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第三百三十九話『男児一日合わざれば』

「……『一日休ませてほしい』なんて言われた時には、どうなる事かと思っていたが」


 カルケさんとの対談の翌日。いつもの集合場所で俺を出迎えたジーランさんは、何か興味深いものを見るように唸りを挙げた。


「……もしかして、そのまま俺がバックレるかと思ってました?」


「いや、そんなことは思っていないさ。……それにしたって、見違えたなと思うだけだ」


 見違えた……やはり、カルケさんとのやり取りで俺の中に何か吹っ切れるものがあったのだろう。その後にアイツらとのんびり過ごせたことも、もしかしたらプラスに働いているのかもしれない。


「やはり、若い冒険者は一日見ないだけですぐに変わりうる。……ワシからしたら、それが羨ましいよ」


「そんなものですか?……俺からしたら、信念がブレずにいるジーランさんみたいな人たちの方がカッコいいって思いますよ」


 変わらないということは、それだけ強固なものがその内に秘められているということだ。長い年月をかけてじっくりと変化して今に至ったのであろうその姿勢は、中身が何であれ俺からしたら眩しいものだった。


 カレスに来てからというもの、俺の価値観やらなんやらは揺れ動くばかりだからな……図鑑だけが絶対だった俺はもういないし、図鑑と同じくらいに大切だと思えるものも増えた。それを成長とみるか否かは、俺自身が決めるべきことなのだろう。


「……まあ、そこは置いといて。昨日の成果、何かありました?」


「いや、鳴かず飛ばずは変わらないままだ。だんだんと契約が決まっている店も増えているようでな、交渉にすらならずに終わるパターンも増えてきている。……これから先、もっと交渉は厳しくなるだろう」


「そうでしょうね。オウェルさんがした無茶のしわ寄せが、だんだんとその勢力を強めてきてるような、そんな感じです」


 それについてはもう予想したとおりだ。俺が泣こうがわめこうが、その現状が覆るわけではない。ネリンの言葉を借りるなら、その結果そのものが俺たちに配られた手札なのだ。……だが、完全な敗北ってわけではないだろう。


「……役が無くても、勝つことはできるんだからな」


「お前が何を言っているかは分からないが……お前を一日待ったのは、どうも正解のようだな」


 この世界にはポーカーの文化がないのか、呟いた俺の言葉にジーランさんは苦笑を浮かべる。フェアリーカードがあるから、トランプってもの自体がそれに飲みこまれて発生してないのかもな。そこらへんは後で調べておかねえと。


 使えるものはすべて使う。そうしないと、俺たちの遅れはもう取り戻せないところにまで来てしまっているのだ。……だが、まだ決定的な差になった訳じゃない。俺たちが持ってるものを全部出しきれば、イーブンに持ち込むくらいのことは出来るはずだ。


「さて、一日という貴重な時間を消費したんだ。……それに見合うだけの策は、あるんだろうな?」


「勿論。考え方が変われば、見えるものも変わって来るってもんです」


 ネガティブ思考というのは視野を悪い方向ばかりへと誘導していく。それが取り除かれるだけで、意外なくらいにいろいろなものが見えてくるんだから人間ってのは不思議なものだ。『病は気から』なんて言葉も、案外ただの迷信じゃなかったりしてな。


「やれることは無限にあります。その中のいくつかを試して、それがうまくいかないなら次を試すだけですから。……今日は長くなりますよ?」


「望むところだ。いい加減このステップを脱却しなければ、ワシの本領が発揮できる分野はいつまでたっても来んよ」


「ジーランさん、間違いなく交渉は専門分野じゃありませんもんね。そういう意味では、オウェルさんもずいぶんと贅沢な人事をしたもんです」


 最初は製作全体のアドバイザーとしての勧誘だったのに、気が付けばそうじゃないことの方が増えているんだもんな……適材適所なんて言葉があるが、その大切さを今更ひしひしと感じるばかりだ。


「ワシとしては悪くない日々だったのも確かだがな。あれほど街を歩き回ったのも久しぶりだ」


 そう言って、鞭を入れるかのようにジーランさんは太ももを叩く。いくら体力のある人とは言え、毎日のように歩き詰めになるのはそろそろ厳しいのだろうか。


「……もう少しだけ、頑張って歩いてもらいますよ?」


「望むところだ。お前が成長して戻ってきたのならば、老いぼれがその足を引っ張るわけにはいかんだろう」


 俺の言葉に、ジーランさんは強気な笑みを浮かべる。その眼にはしっかりと光が宿っていて、俺はつくづくこの人の頼もしさを実感するばかりだった。申し訳ないが、その力に俺はもう少しだけ頼らせてもらうことにしよう。


「それじゃ、さっそく出発しましょうか。目的地は――」


 俺が考えてきた目的地をジーランさんに伝えると、普段は冷静なその表情が驚きに染まる。そして、どこか嬉しそうな苦笑を浮かべると――


「……まったく、ワシも年を取ったものだな」


 そう言って、俺の提案を快く受諾してくれたのだった。

色々と吹っ切れ、迷路を抜けたヒロトがここからどんな追い上げを見せてくれるのか、是非ご期待いただけると嬉しいです!ここから懇親会まで一気に加速していきますので、皆さんついてきていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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