介を失敗した後にリカバリーするのが難しいのと原理は大体一緒だ。


「そのフェイズを一切合切無視できるって考えたら、私たちは恵まれていたのかもしれないな。そもそもチームに集ってくれたのはある程度の信頼あってのことだし」


「だからこそすぐにやりたいことへと移行出来て、結果としてスタートダッシュを決められたってのは確実にあるだろうね。まあ、ボクはその貴重な時間を講釈を垂れるために使ったわけだが」


「それもあの制作に繋がってるし、むしろ大事な事でしょ。チームをまとめたいなら、目指すべき明確な完成像が描けることが大前提って言っていいほど重要なんだから」


「それが無かった俺たちは事実空中分解寸前だったわけだしな。オウェルさんがマジですげえからどうにかなってたけど、ありゃ本当に解散一歩手前まで来てたぜ?」


 思い思いのペースでジュースを口にしながら、俺たちの会話はヒートアップしていく。その話題の中心にはもっぱらチームごとの差があって、それが面白くもあった。


「解散一歩手前のチームがあんな素晴らしいものを作ったって考えると恐ろしいけどね……どういう手段で団結させたんだい?」


「団結って程綺麗なものでもなかったけどな……作りたいものがメンバー事で分かれたから、『じゃあお前たちでチームを組んでそれぞれ制作してくれ、その中から何を中心にするかは俺たちで決める』ってオウェルさんが勝手にアナウンスしただけだし」


 そんな背景もあるから、俺たちのは団結っていうよりは相互理解って言った方が近いのだろう。殴り合いの後で『なかなかやるな』『お前もな』みたいな感じで分かりあうイメージの方が、俺の中ではしっくりと来ていた。事実チーム始動当時の会議を放置してたら殴り合いに発展しかねなかったし。


「なんだかんだで皆、割と危うい綱渡りを潜り抜けてここまで来ているってわけだね……。こうやって打ち上げできるのも、皆してそれを超えてきたからなわけで」


「ほんと、しばらくあんな思いはしたくないわね……。越えた後は割と一本道だったし、作業する時間が楽しみにもなってきたんだけど」


「そういえば、一番制作に行きたがっていなかったのはネリンだったな。それも最初の方だけだったが、今思えばそういうことだったのか」


「何もかも変わったルールの中で何とかして去年までのやり方を通そうとしてた人だからね……その志の高さは尊敬できるけど、やっぱりちょっと近寄りがたかったのよ」


 その当時のことを思い出したのか、ネリンはジュースの残りを一気に飲み干すと、コップをゆっくりとテーブルに置く。そして俺たちの方に視線を向けると、


「ねえ、皆のところのチームエピソードも聞かせてくれない?あたしのところが打ち解けるまで一番時間はかかったでしょうけど、皆も大なり小なりハプニングがあったりしたと思うの」


「ああ、もちろん大丈夫だぞ。私たちのところにも愉快で素敵な仲間たちがいたからな、その存在を皆にも知ってほしかったんだ」


「ボクたちのチームも、思い返してみれば相当個性的な集団ではあったからね。面白いと思ってもらえるかは別として、聞いてほしい話はたくさんあるよ」


 それぞれがそれぞれの場所で奮闘していた三週間に、話題はさらに踏み込んでいく。そこに興味があるのは皆同じなのか、ネリンのその提案に俺たちは揃って軽く身を乗り出した。

ということで、にぎやかな打ち上げはもう少しだけ続きます!この先に懇親会二日目、王都行きと賑やかな予定が待ち受けていますが、その直前の和やかでのんびりとした四人だけの時間を楽しんでいただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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