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第三百五十二話『五分の気まぐれ』

「……この魔道具たちはお前の分身みたいなもん、ってことか?」


「まあ、そういう解釈もできるかな。ボクの命は常に魔術と、研究と、好奇心とともにある。……それらすべての結晶がこの魔道具たちなんだから、これは実質ボクって言ったって過言じゃないんだよ」


 キャンバリーの言葉の真意を探り出そうと俺が言葉をひねり出すと、それに付け加えるようにキャンバリーが更に解説を続ける。乱雑に置かれた魔道具の全てに、きっとキャンバリーは思い入れを持っているのだろう。あれやこれやと手に取るその手つきは、とても優しかった。


「……オーウェンに見切りをつけたのだって、ボクのことを愛してくれなくなったからじゃない。たとえボクが愛されなくても、ボクが作り上げた魔術を、作品を愛してくれていればそれでよかった。……だけど、あの人はその上を行こうとしたんだ。……あまつさえ、ボクの作品を分析して、踏み台にしたうえでね」


「……それは、確かにお前にとって一番の地雷だろうな」


 キャンバリーの言葉に導かれるように、俺は少しずつその真意に気づかされている。……何が結論として出てくるのかも、少しずつだが察しつつあった。


 だが、その結論を確認する気にはならない。たとえ理解力のない人間だと思われようとも、その答えは、決定的な言葉はキャンバリーから聞きたいと、そう思った。


「ボクはボクの全てをかけて、一番輝ける場所を探してる。一番自由に、やりたいことが出来る環境が最高だ。そのついでで、依頼人が望むものを作ることぐらい苦でも何でもない。ボクの作品を求めてくれるというのは、ボク自身の存在を求めてくれている事と同義なんだからね」


 作り上げたものが何に使われているかは知ったことじゃないけど、とキャンバリーは笑って付け加える。それは、ジーランさんが示してくれた職人の在り方と似て非なるものに思えた。


 自分が作り上げるものを自分自身のように思っているからこそ、作品を求められることも、それを作り上げた技術だけを求められるのも同じように喜ぶ。仮にキャンバリー・エルセリアという名前を求めてやってきたものがいたとしても、コイツなら喜んで受け入れるのだろう。


「……でもね、ボクは契約の時に毎回一つだけ念押ししていることがあるんだ。それを破られたらボクは容赦なく報復するし、その結果クライアントがどうなっても気にしない。……どんなことを頼んでるか、以下のキミには大体見当が付くんじゃないかな?」


「……踏み台にするな、ってことじゃないか?それこそ、この屋敷を巡る事件の時みたいに」


「ご名答。どんな事情があっても、ボクはボクの研究を踏み台にされることが許せない。魔道具の改良も微調整も、やるのはすべてボクの仕事だ。いくら興味があっても、ボクが作り上げたモノを分解したり解析したりするのは絶対に禁止する。……ボク以上に、ボクのことが分かる奴なんていてたまるか」


 その拳は、震えだしそうなほどに強く握りしめられている。普段は落ち着きなく左右している視線が、今だけはまっすぐに俺の眼を見すえていた。


「進歩はいつも疑うことから始まる、なんて言ってたのにな。アレは公人としてのお前が作った建前か?」


「建前なんかじゃない、あくまであれも一つの真実さ。……だけど、ボクという存在にそれを適用しようとするのなら、『頭が高い』とだけ言わせてもらうよ。凡人は継承し積み重ねることを良しとするけど、ボクはそれらすべてを一息に踏み越える。懇親会に執着がないのは、あれが妥協の結果できた枠組みだったってだけさ」


 俺の意地悪な質問に対する答えは、いつも飄々としているキャンバリーにしては珍しい直球な感情だった。大方、過去に似たような出来事があったりしたんだろうな……。


 今までの実力から考えると、機嫌を損ねた報復として小さな国ぐらいだったら壊滅させられてしまいそうなのがキャンバリー・エルセリアの恐ろしいところともいえるのだけれど。彼女の魔術に対する熱意は、それに並び立とうとする誰かを必要としていないようだった。


「……それにしては、エルフの里に論文は残されてたけどな。アレは大丈夫なのか?」


「ああ、アレは大丈夫だよ。本当に大事なところには触れてないし。アレの結論部分、遠回しにだけど『ボク意外に模倣することは不可能だから諦めてね、どうしても諦めないって言うなら基礎理論だけは置いとくから別角度から頑張ってね』って書いてるようなものだし」


「……それはそれで性格悪いと思うのは、俺が身勝手なだけなのかね……。基礎理論を置いてるだけまだマシだし、何なら論文化して公開してる時点で義務は果たしてる気もするけど……」


「ははは、流石にキミの感性が正解だよ。ボクがあそこに論文を載せている理由は、八割方エイスへの当てつけだったからね」


 今だ掴み切れないキャンバリーと言うエルフの性格に苦悩する俺を、軽快な笑い声を挙げながらキャンバリー本人がそうフォローする。一切隠す気のない敵意に、俺は思わず苦笑するしかなかった。


「そういえば、お前はエルフの里の掟を書き換えるきっかけにもなったんだっけ……。それが無きゃミズネともアリシアとも出会えてないわけだから、そこに関してはグッジョブと言わせてもらうけど」


「アイツはしきたりだ何だとうるさい堅物だからね……ボクはエルフの里のために研究しているわけじゃなかったし、そういう意味では掟ってやつが邪魔だったんだよ。これも結局、自分自身のための行動だね。ボクの行動原理は九割五分自分のためって言っても何ら過言じゃないよ」


「……それじゃあ、後の五分は?」


「そりゃもう気まぐれだよ。時には自分とか他人とか度外視して、成り行きに任せて流れてみるのだって悪くはない。……今だって、面白い話が出来たしね」


「……ああ、ほんと、ありがてえよ」


 けむに巻くような態度はあまり変わらなかったが、それでも俺の質問に対してキャンバリーは全力で向き合ってくれたと思う。……それから分かったことも、確かにあるしな。


「ボクのレベルまで極まった性格の奴はあまりいないと思うけど、何かを作り上げた人間ってのはそこに誇りを持っているものだ。その技術だけを求めるのは許されても、それを無碍に扱う事、踏み台としか考えないことは決して許される事じゃない。……それだけは、忘れないでおくれよ?」


「ああ、肝に銘じるよ。……ありがとうな」


「素直に感謝されるのは初めてな気がするね。まあ、また気になる事があったら聞きに来ておくれよ。気が向いたら、またアドバイスもするかもしれないし」


「……そっか。それじゃあ、期待しすぎない程度に頼りにしとくよ」


 そんな言葉を返しながら、俺はラボの出口へと向かっていく。最後に見たキャンバリーの表情は、今までにないくらいに柔らかく笑っていたように見えた。

次回以降、三人の教えを得たヒロトがどう動いていくのか!ここから懇親会はどんどん本番へと進んでいきますので、楽しみにしていただけると幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

追記;少しだけキャンバリーのセリフに矛盾がある気がしたので加筆を行いました。懇親会にもある程度思い入れはありますが、やはり魔道具と違ってその成り立ちが妥協や融和を狙ってのものだったこと、キャンバリー一人で出来上がったアイデアじゃないってところでそのこだわり具合にはやはり差が出ているようです。

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