第三百九十三話『こだわりの仕込み』
「これは……想像していた屋台料理よりはるかに豪華な装飾が為されているね。この座席が野外になければ、この状態で普段営業していると言われても信じてしまいそうだ」
「そうだな……皿などにも妥協が見られないし、盛り付けも丁寧だ。これが懇親会の屋台で提供されるとは驚きだよ」
運ばれてきた料理を少しずつ切り分けながら、アリシアとミズネは感嘆の声をこぼす。それぞれの手元に食器を配っていたオウェルさんが、ここぞとばかりに身を乗り出してきた。
「そうだろ?これが二店舗協賛の底力、俺たちの仕掛けたもう一つの工夫だ。せっかく二店舗が協力してくれるんだから、それぞれが営業するだけじゃ物足りねえよ」
「そうですね。……まあ、それを発案したのは俺ですけど。それにしても、エリューさんのデザインは本当にきれいで無駄がないなあ」
「そうね、本当に綺麗……って、これもおばちゃんの作品なの⁉」
会話の中でしれっと明かされた裏話に、ネリンが驚いたようにのけぞる。こういう形でレストランとお土産屋さんという二店舗を交わらせるのが、俺たちが仕掛けた最後のサプライズだった。
「ヒロトが初めにこの案を持ち込んできたときは本当に驚かされたけどな。考えれば考えるほど効率的で、それでいて客も呼び込めるっていうおまけつきだ。エリューさんの負担だけが気がかりだったが、快く引き受けてくれてホッとしたぜ」
「これこそが協賛の一番いいところ、ってな。ただ隣同士で営業してるだけじゃ二店舗が一緒にこの空間を作った意味がねえし」
巻き込んだ側としては少しでもいい形で皆に完成形をお届けしたかったからな。発端は完全に俺の自己満足だが、それが周りにも好評なようで何よりだ。
「これがヒロトの考えた屋台スペースの使い方、活かし方ってことか……なんというか、色々とスケールが違い過ぎてボクには想像もつかなかったよ」
「協賛って言葉を祭りに落とし込もうだなんて考えてもやらないでしょうしね……。ヒロトだからこそできたことというか、環境の違いがこういうところでも出てきてるというか」
「協賛って言葉を使ってくれたのはあちら側なんだけどな。独占契約をしようとしたらいつの間にかこうなったって感じだ」
協賛の方が色々と都合のいい部分が多かったし、発案してくれたレストランの店主さんには本当に感謝しかない。独占契約だったらエリューさんとの交渉がややこしい事になってただろうし、融通の利きやすい形にしてくれてありがたい限りだった。
「いろいろな人の知識が揃ってここがあるってわけね……。あたしたちは屋台にあまり時間をかけなかったこともあるし、差がついたって感じがするわ」
「こればっかりは大人数チームの強みだろうな。準備の二週間目、俺ずっと交渉のためにジーランさんと商店街を駆けずり回ってたんだぜ?」
「あの時は本当にありがとうな……。俺は交渉とかそういうのは向かねえし、ヒロトがいてくれて本当に助かった」
「適材適所、ってやつですよ。俺にはあれだけのチームをまとめるのは無理ですし」
アレばかりはカリスマがなせる技ってやつだからな。真似しようとしてできるものでもないし、そればかりは羨んでも仕方がない。そもそも俺にリーダーって立ち位置はなんとなく合わない気がするしな。
「……さて、とりあえず小分けは終わったか。それじゃあ、皆で交換していくとしよう」
そんな会話をしている間に、俺たちは料理を小皿に乗せ終える。頼んで多めにつけてもらった小皿があれば、皆が頼んだ料理を一通りシェアすることはわけなかった。
「皿もいいけど、やはり料理が魅力的なのは言わずもがなだね……もう手を付けてしまってもいいかい?」
魚料理に肉料理、麺料理からサラダまで。祭りで食べられるジャンルの多彩さをはるかに飛び越えたそのレパートリーは、俺と店主さんが最後までこだわったところだ。二人で素材の調達に頭を悩ませた時間が、今こうやって仲間たちの表情を明るくしていることが嬉しかった。
「ああ、冷めないうちにいただくとしようか。……これだけの量があるが、お前たちの勢いなら食べきれてしまいそうだな」
「ま、なんだかんだ言ってもみんな食べ盛りだし。……ミズネのことを食べ盛りって表現するのもなんか違う気はするけどさ」
「私はいつでも食べ盛りのようなものだ、食べられるとなればありがたくいただくさ。……それじゃあ、行くぞ」
魔術を行使する前のように真剣な表情を浮かべて、ミズネは食器を構える。それに続くようにして、俺たちも食器を手に取った。
少し前に串焼きを食べたとはいえ、一日歩き詰めだった俺たちの腹はぺこぺこだ。そんな俺たちにとっては、ただでさえおいしそうな料理が世界一のグルメのように映って――
「「「「「いただきます!」」」」」」
みんなの挨拶が響くとともに、俺たちは一口目を口元へと運ぶ。それを噛みしめた瞬間、食材に閉じ込められた旨味が弾けるように飛び出してきて――
「うんんんん……っま‼」
夢中で噛みしめて飲みこんだ後に出てきた言葉は、あまりにも単純な賞賛の言葉だった。
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――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!