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第三五十一話『天才の棲む研究室』

「質問に答えてくれるのはありがてえけど、ラボにまで招待ってのはどういう風の吹きまわしだ?いや、興味がないってわけじゃねえんだけど……」


「その説明をするのにはボクの作品をたくさん見てもらうのが一番いいと思ってね。アレはボクの生きた証でもあり、ボクの分身そのものだ。それをみられるなんて、キミは最高に幸運だよ?」


「……ああ、ありがたく噛み締めるとするよ」


 どういう目論見があるのかは分からないが、とりあえず俺の疑問に全力で答える姿勢なのはありがたかった。キャンバリーは他の誰よりも自由だからな。……俺たちもかなり自由な自信があるのに、そんな俺たちをして自由って言わしめるキャンバリーがいかにぶっ飛んでるんだって話だけど。


「それでこそ天才、みたいなところはあるよな……」


「ボクの意図を読み取ろうとしているならそれは少し早いよ。ボクは誰かに縛られるつもりはないからね。やりたいことをやりたいようにやる、それがボクのモットーさ」


「……つまりは考えるだけ無駄、ってことか?」


「そうともいうだろうね。百聞は一見に如かず、ともいえるかもしれない」


 俺の問いに気楽にそう返して、キャンバリーは地下室へ続く扉を開く。その瞬間、冷たい空気が俺の頬を刺した。


「……ようこそ、ボクのラボへ。訪れるのは一ヶ月ぶりかな?」


「ああ、この屋敷を攻略しきって以来だけど……すっげえな、ここ」


 自慢げな笑みにたがわず、キャンバリーのラボには俺の理解を大きく飛び越えていそうな制作物が所狭しと並んでいる。ここの環境的に危険物はないだろうが、ラボを回る俺の足取りは自然と慎重なものになっていた。


「地下室と言ってもじめじめした感じはねえな……これもお前の研究によるものか?」


「まあそうだね。ここを隠し部屋にしようってした時に、換気と除湿をどうするかって問題にぶち当たったんだよ。だから空間魔術の応用でそこら辺を解決してくれる魔道具を作ってみた」


「作ってみた……って、それ公開したらとんでもねえことになるんじゃねえの?」


「まあ、だろうね。全国各地で爆売れ間違いなしさ。こんなものの増産にかけている時間はないから、この技術はボクだけのものだけど」


「そういうとこ、本当にお前らしいというか……」


 これでお金への執着があったなら、瞬く間にこいつは大富豪になってたんだろうな……。いや、それだとここまでの研究家になってないのか……。


「誰かと組んで売り出そうとか、そういう発想になってもよさそうなもんだけどな。そういうことを提案してくれる奴はいなかったのか?」


「いないし、ボクはお金にさほど興味がないからね。研究費ならいくらでも欲しいけど、それ以外の生活費なんて最低限あれば事足りるさ。生憎、贅沢をしたいという欲求は浮かんでこないものでね」


 そう言いながら、キャンバリーは一つの小さな道具を手に取る。テニスボールぐらいの大きさのそれを手で軽くもてあそびながら、おもむろにこちらへと差し出して見せた。


「これはもう三十年くらい前かな、どこかの国の研究所で開発したものだ。こんな小さい形状をしているけど、ありとあらゆる魔術武装に変形が出来る。これ一つ持っていくだけで、魔獣との突発的な戦いにも対応できること請け合いだ」


 その言葉とともに、その球体は剣に槍に、果ては鎌やハンマーにまで形を変えていく。物理法則とかそういうのを鼻で笑っているその機構は、間違いなく天才的なものだと分かった。


「これが三十年前ってマジかよ……。てか、なんでそれをお前が今持ってるんだ?」


 どこかの国で作った物なら、その所有権は国にあるはずだ。キャンバリーの発想と技術の結晶がこんなところで眠らせることを、国が簡単に許可するとは思えないのだが――


「簡単な話だよ。これはもう型落ちしてる。依頼してくれた国には常に最新版をある程度提供しているから、これはもうお役御免となってボクのラボにいるってことさ。型落ちとはいっても、護身用の武器ぐらいにはなるからね」


 一通り変形を終えたのか球体に戻ったそれを見て、キャンバリーは満足げに頷く。しれっと言って見せてたけど、三十年もつ道具って時点で凄いんだよな……この屋敷の結界は百年越しに続いてるわけだから、こいつの術式は飛び抜けて耐久性に優れているのかもしれないが。


「……自分の作り上げたものを、娘とか息子とかいう人がいるけどさ」


「また唐突な話題だな。……まあ、確かにいるのは事実だけど」


 それこそジーランさんなんかはその例に当たるだろう。自分の生み出したものに格別の思いを込め、だからこそ依頼者の思いをも試す。その姿は、職人として揺るぎないものだ。


「共感してくれてよかった。……でもボクはね、娘や息子だなんて思ってはいないんだ。もちろん思い入れがないってわけじゃない。……むしろ、その逆だ」


「……逆、というと?」


 今まで作り上げてきたのであろう魔道具たちに目をやりながら、キャンバリーはゆっくりと地下室を歩き回る。その姿からは真剣な雰囲気が漂っていて、俺は思わず息を呑んだ。


「ボクは自らの魔術に誇りを持ってる。だからこそ一つ一つの研究に、魔道具にボクは魂を込めてる。自分自身の存在意義をかけて、ボクはこの道を進んでいるんだ。……だからね、ボクにとって魔道具とは娘や息子なんかじゃない。……これらすべてが、ボク自身の現身だよ」


――この意味が、分かるかい?


 ふっとキャンバリーはこちらを振り返り、妖しい笑みを浮かべて俺にそう問いかける。……その奥に、キャンバリーが歩んできた生涯の重みが見えた気がした。

キャンバリーの言葉の真意はまた次回明かされます!今まで威厳がいまいち見えてこなかった彼女の矜持、是非ご覧いただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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