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第三百三十七話『確かな居場所』

「……これもギブアンドテイク、ですか」


「そんな堅苦しいものじゃないわよ。ただここからは、あの子の母親として、あの子の仲間である君と話がしたいの」


 座り直しながらの俺の問いに、カルケさんはひらひらと手を左右に振る。その表情からはすっかり仕事人の顔が消えうせ、朗らかな母親としての一面が残った。


「……まあ、色々とありましたよ。どこまでネリンがあなたに伝えているかは分かりませんが……」


「『どこそこに行ったー』とか、『今日はこれを倒したー』とか、冒険についてのことはたくさん送ってくれるのよ。だけどね、日常生活についてはあまり話してくれなくって。……母親としては、そこらへんも気になるじゃない?」


「……まあ、そうですね」


 そういえば、俺の母親は元気にしているだろうか。あっちの世界での俺の死から、少しは立ち直れたんだろうか。そんなことを思うと胸の底がちくりと痛んだが、その感情は心の奥底にしまっておくことにした。……少なくとも、今は感傷に浸る時間ではないはずだからな。


「最近はお家も持ったみたいで、安定した生活が出来てるみたいで私としても安心だわあ。あの子はどう?共同生活の中で迷惑とかかけてない?」


「全然。むしろネリンが居なくちゃ俺たちの生活は回らないくらいですよ」


 今でさえ全員が一通りの家事をこなせるようになっているが、その技術のほとんどがネリンから教わったものだ。この宿での手伝いで身に着けたスキルは、巡り巡って俺たちの生活レベルを大きく引き上げていた。


「アイツがいると家事もてきぱき終わるんで、皆で持ち寄ったゲームをしたりもしてるんですよ。そういう時は大体アリシアが強いんですけど、いつも一番悔しがってるのがネリンなんです」


「アリシアちゃんには特別な感情を抱いているみたいだしねえ。最近はなんだかんだあったけど、前よりも仲良くなれてるみたいで何よりだわ」


 くすっと笑いながらそう呟くカルケさんの表情には、隠し切れない安堵の色がある。快くパーティ結成を受け入れてくれたカルケさんだったが、やはりその内心では一人娘のことを心配していたのだろう。


「……あの子、同世代の友達がアリシアちゃんくらいしかいなかったからね……冒険者を目指したのが同い年の中だとあの子一人って話は、知ってるかしら?」


「はい。だからこそ年上の冒険者とのつながりの方が強くなっていったとかなんとか」


 それはそれですごいコミュニケーション能力だとは思うが、酒場にいる人たちの中でのネリンの知名度は半端なものではない。このギルドにいる人ならば誰でも知っているんじゃないかと思うくらいのその顔の広さは、間違いなくネリンの天性の才能だった。


「一人じゃないってだけで私たちとしては安心だったんだけど、やっぱり少しだけ後悔はあってね。……もっとほかの街なら、同世代の冒険者中もたくさんできたのかなあ、とか」


「……あー、それは困りますね」


 カルケさんがこぼした仮定の話に、無意識のうちに俺はそう口を挟んでいた。驚いたような表情でこちらを見つめ返すカルケさんに、俺は続ける。


「ネリンとの出会いが無ければ、俺は他の仲間たちとも出会えてないですもん。何から何までアイツには助けてもらいっぱなしだから、この街にいてくれなきゃ困るんです」


 始まりが狂ってしまえば、今の俺は全く違う立場にいることだろう。パラレルワールドとも言っていいその仮定の中の俺は、どうしても今の俺より充実しているとは思えなかった。


「この街に来て、俺はたくさんの出会いに恵まれました。……でも、それはネリンがいろんな人と俺とをつないでくれたからなんです。……アイツがいたから、俺は居心地よくこの街にいられたんですよ」


 ネリンがいたからこそ、俺はこの世界での生活を楽しいものだと思えたのだろう。初めて街を案内された時は流石に戸惑ったが、それが無ければ困っているミズネに出会うこともコンビニで店員をしているアリシアに出会うこともなかった。……アイツがいないだけで、俺の異世界生活の歯車はびっくりするほど簡単にくるってしまうのだ。


「だから、その仮定の話はあまり考えたくないですね。……今まで過ごしてきた時間のことを考えると、カルケさんはそう言いたくなるのかもしれないけれど」


 いくらパーティメンバーとはいえ、俺とネリンとの付き合いはせいぜい一ヶ月とちょっとだ。それだけの関係性でここまで行ってしまったら、起こられてもなにも文句は言えない。それくらいの覚悟で、俺はカルケさんの言葉を待っていたのだが――


「……良かった。あの子は、ちゃんと居場所を見つけられたのね」


 心の底から嬉しそうに、カルケさんはそうつぶやく。その眦には、光るものが浮かんでいた。


「……はい。……アイツは、ネリンは俺たちの大切な仲間です。今更いなくなりたいなんて言われても困ります」


「……そう。……これからも、あの子をよろしくね」


「……こちらこそ、ですよ。……これから先も、ネリンと一緒に頑張っていきますから」


 その宣言に、カルケさんは感極まったようにうなずく。それを最後に、突然取り付けられたカルケさんとの対談は自然と終わりに向かっていくのだった。

ヒロトのネリンに対する思い、感じ取っていただけたでしょうか。もう少しはっちゃけた会話にするつもりですが、これもこれでまあ悪くないのかな、と。次回以降ヒロトがどう動いていくのか、楽しみにしていただければと思います!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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