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第三十七話『迷いの森を攻略せよ』

「……氷よ、敵を凍てつかせろ!」


――ミズネさんの鋭い声と同時に、パキパキと何かが凍り付く音が聞こえる。それが俺に近づく敵を排除してくれていると信じて、俺はひたすら図鑑に目を通しながら空間の外周を見て回っていた。


 俺が見つけた可能性とは、『魔力が増幅したあの瞬間に森の中のパターンが組み変わった』というものだ。ゼロから新しい地形を作り出したのではなく、あくまで既存の地形に置き換えただけならば、図鑑の知識が通用する。その可能性に賭けて、俺は通路の構造と地図を見比べていたのだが――


「……っと!」


 足元を払うかのようにして迫ってきた蔦をとっさに飛び越え、頭上から降ってくる大量の落ち葉を飛び退って回避する。森の妨害は、かなり激しさを増してきていた。


 危険性の高い蔦の攻撃や魔獣の接近はミズネさんがすべて阻んでくれているが、森そのものの仕組みを利用した攻撃まではさすがにカバーしきれない。落ち葉の落下なんかはその最たる例で、俺の進行方向を阻むように突然降って来るもんだから回避するしか手がない。仮に喰らっても目つぶしを食らって時間をロスする程度のものだろうが、その時間すら今は惜しかった。


「……これじゃ、ない……あと半分……‼」


 通路の構造と地図を見比べ、候補から外れたパターンにバツ印を付ける。簡単に書いたり消したりすることができるメモ機能が、俺の攻略方法を全力で手助けしてくれていた。


「ヒロト、特定はまだなの⁉だんだん軍勢が増えてきて……ええい、光よ‼」


 ミズネさんと一緒に魔獣の足止めを手伝ってくれているネリンが、一瞬だけ俺の方を見ながらそう問いかける。閃光で必死に耐えるその背中に向かって、俺は全力で叫び返した。


「あと一分でケリをつける!それまで耐えてくれ!」


「簡単に、言ってくれるじゃない……‼」


 俺のオーダーに対し、ネリンの何かに火が付いたようだ。ネリンの周囲の地面が急に盛り上がり、迫りくる魔獣をことごとくはじき返している。その一瞬の余裕を使って、ネリンはこっちをじっと見つめた。


「迷いの森の攻略はアンタにかかってるの!……しくじったら、承知しないわよ‼」


 緊急事態だってのに乱暴な、しかしどこか優しいその物言いに俺は目を細める。……ネリンなりの信頼の証なのだろうと、俺はそう受け取っておく。


「……ああ、そっちは任せるぞ!」


「ええ、任されてやるわよ!」


 やり取りはこれで終わり、俺は候補の絞り込みに、ネリンは魔獣の足止めに戻る。いろいろ話すにはあまりに不十分過ぎたが、俺たちならこれで十分な気がした。……なんたって、俺たちは似た者同士だからな。ネリンに怒られるだろうから、その感想は胸の内にしまっておくけれど。


「これは……違う……あと、三つ……‼」


 一つ通路が見えたことで一気に二つのパターンにバツ印が付き、残された候補はあと三つ。希望が見えてきたと、俺は足早に進むが――


「シャアアアーーーーッ!」


「しまっ、蛇……⁉」


 突然木陰から飛び出してきた蛇のような魔獣に、俺は体勢を崩してしまう。突進は何とか避けられたものの、しりもちをつく形になってしまった。まずい、これじゃあ次の攻撃は……‼


 そんな俺の焦りをよそに、蛇はゆっくりと俺をロックオンする。そして、今度こそ俺を噛み殺そうとこちらに牙をむいてきて――


「……させないと、言っているだろう‼」


 無数の氷の矢が、蛇を刺し貫く瞬間を目の当たりにした。蛇はその勢いに押されるようにして茂みまで吹き飛び、そのまま見えなくなる。あまりに圧倒的な実力に、俺はお礼を言おうとして、


「ヒロトには傷一つつけさせない!君は、君のやるべきことだけを考えてくれ!」


 ミズネさんの声にそれを遮られ、俺はハッとしてもう一度図鑑に目を落とす。残る候補はあと三つ、もう少しでこの森の思惑を突破できるところまで来ているのだ。……ここで、しり込みするわけにはいかない!


 俺は図鑑を開いたまま走り出し、周囲の通路を確認していく。なかなか減らない候補がじれったい。あともう少し、もう少し……


「……あと、二つ!」


 一つの候補に大きくバツ印を付け、俺は全速力で走りだす。目指す場所はもちろん、最後のパターンを判別できる場所だ。今までは外周に沿って走っていたが、もうその必要はない。ずいぶんと動きっぱなしな気もするが、不思議と疲れは一ミリも感じなかった。


 足を引っかけるように迫って来る蔦をハードル走の要領で飛び越え、突っ込んでくる鳥をかがんで回避する。周りからはイノシシのような魔獣が集まってきていたが、俺はそれを気にも留めないで走り続ける。なんたって――


「……邪魔、しないの!」


「凍り付け‼」


――頼れる仲間たちが迫りくる魔獣を弾き飛ばし、それでも取りこぼした奴は氷漬けにされる。そんな二人の支援を受けながら、俺は目指す場所にたどり着き――


「…………見えましたーーーーーーっ‼」


 最後の候補に大きくバツを打ちながら、俺は大声で二人を呼んだ。


「アンタにしては上出来じゃない!任された甲斐もあるってものよ!」


「ああ、本当によくやってくれた!……あとは、私が活路を開く!」


 二人が口々に言いながら俺のもとに駆け寄り、ミズネさんがゆっくりと目を閉じる。……次の瞬間、魔術に詳しくない俺でも分かるくらいに、ミズネさんの周囲の空気が変わった気がした。


「……なに、これ……?」


「エルフの本領発揮といこう。……もう、この森に対して遠慮する必要もないからな」


 戸惑いを隠せないネリンに、ミズネさんは低い声でそう答える。魔力が練られているのか、魔獣たちもおびえて俺たちに近づけないようだった。……そのまましばらくして、ミズネさんはふっと目を見開く。……そして、一言。


「……『フロストスタック』」


 そうつぶやいた瞬間、周囲にある俺たち以外のすべてが青白く凍り付いた。まるで時が止まったかのように、魔獣も蔦も動かない。氷が、全ての動きを止めていた。


「こんなのを、今までミズネさんは……⁉」


「ああ、詠唱に時間がかかりすぎるから合流するまでは打てなかったがな。……ヒロト、先導を頼む!」


 少し照れ臭そうに笑っていたミズネさんだったが、表情を引き締めて俺に水を向けてくる。それで俺もふっと我に返り、正解の通路の方へと体を向けた。


「……こっちです!」


 走り出した俺の背中を追って、二人も走り出す。ミズネさんの手によって凍り付いた森の住人たちは、しばらく動き出すことはなさそうだった。三人とも無事で、万事問題はない。撤退戦の勝敗は、俺たちの完全勝利といっていいだろう。


――さあ、脱出だ!


迷いの森の攻略、いかがでしたでしょうか!迷いの森編全体に言えることなのですが、今回は特にかなり工夫を凝らした回になっていますので、楽しんでいただけていたらうれしい限りです。物語はまだまだ続きますので、是非楽しみにしていただければと思います!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!



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