第三百五十八話『一週間、その最後に』
――俺にとっての二週目は、波乱だらけのものだったと言っていいだろう。だけどその中で得るものは多かったし、俺自身としても一回り大きくなれた気がする。それでいて計画はいい方向に進んでくれたのだから、最高の終わり方が出来たと締めくくっても何もおかしくはない。
「……そっちはまだお堅い伝統を継ごうとしているのかい?そんなことをしてると、俺たちに足元をすくわれちまうぞ、クローネさんよ」
「そちらこそ、革新と滅茶苦茶をはき違えているところに変わりはないようだな。そこに気づけない以上、お前の発想が世間に受け入れられることは無いというのに」
「……二人とも、そのあたりで収めておいてください。その議論の決着は懇親会の結果で決めればいい話ですから」
――すっかり存在を忘れかけていた、定例会の存在さえなければ、だけどな……
もはやお約束と言うかなんというか、顔を合わせるなりオウェルさんはクローネさんという人物と視線をぶつけ合っていた。ネリンのとこの代表者で、伝統を頑なに引き継ごうとする姿勢を崩さないそのやり方は、確かにオウェルさんとは水と油と言う感じだ。そりゃ毎年の定例会で暴動まがいの喧嘩が起きるわけだよ……。
前回に引き続きベレさんが司会を務める今回の定例会はそこらへんの争いが起こるリスクも加味されているようで、それぞれのチームからの出席者は二名までということになっていた。それでもトップが争う以上、ギスギスした空気になるのは変わらないんだけどな……。まあ、ケガの危険性がなくなっただけでも良しとするべきか。
「こんな夜にわざわざ集まっているんだ、手早く建設的に行こうじゃないか。争っていても新しいアイデアが出てくるわけではないだろう?」
ベレさんの静止があった後もなおぴりついていた空気を、アリシアの落ち着いた言葉が緩和させてくれる。その言葉にどこか二人を煽るような色が見えたのは、とりあえず置いておくことにして。
「ダメですよオウェルさん、結果で物を言えなきゃああいう人は納得しないんですから。話に乗るのも仕掛けるのも無駄ってものです」
「そうだな、すまなかった。アイツは昔からそうだからつい頭に血が上ってしまうんだ……」
机から乗り出すようにしていた姿勢を戻しながら、俺の注意にオウェルさんは小さくうなだれる。人数制限の関係でジーランさんがこの場にいないから、今回ばかりは俺がストッパー役を務めなくてはならなかった。
向かいを見れば、あっちのリーダー……クローネさんもネリンに何事かを言われてうつむいている。オウェルさんより一回りくらい年が上なこともあって、ネリンに叱られているその絵面はどこか面白かった。というか、一回り上を『アイツ』呼ばわりするようになるまでにどれだけの因縁があったんだよ、この二人……。
「……ある程度場が落ち着いてきましたので、そろそろ本題に移らせていただきます。懇親会の準備期間もあと一週間を切りつつありますが、構想とある程度の制作は皆さん進んでいますね?」
真面目モードのベレさんの問いに、各チームの代表は力強く頷く。この中だと間違いなく俺たちは滑り込みセーフの部類なのだが、それでもセーフはセーフだ、落ち目を感じる必要はどこにもない。
「それはよかった。そこが確認できなければ、今から私がする話は全て無駄になりかねませんから」
「……つまり、ここからの話はある程度準備が整っていることを前提とした話ということか?」
「ええ。隠す必要もありませんからはっきりと言いますが、どのチームにも所属しなかった職人たちの分配をしたいというのが今日の趣旨ですから。作りたいのがどんなものか分からない中で、外から職人を送るわけにはいかないでしょう?」
ミズネの問いに答えながら、ベレさんは話を前へと進めていく。前回の定例会でも感じたことだが、その司会進行能力はやはりいつものハイテンションなベレさんからすると想像もつかないものだった。普段のあの感じが素……なんだよな……?
「そこまでは分かった。それでは、私たちは何名ほどのサポートを派遣してもらえるんだ?」
ベレさんの言葉に続いて、次に質問を投げたのはクローネさんだった。その問いにベレさんは待ってましたと言わんばかりにうなずくと、横に座る人たちを指し示しながら続けた。
「今回集まったのが二十人ほどですから、各チーム五人ということになりますかね。『それでは足りない』と言うならば、チームごとに交渉の余地はあると思いますが」
「じゃあ、今回ボクたちが集められたのはその交渉のためだけという事かい? こう言ってはなんだが、それだけなら文書だけで済ませればいい話だったように思うけれど」
冒険慣れしたことで少しはアクティブになったが、アリシアの根っこが出不精なのは実のところあまり変わっていない。そんな事情もあってか、夜に呼び出された要件がそれだけであることにアリシアは少し不満気だった。
確かに、これだけの事情のために俺たちを呼び出すのは割に合ってないような気もするよな……アリシアの気持ちは分からないでもないし、ルールを設けてまでこんな会を開くのは少し不思議だ。もちろん、『定例会だから』という理由を出されてはそれまでなのだが――
「勿論、私とて意味もなく招集をしたわけではありません。私は先ほど職人とひとくくりにして紹介しましたが、その得意分野は様々です。そして、あなたたちがやりたい展示には明確な方向性があるはず。ですから、今回私が新たなルールを一つ付け加えさせていただきました」
「新たな、ルール……?」
その言葉に、会場が困惑する。いったい何が行われるのかと俺たち全員が身構える中、ベレさんは手元から資料を取り出すと――
「……チームに加えるメンバーは、この場でそれぞれのチームに指名していただきます。……是非とも、有益な人員獲得を行っていただければと」
そう、新たな駆け引きの開幕を宣言したのだった。
ということで、初めて四チームの代表が一堂に会しました!突如現れた駆け引きにそれぞれどう応じていくのか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!