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第三百五十九話『憧れと選択』

「これ、は……」


「また、難儀なルールを作ってきたものだね……」


 ベレさんによって作られた資料が回され、詳細なルールが判明していく中で、周囲から――特に一人で会場に出向いていたミズネとアリシアから困惑の声が上がる。俺たちからしても、この展開は予想外と言ってよかった。


 この世界に同じ文化があるかは分からないが、ベレさんが提案したのはまんまドラフト会議のそれだ。少しの相違点と言えば、何巡目の選択においても指名被りの抽選が発生するところぐらいか。それを踏まえても、かなり複雑なことになるのは間違いないだろう。


「外部職人、か……」


「確かに、いたら心強いかもしれねえけど……」


 その資料に書かれたそれぞれのプロフィールを見つめながら、俺とオウェルさんは首をひねる。手元には小さな紙が渡されており、それを使ってベレさんに俺たちの選択を伝えるという形式だ。


「猫の手も借りたいくらい俺たちに余裕がないのは事実ですけど……。でも、だれかれ構わず取りに行っても混乱を招くだけですよね」


「そうだな。今チームの雰囲気は最高によくなっているから、そこに水を差すようなことはしたくない。だから、主役はあくまでアイツらだ」


 幸いなことに、俺とオウェルさんの見解は一致しているようだ。これで心置きなく考えることが出来る。求める前提が違えば、出す答えは全く違うものになってしまうからな。


 俺たちは顔を寄せ、資料に書かれた人たちの情報に目を通す。ベレさんが選定しただけあって、その経歴や得意分野は様々、そして技術も折り紙付きだ。うまく力を借りることが出来れば、制作の完成度はさらに上がっていくだろう。本音を言うならば、ここにいる全員の力を借りて一つの制作をしたいくらいだ。


「だけど、それに頼りすぎればチームは崩壊する。ほんと、上手いルールを作りますよね」


「あの人は懇親会の陰の立役者と言っていいからな。あの人が個人的にどこかのチームに肩入れしていたら、優勝はあっさりそのチームが持っていっただろうさ」


 それくらいあの人の影響力は半端じゃないんだよ、とオウェルさんは苦笑する。そうやってベレさんを語るその眼には、隠しようもない憧れが輝いていた。


 人をまとめるって分野ではオウェルさんも引けを取らないだろうが、ベレさんの場合は年季と実力が違いすぎるからな……。何も語らずとも人を惹きつけるその姿は、あまりにもリーダーとして理想的すぎる。それでいてその実力を何ら笠に着ていないんだから、その人望はとどまるところを知らないのだ。


「……そりゃ、憧れる気持ちも分かるってもんですよ」


「バレたか。憧れって言うには遠すぎるんだけどな」


「そんなことないですって。オウェルさんもタイプで言ったら同じですよ」


 言葉で語るか、背中で語るかの違いこそあるが、カリスマにあふれたリーダータイプであるという意味ではオウェルさんはベレさんと似ている。目指す目標としては、何ら間違っていないような気がした。その背中が遠いってのは、誰から見てもそうなのかもしれないけどな。


「……さて、そろそろ一巡目の指名を決めなくちゃ。俺としてはこの人がいいと思うんですけど、どうですか?」


「おお、気が合うな。俺もその人を指名しようと思ってたところだ。なによりいろんなジャンルに強いってところがいいよな」


 俺が指さした人はいろんな工房や店で修業を積んでいる職人のようで、俺たちがやろうと検討しているジャンルの全てをある程度のクオリティで網羅できているようだ。なんでそんな優秀な人員を今まで見逃していたんだって話だが、ここで引き込めれば同じ話だ。そういうタイプの人が輝く瞬間は、制作最後の詰めのタイミングにもしっかりあるからな。


「それじゃあ、この人で行きましょう。……あとは、運任せです」


「ぱっと見で優秀ってわかる人だもんな……他の人も専門性が高い人は多いけど、ここまで万能にいろんな技術を習得してるってのは本当に貴重だ。こればっかりは代わりが効くもんでもないからな」


「だからこそ、ここで被ったうえに負けると本当にきついんですけど……そこは二人でたくさん祈りましょうね」


 指名する人の上に書かれた番号を小さな紙に記入して、中心の机に座るベレさんに預ける。投票が番号制なのは、記入時間で他チームの狙っている人物が悟られないようにするためだそうだ。こんなルールあんまり使う機会もないだろうに、つくづく気の回る人だった。


 提出は俺たちが一番乗りだったが、その後すぐにミズネとネリンがベレさんに紙を提出する。そこから二分ほどの間をおいて、ゆっくりとアリシアがベレさんに紙を手渡した。


「それでは、四チームの選択が出そろいました。まずは開封、その後に結果報告を――」


「ああ、ちょっと待った。……ボクの選択は、ボクからさせてもらってもいいかい?」


 ルールに従って進攻しようとするベレさんの言葉を、アリシアが手を挙げて遮る。唐突かつ一見意味のなさそうな提案にベレさんは一瞬訝しげな表情を浮かべたが、


「……ええ、それに関しては構いませんが」


「ありがとう。ボクが直接説明しないと、誤解を生んでしまう可能性がないではないからね」


 柔軟な判断を見せたベレさんにお辞儀を一つしてから、アリシアは俺たちの方をぐるりと見まわす。会場全体の視線が集中しているこんな状況でも、アリシアに緊張の色は見られなかった。軽く瞬きをした後、アリシアは口元を二ッと吊り上げると――


「……ボク達のチームは、このルールに基づいた指名を行わない。白紙の投票用紙が、その意志表明だよ」


――その宣言に、会場は今日二度目のどよめきを上げた。

ミズネの宣言の真意やいかに!それぞれの思惑が交錯するドラフトを、皆様ハラハラしながら見守っていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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