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第三話『カガネの町にて』

――門をくぐった先にあったのは、どことなく中世を思わせる街並みだった。


「うわ、すっげえ……」


 思わず、俺の口からそう言葉が漏れる。図鑑で見たことはあったが、直接見るのはまた別の感動がある。門につながる大通りは石畳できちんと整備されており、左右からいろんな声が飛び交っていた。聞いたことない単語がちらほら聞こえているが、異世界特有の何かだったりするのだろうか。多くの人が生み出す熱気は、どことなくスクランブル交差点を思わせた。


「……えと、ここが一番通りか」


 人の隙間を潜り抜け、どうにか壁にもたれかかって図鑑を開く。カガネの町の案内図を探し当てて調べてみると、どうもこの街には四本の大通りがあるようだった。


 俺が入ってきた門を始点に時計回りに一番から四番の数字が振られているらしく、それぞれ違ったジャンルの商店が競って商売をしているそうだ。その整然としたつくりも、『冒険者の始まりの町』として名をはせている理由なんだとか。

 そして、四つの大通りが交わる点に位置するのが――


「冒険者ギルド、か」


 ふと視線を向けた先にあったのは、三階建てほどあるだろうかという大きな建物。すべての通りから直接入れるように設計されたそれが、カガネの町の冒険者ギルドだった。この街のどこからでも見えるようにと大きく建築されたらしいが、それはぱっと見役所といわれてもわからないほどのスケール感だ。


 図鑑にも、『カガネの町に着いたらとりあえずギルドへ行くのが吉!』とわざわざアンダーラインまでひかれて強調されている。……まあ、最初の目的地にしては適正なのだろう。それにわざわざ逆らう必要も感じなかった。


 俺は図鑑をしまい、騒がしい人ごみの中を歩く。しかし不思議と騒がしさに不快感は感じず、感じるのは『本当にここは異世界なのだなあ』という感慨だけだ。……案外、俺も異世界転生というものにワクワクしてるのかもしれない。足取りも、いつもに比べて軽い気がした。時々視線を感じるものの、大方俺の服装が少し変わっているからだろうと思うと気にするほどでもなかった。


「……間近で見るとなおのことでかいな……」


 歩くこと十分ほど、特に大きなトラブルもなく俺はギルドの入口へとたどり着いた。酒場を思わせる木製の扉はせわしなく開閉を繰り返しており、それだけでもこのギルドの賑わいが容易に想像できた。


 俺がその光景をぽけーと口を開けながら見つめていると、誰かがその隣に並ぶ気配。すっと横を振り向いた先にいたのは、


「その恰好……ギルドに来るのは初めてかい?」


 そう言って豪快に笑いかける、三十代ほどの男の人だった。


「……はい。ちょっと、職を探してここまで」

「そうかそうか!いやー、立派なもんだ。俺がお前さんぐらいの時はまだオヤジの手伝いしかさせてもらえなかったんだからな。誇っていいぜ」


 俺がおずおずと答えると、男の人はガハハと笑いながら俺の方をバシバシと叩く。それは結構な勢いだったが、どうもこちらに敵意はなさそうだった。無知な人間を狙った悪党の線も消しきれなかったが、それならそれで図鑑に注意喚起が無きゃおかしいからな。


「ありがとうございます。……あなたは、冒険者を?」

「おうよ!今日も少しばかり狩猟をな。ああ、俺はベレってんだ。名乗るのが遅れてすまんな、怖がらせてしまっただろう?」

「いえ、お構いなく。俺は花谷大翔といいます」


 男の人――ベレさんは誇らしげに何かが入った袋を見せながら、そう名乗ってくれた。俺も続けて名乗ると、


「ヒロトか、いい名前じゃねえか!それに黒髪黒目とは、お前さん縁起がいいな!」


 そういって、俺の方をさらに強くバシバシと叩いた。……正直、少しじんじんしてきてる。しかし、それよりも気になることがあった。


「黒髪黒目が、縁起がいい、ですか?」


「ああ、この街の伝承でな!この街を訪れる黒髪黒目の少年は幸福に恵まれるとか、そういう噂だ!」

「幸福……ですか」

「そうそう!その本人だけじゃなく、この町全体にとっても吉兆ってわけだ!お前さん、重宝されるぜ?」


 そこまで言い切って、ベレさんはガハハッとまた豪快に笑う。……黒髪黒目の少年、か。道理でちょいちょい奇異な視線を感じたわけだ。


 『黒髪黒目の少年が幸福をもたらす』。さしずめそれは、神が俺よりも前に送った日本人のことをさしているのだろう。つまり、俺みたいに神から何かを授かった人間がほかにもここに来ていたというわけで。その人らが活躍したなら、そういうジンクスになるのも納得の話だ。


「……ベレさんは、俺のほかにそういう人を見たことがあるんですか?」

「いや、俺は初めてだ!何なら今ヒロトと会うまでおとぎ話の類だと思ってたぐらいだしな!」


 俺の質問攻めにも、ベレさんはいやな顔一つせずに答えてくれる。冒険者というと荒くれ物のイメージが強かったが、どうもこの世界ではそうでもないようだった。


 それにしても、おとぎ話……か。その発言を考えると、この世界で同郷の人間に会うのはいささか難しいかもしれないな。多分、時系列が大幅にずれているのだろう。


「……っとそうだヒロト、お前さんこの中に用があるんだろう?良ければ案内するが、どうだ?」


 俺がそんなことを考えていると、ベレさんがそう提案してくれる。……正直、願ってもない話だった。


「……ありがとうございます。少ししり込みしちゃってる部分もあって」

「そうだろうそうだろう、俺もなんせそうだったからな!そら、そうと決まればこっちだ!」


 ぺこりと頭を下げると、ベレさんは豪快な笑みを返してくれる。……どこまでも、底抜けにいい人だ。


 冒険者らしい大きな背中について扉をくぐると、そこは酒場のような空間だった。あちこちのテーブルに数人組の集団が腰かけており、思い思いの食事をとっている。……これ全部、冒険者か?


「冒険者ギルドは酒場もかねててな!誰でも食事はできるが、今の時間にいるのは大体冒険者で間違いねえさ!」


 なんせ昼から飲めるのなんてこの仕事くらいだからな!とベレさんは笑う。……なるほど、確かに冒険者は休み方も自由なら時間帯も不安定だもんな。


 と、そんなベレさんの笑い声につられたのか、何組かのグループがこちらを見やる。いきなり視線にさらされ、俺は少し身構えたが――


「おう、ベレじゃねえか!こっちで飲もうぜ、いい酒が入ったんだ!」

「そっちは見ない顔だな……おお、黒髪黒目か!」


 と、飛んでくるのはフレンドリーな声ばかりだった。それに安堵し、俺はぺこりと頭を下げる。


「花谷大翔といいます。……皆さん、よろしくお願いします」


「なんでもこいつは職を探しに出てきたお上りさんらしくてな!お前ら、仲良くしてやってくれよ!」


 自分で振り返ってもなんとも簡素な自己紹介だったが、それをベレさんがフォローしてくれる。もう一度深々と頭を下げると、酒場がにぎわった。


「おう、よろしくな!」「今度うまい飯教えてやるよ!」「いずれ一緒にお仕事しましょうねー!」……などなど、飛んでくるのは歓迎の声ばかり。こういうのに厳しい人は一人はいるもんだと思っていたが、どこまでもこの街の冒険者は暖かいみたいだ。……ギルドに行くのをあれほど強くお勧めできるのって、きっとこれが理由なんだろうな。


「そんなわけでな、今日は酒はお預けだ!後で飲んでたら入れてくれや!」


 そういうと、ベレさんは俺の背中を押して歩き出した。歓声に送られながらそれに促されるままについていくと、そこにあったのは長蛇の列。みんな思い思いの大きさの袋を持っているその様子は、どことなく達成感にあふれていた。


「……ベレさん、これは……」


 俺が問いかけると、ベレさんは笑顔とともにサムズアップしてみせると、


「おう、ギルドカウンターだ!冒険者になるなら、とりあえず顔見せはしとかないとな!」


 そう、はっきり言って見せたのだった。

 ……え、テンポ早くね?

早くも百PV突破ありがとうございます!自分の書いた小説が予想よりも多くの人に届いているととても嬉しいと同時に身が引き締まる思いです。これからも頑張るのでどうかついてきていただけると幸いです。同時に連載している『ゴッド・リコレクション』も良ければぜひ!どちらも今のところ毎日連載です!

『テンポが速い』と驚いていた大翔ですが、物語はまだまだこれからが本番ですのでどうぞお楽しみに!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!


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