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第三百六十九話『断言はできなくとも』

「よく分からないとは……それはまた、何ともいえない見解だな」


 あたしのその表現に、クローネさんの方が少し困惑したような表情を浮かべる。それに苦笑を返しながら、あたしは必死に言葉を探しながら続けた。


「あたしもヒロトと知りあって一ヶ月とちょっとしか経ってないから、よく分からないってのがあるんですけど……本当に知識不足で分からないって言うよりは、どこかつかみどころがないというか、そんな感じの『わかんない』なんですよ」


 知り合ったタイミングで言うならミズネの方が後なわけだし、時間が言い訳になるはずもないんだけどね……それでも、ヒロトのことを一言で表すのは途轍もなく難しい事だと思う。なんというか、やっぱりあたしたちと違う常識を経験したことがあるんだなあって思うことが多々あるのだ。


「分からないから遠ざけようとか、そういう気は全くもってないんですけどね。それどころか、アイツが絵話題の中心にいることだってしょっちゅうですし。分からないことは多いですけど、それでも居心地は良いんです」


「それは……何とも不思議な話ではないか? 分からないことが多いというのは、隠し事が多いということだともいえると思うのだが」


「ああ、それは無いですね。アイツ隠し事下手ですし」


 アイツにとって一番のトップシークレットは『異世界出身』ってところだろうしね。それを一番に打ち明けてきた以上それ以上の秘密があるとも思えないし、それ以外のことだってちょくちょく話してくれている。正直というかわかり易いというか、そういう意味でヒロトに疑う余地はないと言っていいくらいだろう。


「だから、分かんないけど信頼はしてます。アイツは良い奴で、ちょっとヘタレでビビりだけど締めるところはちゃんと締めてくれる。……じゃなきゃ、アイツに大トリなんて任せませんって」


「……確かに、プレゼン会は彼が一番最後にしていたな。あの提案が無ければいまごろ大きく変わっていたと思うと難儀なものだ」


「それはそうかもですね。まあ、そのおかげでできてるつながりがあるのも確かなんで。あたしとクローネさんとか、こんなきっかけでもなければ知り合わなかったでしょ?」


 それはきっとあたしに限ったことじゃなくて、ミズネやアリシア、そしてヒロト自身にも言えることだ。もっと言うならこの祭りに参加した人のほぼすべてが、新しい知識や繋がりをこの場を経て得られているのではないだろうか。盛大に一個のテーマをやりたかった人からしたら、ヒロトはお邪魔虫以外に何者でもないんでしょうけどね。


「……まあ、それに関しては事実だな。あの少年が作り上げたこの場が、私に新たな成長を与えてくれているのは間違いない」


「でしょう?……アイツ、なんだかんだ凄い奴なんですよ」


 当のヒロトはよくあれやこれやと考え込んで、結構簡単に落ち込んでしまうけれど。それを見るたびに、あたしは思わざるを得ないのだ。


「誰かと比べるまでもない……比べられないような不思議な凄さが、アイツにはあると思います。それが何なのかが分からないから、あたしもアイツのことをどう表現したらいいか分からないんだと思いますけど」


 それがあるから、ヒロトは誰かと自分を比べる必要なんかないのだ。最近は少しそれに気づきつつある見たいだけど、交渉の一件を見るにまだまだ抜け出しきれてないみたいだけど、きっとしばらくしたらいやでも気が付くだろう。それくらいに、ヒロトが果たしている役目ってのは大きいのだ。


「……よく、自分の周りを観察しているのだな」


「そう、かもしれませんね。人間観察が趣味ってわけではないですけど、この人はどんな人なのかなって、そんな風に考えるのは結構好きかも」


 悪意を持ってこの街に滞在してる人は本当に少ないから、小さいころからいろんな人と交流史に行けたのも今のあたしにとても大きな影響を与えてると思う。同世代に冒険者になりたいって子がいなかったから、自然と年上……というか、パパと同じくらいの世代の人との関係ばかりが途中からは増えて行っちゃったんだけどね。それもまた、今のあたしを形作る要素の一つだ。


「……本当に、私は視野が狭かったのだろうな。あの日見た理想を受け継ぐことだけに躍起になって、周りなんて意に介しても来なかった。ネリン女史ほど強引に手を引いてくれなくては、そのことに気が付けないくらいにはな」


「それでもいいとは思いますけどね。わき目もふらずまっすぐに進むのも、それはそれで難しい事ですし」


 思い出されるのは、あたし以外の同世代の子たちが皆冒険者になる道を諦めてしまった時の光景だ。あの時もあたしは努力を止めなかったけど、それでも外から聞こえてくる声は結構堪えた。そういう外からの声を気にせずに突き進めるというのは、きっとすごい才能だと思うのだ。


「そんなクローネさんの意志があったから、この制作チームは今ここにいるんですからね。クローネさんがあたしのおかげで視野が広がったというのなら、それはクローネさんが自分の手で手繰り寄せた物でもあるんですよ」


「……どちらが年長者なのか、そろそろ分からなくなってきてしまったな。ネリン女史との出会いは、私にとって大きな分岐点になったらしい」


「あたしだってまだまだ未熟ですよ。……だから、クローネさんの力を貸してください。相手はあたしの自慢の仲間達だけど、それでも負けたくはないですから」


 そう言って、あたしは右手をクローネさんに向かって差し出す。それが何を求めてのものかクローネさんは少し測りかねていたようだが、やがて柔らかい笑みを浮かべながらその手をぐっと握り返してくれた。


「もちろんだ。……私の見たあの日の理想がどれだけのものだったか、少しでも皆に伝えなくてはならないからな」


「そうですね。……それじゃ、頑張って知恵を絞るとしましょうか!」


 お互いに笑みを交換しながら、あたしたちはアイデア出しへとその話題を戻していく。その寄り道が何か新しいアイデアを生んだわけではないけれど、あたしたちの間に流れる空気は明らかに朗らかなものへと変じていた。

次回はミズネの陣営のお話になっていくかと思います!それぞれの最終週にかける思い、是非感じ取っていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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