第三百六十一話『運任せの明暗』
「……まさか、異世界に来てガチャガチャみたいなものを見ることになるとはな……」
小さな図鑑が取り上げられたガチャガチャを見つけた時は、普段そういうところにお金を使わない俺でも飛びついたの思い出がある。何回回してもシークレットの図鑑が出なくて、それっきりそういう運が絡むものにのめり込むのはやめたっけ。
「がちゃがちゃ……というものについては知らないが、こういう形状の保存容器は昔から伝わるものだな。それこそ、四百年前からその現存は確認されているようだぞ」
「……それ、間違いなくその遺跡の主が持ってきたものだろうな……」
あそこはもともと多目的空間だったし、その中にはショッピングモール的な区画が出来る予定でもあったのだろう。ああいうのってそういうところに多いイメージがあるし、それに際して持ち込んだと考えればつじつまの合う話だった。
「その話は興味深いから、また後で聞かせてもらうとして……。まずは目の前の結果が第一、だな」
「ああ。……ここまで来たら、後は祈るだけだし」
カプセルを手に取った時点で結果は確定しているわけだが、それでも俺は目を瞑って祈る。もともと運がいいほうという訳ではないし、ここで外したらそれはそれで諦めがつく。……それでも、叶うならあたりを引きたかった。
「……それでは、開封と行きましょうか。お二人とも、同時にお願いします」
ベレさんの指示に従って、俺たちはカプセルを軽くひねる。キュッという軽い音とともにカプセルが中央で別れ、中から小さな紙切れが零れ落ちて来た。
「……それでは、結果をご確認ください」
その一連の動きに違和感がないのを確認した後、ベレさんがもう一度号令をかける。それを聞き届けてから、俺は二つ折りにされていたそれを丁寧に開いて――
「……よし‼」
「だあああ、こういうとこだぞ俺……‼」
俺の隣でガッツポーズをしているミズネを視界にとらえながら、俺はがっくりと地面に膝をつく。早い話が、こういうところで俺の勝負運は仕事をしてくれなかったということだ。
「運勝負だから諦めがつくけど、運勝負だからこそ悔しいな……!」
しかも俺が先に選んだ側というのがまた悔しいポイントだ。勝負ごとにたらればはないが、それでもあの時もう一つのカプセルを選んでいればと思わずにはいられなかった。
「悪いな、私たちも負けるわけにはいかないんだ。……実のところ、かなりホッとしているよ」
「そうだろうな。今日はお前の日だったみたいだ」
運の流れ、というものがあるかは分からないが、少なくとも今日幸運に恵まれていたのはミズネだ。それに対して文句を言う筋合いはないし、そんなことをするくらいなら次に向けて思考を回す方がよっぽど有意義だろう。
「万能な人は少ないから、落としたのがなおさら厳しいな……。次のプラン、考えねえと」
「お前たちのチームも地力は途轍もないと聞いている。……私が言っても今は嫌味に聞こえるかもしれないが、お前たちならその逆風も跳ね返せるさ」
「賞賛は素直にありがてえよ。今週は大変な事ばかりだったからな」
ミズネの激励に、俺は苦笑しながらそう答える。こんな時に嫌味を言うような奴じゃないのは分かっているし、俺たち相手にお世辞を使うような奴でもない。……だから、この言葉はきっと俺たちを正しく評価してくれた上での言葉なのだろう。
「……最終的に勝つのは俺たちだ。その決意は、この程度でぶれやしねえよ」
「それでいいさ。それでこそ、私たちも全力でかかる意味があるというものだからな」
改めて宣戦布告をしあって、俺たちはそれぞれの席へと戻っていく。運の悪かった俺を出迎えるオウェルさんの表情は、何とも言い難い感情が入り混じっている感じだった。
「……その、あんまり気にするなよ?こればっかりは時の運だ、責めるつもりはないからさ」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、俺としても少しは気が楽です」
素直に励ませばいいのかねぎらえばいいのか、オウェルさんはそこを掴みあぐねていたらしい。そのらしくないフォローに思わず笑みがこぼれそうになったが、流石にそれは少し場違いというものだろう。
「……さて、ここからですね。プランを変えて指名していくのか、そもそも人を取らないで行くか」
「そうだな。いつまでも崩れたプランのことを考えていられるほど、俺たちは余裕あるわけじゃないんだった」
そう言うと、オウェルさんはいつもの真剣な表情に戻る。次への策を考えるその姿は、今一番頼もしかった。
「……それでは、オウェルさん陣営は改めて一位指名を行います。決まりましたら、こちらの紙に書いて提出を」
「了解しました。……さて、どうしたもんか……」
「誰も取らないのも一つの手だが、専門家の手が欲しい部分があるのも事実だしな……」
ベレさんのアナウンスとともに差し出された紙と事前に配られた紙に交互に視線をやりながら、俺とオウェルさんはああでもないこうでもないと議論を重ねる。最初の計画が崩れた以上、もちろんゼロからその意見交換は始まっていた。
そのまま話し合いが続くこと大体三分くらい。俺たちの意見はある程度固まり、代表して俺がベレさんに用紙を提出する。それを確認して、ベレさんは小さく頷いた。
「確認いたしました。オウェルさん陣営、一位指名は――」
その言葉とともに、ドラフト会議は第二段階へと移行していく。思惑が重なりあうドラフト会議は、まだまだここからも気が抜けないようだった。
ドラフト会議はどのように進行していくのか、出来るだけスピーディに、されどしっかり見せていきたいと思いますので皆さま是非見守っていただけると嬉しいです!準備期間ラスト一週を前にしての大事な局面、是非楽しんでいただければ!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!