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第三十九話『エルフの里への招待状』

「今から……って、かなりいきなりな話ですね?」


「そうね……あたしとしてはどうぞ喜んでって感じなんだけど」


 かなり突拍子もない提案に、俺たちは戸惑いの色を隠しきれない。そんな俺たちを見てか、もう一度ミズネさんは頭を下げた。


「すまない。かなり唐突な提案だとは分かっているんだ……あくまで私のワガママだと思ってくれ。強制はしないし、その場合でも君たちのことは責任もってカガネにまで送り届けよう」


 ミズネさんの言葉に、俺はネリンと顔を見合わせる。俺たちが出すべき答えは、どうやら一致しているようだった。


「……エルフの里、実は前から興味があったんですよね。ガチ勢のネリンがいた手前、おいそれとは言えなかったけど」


「ちょ、あたしのせいにするのはやめてくんない⁉確かにあたしもずっと前から行きたい行きたいとは思ってたけど!あたしを差し置いていくやつがいたらどうやってでもついていくけど!」


「それをガチ勢っていうんだよな……」


 予想通りかみついてきたネリンに、俺は肩を竦めて見せる。そんなある意味いつも通りの俺たちのやり取りを見て、ミズネさんは目を丸くする。……しかし、すぐに表情をほころばせた。


「……そう喧嘩するな。行くというなら、当然二人とも連れていくさ」


 少し呆れたような口調だったが、その眼もとは朗らかに笑っている。さっきまであった緊張は、どうやらすっかり抜けてくれたようだった。


「……それなら解決ですね。なあネリン?」


「そうね……独占できないのは残念だけど、こいつ一人でカガネまで帰れるとも思えないし」


 少し乱暴に話を振ったことを根に持っているのか、ネリンは少し皮肉交じりにそう返してくる。それに関してはド正論なのであいまいな笑いを返しておいて、俺はミズネさんに視線を向けた。


「本当に、君たちはどこまでも……ありがとう。君たちの心遣い、ありがたく受け取らせてもらう」


 さすがにわざとらしさが過ぎたのか、ミズネさんが気負い過ぎないようにしようという俺たちの暗黙の合意は見抜かれていたらしい。そのうえで柔らかい笑みを見せてくれるのは、ミズネさんの気遣いに他ならなかった。


「そうと決まれば出発しよう。急かすようですまないが、一刻も早く妹のもとに向かいたいんだ」


 そう言うと、俺たちの方にずいと歩み寄って来る。荷物がちゃんと背負われていることを確認すると、おもむろに俺たちの方へと手を伸ばしてきた。


「……さあ、私の手を取ってくれ」


「手……?」


 確かにまだ体に力は入り切らない状態ではあるが、それでも歩くことぐらいなら何とかなる。それなら、戦えるミズネさんの手がふさがらないようにした方がいいとは思うのだが……


「ああ、歩くわけじゃないぞ?テレポートでエルフの里まで向かうんだ」


 なんて思ってると、ミズネさんが予想を超えたとんでもないことを口にした。


「テレポート……って、あのテレポート⁉なかなか使える代物じゃないのよ⁉」


 その言葉に真っ先に反応したのはネリンだ。やはり冒険者と接した経験が長いだけあって、テレポートが使えることのえげつなさは十分に分かっているようだった。


 俺も気になって図鑑を開いてみると、テレポートに関する記述は比較的簡単に見つかった。なんでも、『持っておいて損はないが習得するまでにたくさんの時間を浪費しかねない』魔法だそうだ。


 センスのある魔法使いでも、習得するには年単位の修業を要するのだとか。だからこそテレポートを使える人間というのはそれだけで重宝され、『テレポート屋』と言う商売すら誕生しているらしい。


 それを使えるというのなら確かにネリンの驚きも納得というものだが、当事者であるミズネさんは予想外にあっけらかんとしていた。


「そんな大したものじゃないさ。私が使えるのは、あくまで特定地点に対するテレポートだけだからな。それもエルフの里限定となれば、普段使いするのはなかなか難しい」


 準備にも大量の時間がかかるしな、とミズネさんは付け加えた。確かにそう聞くとそんなに使い勝手がいいものにも見えないな……ポンポン使えるならそれこそ迷いの森の攻略だって余裕だっただろうし。そうもいかないあたり、ミズネさんの言ってることもあながち間違いではないのかもしれない。


「到着地点が固定されてるにしたってすごいことには変わりないんだけどね……やっぱりエルフとは少し価値観って違うものなのかしら」


「どうだろうな。エルフの中にもテレポートを重んじる派閥がいるのは事実だ。……さあ、手を」


 ネリンの疑問に困ったように微笑みながら、ミズネさんの手が俺たちの方にもう一歩伸ばされる。細くてひんやりとしたその手を取ると、俺たちの体内に何かあたたかいものが流れ込んでくるのを感じた。原理はよくわからないが、これがきっと魔力というものなのだろう。


「……二人とも、今日はありがとう。何もないところかもしれないが、どうかエルフの里を満喫していってくれ。私たちも、精一杯のもてなしをしよう」


「はい。……どんなところか、楽しみです」


「ええ。ずっと憧れてた場所だもの、目いっぱい観光するわ!」


 俺たちの返答に、ミズネさんは嬉しそうに微笑む。それを最後に、俺の視界が白い光に包まれていく。それは、異世界転生の時にも似ている気がした。そのせいなのか、不思議と不安な気持ちはなくて――


「……それでは、君たちをエルフの里へ招待しよう。…………『テレポート』‼」


 ミズネさんがそう口にするのを、俺は穏やかな気持ちで聞いていた。

舞台をエルフの里に移し、ヒロトの二日目はまだまだ続きます!これから先に何が待ち受けているのか、次回を楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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