第三百五十七話『揃ったピース』
――それは、簡単に言えば食事を楽しんでいる一組のパーティを中心にした制作だった。
まるで街角での一幕が切り取られて作品になったかのような自然さは違和感なく俺の眼に入って来るし、それでいて作品らしい色彩豊かな配置は吸い寄せられた視線を離さないように工夫されている。かと言って目に痛いような明るすぎる色遣いでないのがまた思いやりを感じさせる。
「それぞれ無軌道に作らせても後で修正が大変ってことで、『この街に居ついてしばらくした一組のパーティ』の表現を盛り込むことを条件に加えたんだ。そうすれば、中心にする制作を決定した後に大幅な作り直しを余儀なくされることもないだろ?」
「……それは、確かに一番合理的な判断かもしれませんね……」
「よくその決断に踏み切れたな。お前のことを思えば、『こっちから条件は求めたくない』くらいのことは言いそうだと思っていたのだが」
「いや、最初はそう考えてたんだけどな。……どのチームも、行きつこうとしている表現が似てたもんだから、これは行けると思ったんだよ」
運がよかったってことだな、とオウェルさんは笑みを浮かべる。周りを見れば、同じパーティが様々な場所で過ごしている一幕を表現した制作が並んでいた。
「これを上手く活かせばストーリー性の部分に関しても余裕でクリアだ。……後れを取ってるだなんて言われてきたが、これでようやく突破口が見えて来たな?」
「突破口どころではない。……ワシらは、もうほかのどのチームにも劣っておらんわ」
一気に切り開かれた視界に、ジーランさんは満足げな笑みを浮かべる。これまで焦らされるようなことばかりが耳に入ってきたこともあって、俺たちの歩みも進んでいるのだという気付きはこれ以上にない報酬だった。
「ワシらも交渉に全力を尽くした甲斐があった。……お前のカリスマは本当に並外れているな」
「カリスマなんて聞こえのいいものじゃねえよ。俺は全力でお前たちに道を示すから、お前たちも全力で俺に応えてほしい。俺がしてるのなんてそれくらいのことだぜ?」
「……それを無自覚でできるから、オウェルさんはオウェルさんなんですよ」
絶対に『それくらいのこと』なんかじゃないんだよな……このチームはオウェルさんがリーダーじゃなきゃとっくに崩壊しているし、そもそもこれほどの人が集まることもなかっただろう。……このチームが危ういながらも成立しているのが、オウェルさんのカリスマの証明とも言えた。
「まあ、俺のカリスマがどうこうってのは今は良いんだ。……お前たちが持ってきてくれた屋台、期待してもいいんだよな?」
「ああ、そこは自信をもって断言しよう。もっとも、それを実現させたのはヒロトだがな」
「俺がそれを考え付くまで見守ってくれたのはジーランさんですよ。決して俺だけの手柄じゃないです」
この手柄を独り占めするのは流石に恐れ多すぎる。俺だけじゃ絶対にたどり着けなかった答えなわけだし、これを俺の功績だと言って胸を張るのは今の俺には難しかった。……それに、単純に照れくさいからな。
「誰の功績であれ、難しいところをやり切ってくれたのは感謝しかねえよ。……それで、どんな屋台がここに来てくれるんだ?」
「それがですね、ちょっと特殊な契約になりまして……」
そう前置きして、俺は今まで結んできた契約をオウェルさんに伝える。移動屋台がここに来ること、そして協賛契約を結んだ二店に屋台の出店スペースをすべて使って店を開いてもらうこと。話が進んでいくにつれて、オウェルさんの口があんぐりと開いていくのが面白かった。
「……てな感じで、ちょっと他のチームとは違う出店ができるんじゃないかと」
「……いや、ちょっとどころじゃないぞ……。何なら俺の期待の三倍くらい上を言ってて驚くしかねえ」
「そうだろう?協賛契約……もとは独占契約って形ではあったんだが、その形式を持ってくるヒロトの発想力には脱帽するしかないわ」
オウェルさんのリアクションに、ジーランさんは大きく頷いてみせる。独自の契約がどう受け取られるかは不安要素ではあったが、好意的に受け取ってくれたようで何よりだ。
なんせ誰にも相談せずにいきなり繰り出した提案だったからな……。結果的にうまくいったからいいものの、やってることは週の頭にいきなり競争制度をぶち上げたオウェルさんと何も変わらないのだ。……そう考えると、俺とオウェルさんが組んだのはある種の必然なのかもしれない。
「これはいけるぞ……俺たちならトップを取れる。ちょっと不安な要素もあったけど、それもヒロトのファインプレーで全部チャラだ。……勝てるぞ、この勝負」
「ええ。……勝ちに行きましょう、最後まで」
不安要素はあった。実際に追い詰められもした。……だが、それをすべて跳ね返して今の俺たちはいる。他のチームがどこまで進んでいるかは知らないけれど、それでも負けていないと自信を持って言えるところまでは来られた。……あとは、ラスト一週間でどれだけいいところを増やせるかだ。
「週初めはどうなる事かと思ったが、本当に若者の成長というのは早いものだな。……最期の一瞬まで、ワシも全力でお前たちの理想に手を貸そう」
「ああ、よろしく頼む!……俺たちが、懇親会を変えるんだ!」
ジーランさんの宣言に、オウェルさんが勇ましく続く。……ここからが俺たちの本領発揮だと、そう確信するにはその言葉だけで十分だった。
ヒロトたちの前には様々な問題が立ちふさがっていましたが、それらを退けた今彼らはどう動いていくのか。そして最終週に向けて他の三人は何を思うのか、さらに盛り上がっていく懇親会模様を楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!
――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!