第三百八十六話『奇妙な意気投合』
「オウェルさん、運営の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、メンバーに任せて来た。こういう細かい事より外で人を集める方が俺にあってるってこと、皆は分かってくれているみたいでな」
俺の質問に、オウェルさんは豪快にサムズアップ。タンクトップ姿で街を歩いているその姿は、確かに外回りをしてお客さんを集める方が向いているように思えた。
「……こうして対面するのは初めてかもしれませんね。改めて、私はミズネ。ヒロトたちとパーティを組ませていただいている者です」
「ボクはアリシア。このパーティ一番の新入りだ」
「あたしはネリン……って、もう知ってるかもしれないけどね。去年までも何回か懇親会でお話はした気がするし」
そんなやり取りを外で見ていたミズネが、一歩進み出るようにして挨拶する。それに続くようにして、ネリンとアリシアも頭を下げた。
「おう、ご丁寧にありがとうな。もしかして、パーティ水入らずの旅を邪魔しちまったか?」
「いやいや、そんなことは。むしろボクとしては貴方に聞きたいことがたくさんあったし、渡りに船といった方が正確かもしれないね」
「四人で楽しむって点はもうかなり達成されてるようなものだしね。この制作の裏話が聞けるっていうのなら、あたしとしてもむしろ大歓迎かも」
少し表情を曇らせたオウェルさんに対して、アリシアは手をひらひらと振ってそう答える。初対面の相手にも平常運転な好奇心に呆れたような苦笑を浮かべてはいたが、ネリンもこの制作を主導したオウェルさんの話には興味津々の様だった。
「まあ、確かにここだけ毛色が違うってのも事実だしな……。他の区画の展示を見て改めてそう気づかされたぜ」
「オウェルさん、他のところも回ってたんですか?」
時間的な余裕もあんまりないだろうに、他チームの展示も見て回っていたとは驚きだ。厚意で完全オフを貰った俺たちとは違って、オウェルさんは仕事も残っているだろうに……
「俺の受け持つ仕事は客の案内だからな。自然と他の区画へ踏み込むことも増えて、その中で展示を見物する時間も取れたってだけだ。そんなじっくりとは見れてねえけど、それでもクオリティが高いってことはひしひしと伝わってきたぜ」
「お褒めに預かり光栄だね。あなたたちが使っている意味合いとは少し違うかもしれないが、ボクがやったことも新しいというか、過去にないものだっただろうからさ」
「ああ、そりゃ違いねえ! まさかこの街の歴史にあそこまで深く突っ込んで語って来るとは思ってなかったからな!」
アリシアの返しに、オウェルさんは豪快な笑みを返して見せる。こうして会話するのが初めてだと思わないくらいに、二人の会話は距離感が近いものだった。
「そういえば、アンタが指名ゼロをやってのけた嬢ちゃんか!今ならわかるぜ、あの展示をやるなら確かに知識がいる! そこに今更協力者を入れても機能不全になるだけだってことだよな!」
「そうそう、分かってくれて嬉しいよ。どちらかというと、あなたのチームもそういった側面を持っていたりするだろう?」
「はは、そりゃ違いねえ!この制作は、アイツらの意志によって作られるべきものだからな!」
今も制作の周辺でせわしなく動き回っているメンバーたちを見ながら、オウェルさんは堂々と答える。そういうところで迷わずにいられるのが、オウェルさんの持つカリスマの支えになっているのかもしれなかった。
それにしても、二人の会話がここまで噛み合うとは思ってなかったな……。いつでも直球勝負のオウェルさんとどこか飄々としたアリシアは対照的だし、クローネさんと対面した時みたく一触即発状態になってもおかしくないとすら思っていたのだが。
「『新しい事をしたい、知りたい』っていう好奇心はアリシアも相当だからね。そういう意味では、二人とも波長が合うのかも」
「なるほど、そういうことか……って、お前よく俺が考えてることが分かったな」
ネリンによってこそっと告げられた答えは、確かに納得できるものだ。それよりも、一切言葉にしなかったはずのその疑問がネリンに見透かされている事の方が俺にとっては衝撃が大きかった。
「だってミズネもヒロトも同じような表情して二人のやり取り見つめてるんだもの。今目の前で起こってることを思えば、何にそんなびっくりしてるかはすごくわかり易かったわよ?」
「そう聞くと確かにそうかもしれねえけど……。いや、そんなにうまくいくもんなのか……?」
「確かに、私も目の前のやり取りには驚いていたがな。よっぽど表情が似ていたのだろう」
「二人とも口を開けてポカーンって感じで会話を聞いてたんだもん、そりゃ分かるわよ。宿屋での仕事だと、お客さんの表情を見てしてほしい事を察しなきゃいけないことだってあったし」
ネリンの種明かしを聞いても、俺は目をぱちくりさせることしかできない。そんな俺たちのやり取りを聞きつけたのか、アリシアとオウェルさんはこちらにちょいちょいっと手招きをしてきた。
「ほら、皆もおいでよ。せっかくだし、この展示の秘話を全部聞き出そうじゃないか」
「聞かれれば大体のことには答えられるぜ?ちょうどご自慢のコーナーにも案内できるしな!」
心底楽しそうな表情を浮かべて、二人は熱心に俺たちを誘う。そこまで言われて、俺たちに断る理由はなかった。
「よし、じゃあ決まりだな! 俺たち自慢の屋台コーナー、見て腰を抜かすなよ?」
案内役がオウェルさんへと切り替わり、俺たちはその後ろをついて歩く。この区画内限定の奇妙な五人旅が、幕を開けようとしていた。
パーティとオウェル、その奇妙な化学反応はどれだけ四人の世界を広げていくのか!懇親会という行事があったからこそ生まれる交流、是非楽しんでいただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!