第三百九十一話『大きいからこそできること』
「おお、これは……。普通の屋台とは何かが違うのだろうと思っていたが、想像以上だな」
「おばちゃんの店のスペースも広かったけど、こっちはもっと贅沢にスペースを使ってるのね……もう屋台ってレベルを飛び越してるじゃない」
「それがこのチームのスタイルだからな!出遅れていろいろな店との契約を結べなかった分、一つの店にこの区画の飲食をすべて受け持ってもらっている!そのスペースが広い分、本来なら屋台で提供できないがっつりした食事が提供できるのも魅力的だろ?」
オウェルさんの言葉通り、仮設店舗の周りに設けられたテーブル席には普段のレストランで見るようなボリュームの料理がウエイターさんの手によって続々と運ばれている。小さな屋台でできることを大きく飛び越えたそのスタイルは、他の区画とは違ったニーズを満たすにはこれ以上ない形だろう。
これが出来たのが俺たちの出遅れがきっかけだって思うと、物事って本当にどう転ぶか分からないんだよな……『人間万事塞翁が馬』って言葉の意味がよく分かるってものだ。
「説明もいいけど、とりあえず食べてみてくれ!俺も試食させてもらったが、普段提供されている料理と何ら遜色ないからな!」
俺は席を取っておくから行ってこい、と言い残して、オウェルさんはビューンとどこかにかけていく。これだけの人だかりができていながらも満席にはなることは無いその広大な食事スペースもまた、俺たちの強みの一つだった。
「本当に、嵐みたいな人だね……ボクが普段人を巻き込むときもあのような感じなんだろうか」
「大体あってるわよ。……まあ、あたしがさっき言ったことをあんまり気にする必要もないけど」
「なんだかんだ言ってネリンも巻き込まれるの期待してるフシがあるからな。俺も別に振り回されるのは嫌いじゃねえし、むしろ遠慮なく巻き込んでくれって感じだ」
「否定はしないけど、期待してるってのは拡大解釈が過ぎない⁉」
俺の翻訳に物申すネリンは置いておくとして、俺たちは注文を受ける仮設店舗に足を運ぶ。日本で言うならキッチンカーとでもいうべきその店舗は、注文を受けることと調理することに特化したような施設になっていた。
「いらっしゃいませ。お並びの間に、こちらのメニュー表から料理をお選びください」
「ああ、ありがとう。つかぬことを聞くが、領収書を書いてもらうことはできるか?」
メニューが書かれた用紙を受け取りながら、ミズネがウェイターさんにそう問いかける。屋台で領収書が切れるのかは俺からしても疑問なところだったが、焦る様子もなくウェイターさんは答えた。
「ええ、申し付けていただければ。懇親会の視察という役回りを使って予算で観光する方もこの中にはいらっしゃるみたいなので」
「それ、後で上司に怒られたりしないの……?」
「経費で落ちることは多分無いだろうね。少なくとも母さんの店じゃ落ちない」
「それに関しては俺もすっげえ気になるけど
異世界の領収書事情が垣間見えるやり取りを経ながら、俺たちはミズネが受け取ったメニュー表をのぞき込む。肉料理から魚料理、麺料理までいろいろなジャンルをカバーするその幅広さは、それこそ普段のレストランと何ら遜色ないと言っても過言ではなかった。
「うわ、これは迷うわね……ここまで人が集まるのも納得だわ」
「肉はさっき食べたところだし、ボクは麺料理にしようかな。……よし、これで行くとしよう」
まずはアリシアがカルボナーラのような料理を指さし、オーダーを決定する。悩もうと思えばまだまだ悩めるくらいにはメニューが豊富だったが、注文の時間は着々と近づいてきていた。
「そういえば、オウェルさんの分も頼んでおかなければならないな。……よし、私はこれにするとしよう」
「じゃああたしはこっち。ミズネ、注文が届いた後で少しづつだけ交換しない?」
「おお、それは名案だな。それならいろいろな料理を少しずつ楽しむことが出来る」
協定が取り交わされながらネリンとミズネも料理を決定し、残すは俺一人となった。正直まだ迷い足りないが、ネリンたちがそうするなら俺が選ぶべきは一つだった。
「じゃあ、俺はこれで。さっきのネリンの提案、いっそのことパーティ全員でやっちゃおうぜ?」
「皆がいいならボクも賛成だよ。いろんなものを食べたいって気持ちは大いにあるからね」
俺の提案にアリシアも便乗し、ミズネたちも大きく頷いてその提案を受け入れる。それが終わるのを見計らったかのように前が空き、俺たちの注文の番が回ってきた。
「これとこれ、それからこれを一つずつ頼む。……ああ、領収書も頼めるか?」
「かしこまりました。では、こちらをお持ちになって席でお待ちください」
代表してミズネがメニュー表を指さし、注文をスムーズに終わらせていく。領収書関係もスムーズに進み、あっという間に会計を済ませたミズネの手には小さな石板のようなものが握られていた。
「これから放たれる魔力を目印にして席に料理を運ぶらしい。そういう訳だから、後はのんびりと完成を待つとしよう」
「そうね。なんだかんだ言いながら数時間立ちっぱなしの歩きっぱなしだったみたいなもんだし、ゆっくりできるのはありがたいわ」
「そうだな。さて、俺たちの席は……ああ、あそこっぽいな」
「わかり易くて助かるね。受付から遠すぎないのもいい感じだ」
オウェルさんの姿を目で探すと、それに気が付いたのか大きく手をぶんぶんと振って来る。俺たちを待つオウェルさんはしっかりと火陰になる席を確保していて、それも俺たちからしたら高評価だ。
――俺たちも手を振り返しながら、オウェルさんが待つ席へと歩を進める。少し遅めのがっつりランチタイムが、オウェルさんのおごりによって幕を開けようとしていた。
次回、五人を待ち受けるのはどんな料理たちなのか!懇親会一日目も後半戦、まだまだ楽しんでいただければ嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!