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第三百七十四話『人だかりを見つめる中で』

「ねえ見て、人がこんなに……!」


 開いた門から我先にといわんばかりになだれ込んでくる人たちを指さして、ネリンは嬉しそうな笑みを浮かべている。懇親会という行事には親しみがあるのだろうが、やっぱり運営側に立ってみるこの景色は格別のものなのだろう。当然、それは俺たちにとっても同様だった。


「ちょっとこれは想像以上だね……しかもこれ、四つある入口のうちの一つだろう?単純計算して四倍の人たちがこんな朝から訪れてくれていると思うとありがたい限りだね」


「そうだな。これほどの人だかりは、私も経験したことが無いかもしれない。バロメルも観光都市だが、こういうイベントに関してはあまり積極的ではなかったからな」


 ミズネとアリシアが口々に感激の声を上げる横で、俺もその景色を半ば夢のような気持ちで見つめている。この光景を上から観測できたなら、きっとそれは朝のスクランブル交差点のようの人だかりに見えるのだろう。それくらい、門に繋がるこの通りは観光客にあふれていた。


「うわ、確かに去年までと雰囲気違う……!去年まではもっと厳かな雰囲気もあったけど、ここはもっとあったかいって感じ!」


「そうだね。あの神聖で特別な感じも好きだけど、こういうのもいいかも。今年も来てよかったね」


 二人の女性の会話が、窓越しにだがはっきりと俺たちの耳に聞こえてくる。それ以外にもあれこれと会話は聞こえてきていたが、そのどれもが温かく、新しい懇親会を受け止めてくれるような声だった。


「あったかい、か……それを感じてくれているなら、私たちの雰囲気作りは大方成功したと言ってもいいだろうな」


「そっか、ここを担当してるのはミズネだもんね。カガネの街が持つ寛容さを表現したいって言ってたっけ」


 観光客の会話を聞いて、一番表情を緩めているのはミズネだ。知らず知らずのうちに入っていた肩の力もそれで完全に抜けたのか、普段からぴしっと背筋を伸ばしているミズネにしては珍しくしっかりと椅子に体重を預けていた。


「途中でヒロトたちのそれとコンセプトが被りかけるって事態もあったんだが、どうにかこうにかオリジナリティを付け足してここまでこぎつけることが出来た。……それを受け入れてくれそうな人たちを見るのは、やはり安心するな」


「ああ、それは大変だったな……って、俺はそんなこと聞いてないぞ⁉」


 ミズネの側で被りかけていたということは、そのまま行けば俺たちもミズネのところと被りかけていたということだ。知らない間にとんでもない危機が訪れていたことに俺が驚いていると、ミズネは口元を手で押さえながら、


「残念だったな、私たちが問題として表出する前に処理しておいた。そのリアクションを見たくて今明かしたようなところもあるからな、期待通りの反応をしてくれて嬉しいよ」


「いや、そりゃ驚くだろ……。ネタ被りとか言う誰も得しない事態を回避してくれてたのは正直滅茶苦茶ありがたいし、何でこっちにその情報が上がってきてないんだって話にもなるけど」


 考えられる可能性としては、誰かがチームの進行状況についてしゃべったことになるのだが……。まあ、そこは明確に禁止してなかった俺たちもアレだから何とも言えない。そんな風に考える俺の表情がおかしかったのか、ミズネは悪戯っぽく笑っていた。


「まあ、そこは結果オーライということで行こうじゃないか。両チームがネタ被り回避を狙って動いた先でまた被る、なんて最悪な結果になるリスクだってあったかもしれないしね。きっと、ボクがミズネの立場でも同じ対応をしているよ」


「そういうことだ。……まあ、その過程でより良いものになったという自覚はあるがな」


「それなら良かったけど……。それはそれとして、お礼はいつか改めてさせてくれ」


 見方によっては懇親会一番の危機を、ミズネは一人で捌き切ってくれたことになるわけだからな。たとえそれがミズネに利益をもたらしていたんだとしても、そのことへの感謝はしっかり伝えなければならないだろう。


「そうか。……それなら、どこかの屋台で一つおごってもらおうかな。懇親会のお礼なら、懇親会の中で解決するのが一番だ」


「それでミズネがいいならいいけど……。王都についてから要求したって良かったんだぞ?」


「そういうところミズネって大人よね。がっつかないというか、欲が無いというか」


 ネリンの指摘に、俺はうんうんと頷く。紳士的といえば聞こえはいいのだが、ミズネは基本的に物欲が無いようなタイプに見える。ミズネの性格的に、遠慮しているという訳でもなさそうなんだけどな。


「欲が無いという訳じゃないさ。私だって執着したいもの、どうしても手元に収めておきたいものはある。大体の場合、それが非売品だっていうだけでな」


「聞いた話だと、ミズネはかなり強い押しでこのパーティを組む話を持ち掛けていたそうじゃないか。……つまり、ミズネの欲っていうのはそういう方向に強いんじゃないのかい?」


「おい、はっきり言ってくれるな。……いくら私とはいえ、少し恥ずかしい」


 遠回しな表現をアリシアに看破され、ミズネは頬を赤らめる。そういえば、半ばミズネに押し切られるような形で俺たちはパーティを組むことになったんだっけ。そっから一ヶ月と少しでここまで来たんだと思うとなんだか感慨深いものがあるな……。


「そ、それよりほら、人通りも少し落ち着いてきたみたいだ。ここいらで私たちも観光客に回るとしないか?」


「露骨に話題変えて来たな……いつまでもここにいてもしょうがないし、そろそろ動き時だとは思うけどさ」


「そうね。観光に来た人たちもいい感じに街の中に入り込んで来たみたいだし、あたしたちもそろそろ出発しましょうか」


 俺たちがそう言って席を立つのに、ミズネは少しほっとした表情を浮かべながら続く。珍しく焦り倒していたミズネの表情を、アリシアは面白そうに見つめていた。


「さあ、ここからはひたすらに楽しもう。その皮切りとしては少し薄味かもしれないが、私が案内役になろうじゃないか」


「そうだね。せっかく三週間頑張ったんだ、この二日間くらいただの客として存分にはしゃぎ倒すのも乙ってものだろうさ」


 そんな焦りの色も、会計を終える頃にはすっかり楽しそうな表情の後ろに引っ込んでいる。威勢のいいミズネの宣言に、俺たちも大きく頷きを返した。

ということで、次回からついに観光開始です!トップバッターを飾るミズネたちの制作はヒロトたちにどのように映るのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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