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第三百三十四話『差し込む光は傍らに』

――週が明けてから二日。チームとしての動きが盛んになっていき、今まで大体揃っていた足並みにもそろそろ違いが出てくる。それはチームの地力がどんどんと表出してきたことの証明にもなるわけで、ここでうまく抜け出せないってのはチームとしての欠点をどうしても考えなければならないということだ。


 とまあ、ここまでグダグダと言ってきたわけだが、つまりは……


「……お前ら、なんでそんなにうまく事が運んでんだ……?」


――はっきりと出てきたチームの明暗に、俺は思わず頭を抱えていた。


「ボクとしてはヒロトが一日でここまで落ち込んでるのがびっくりだけどね……『理想を叶えるのが仕事』なんてカッコよく言い放っていた君はどこに行ったんだい?」


「やめろ、それを言わないでくれ……」


 その思いは今でもブレていないが、それにしたって厳しいものはある。というか、無意識のうちにそんなかっこつけた事言っていたという事実に俺のメンタルはさらに攻め立てられていた。


「もう少しうまくいくもんだと思ってたんだよ……。まさか一つの出店契約も得られないとか、そんな展開を想像できるわけがねえって」


「……それは……心中お察しするわ……。」


 すっと目を伏せたネリンの気づかいの言葉が痛い。普通なら『その程度でめげてんじゃないわよ!』くらい言ってくれる強気な少女も、今回ばかりは問題が根深いものだということを察してくれたようだった。


「新しいものをやりたい、作りたいってのはいいよ、凄く夢があって。……でも夢ってさ、堅実な商売人を説得する言葉としてはあまりに無力なんだよな……」


「夢で腹は膨れないし、夢は通貨にならないからな……そういうタイプの人たちが重視するのは実像だ。つまり、今のヒロトたちにはそれがないと」


「……おおむね正解だよ」


 というか、百点満点の解答だ。今の俺たちには机上の空論以上の何物もない。『こうすれば面白い』『ああすればきっとうまくいく』そんな仮定だけを燃料にして何とか突っ走っている火の車と言っても過言じゃないだろう。それに、遠くないうちにその燃料はきっと尽きるのだ。


「お前たちはもう実際に製作が進んでるもんな……。完成予想図もあるんだろ?」


「まあ、そうね。あたしのところは少し手直しが入りそうだけど」


「ボクのところはおおむね原案と変わっていないね。今の議題はもっぱらクオリティアップのためのものだ」


「私もアリシアと同じような感じだな。今日はメンバーから知名度についての質問が来たが、まあそこら辺に対することもこの先やっていくことになるだろう」


 三者三様の答えが返ってきているが、そこに共通してるのはもう完成図がある程度共有されていることだ。翻って俺たちを見てみれば、完成図はオウェルさんの中にしか……いや、中にすらない。何てったってどこのチームの制作がメインになるか分かったもんじゃないのだから。そういう意味では、俺たちは圧倒的に空っぽである。


「……なおさら、交渉に応えてくれないわけだよな……」


 四チームと交渉の余地がある店側からすれば、わざわざ一番よくわかんないチームに出資することに博打以上の意味なんてないわけだ。他のチームの進捗を見れば、その事実はよりはっきりと浮かび上がってきていた。


「あたしの周りでも聞こえてきてるから、よっぽどよく分からないんでしょうね……『何をしでかす気なんだ』って、まるで不審者みたいに言われてるもの」


「いや、実際挙動不審なのは事実なんだよ……アイデアマンと言えば聞こえはいいけど」


 その実無軌道という表現をするのが一番しっくりくるのはなぜだろうか。ひらめきに優れていると言えば聞こえはいいのだが、それに周囲が振り回されているのが今の俺たちの縮図だった。


「やりたいことをやりたいようにやる。そういえば簡単そうだけど、簡単に見えているのは当人だけだからねえ。いくらリーダーにカリスマがあったとして、猶予はそんなに多くないんじゃないかい?」


「大体その通りだよ。……俺たちのチームは、いつ空中分解したっておかしくない」


 ここまで暴露するのは、勝負を繰り広げるライバルとしては間違っていないのだろう。だけど、今の俺の知識ではこの問題を解決できない。普段なら特効薬になりそうな図鑑も、決して万能無敵のチートではないのだ。それを今、俺は改めて痛感している。


「俺たちのチームはメンバーが多い分、一回分解したらもう取り返しがつかない気がするんだ。……頼む。お前たちの知識、俺に貸してくれないか?」


 敵に塩を送るなんて言葉がある。それと同じような文化がカレスにあるかは分からないが、今の俺はそうでもしないとこの泥沼から抜け出せない気がしていた。


 そんな俺の姿は、三人からするとどう映っているのか。しばらくの沈黙が屋敷に漂ったのち、最初に口を開いたのはミズネだった。


「……仲間が困っているなら、助けるのが道理だろうな。その代わり、チームの内情はしっかり暴露してもらうぞ?」


「ま、今までヒロトには助けられてきたからね。百パーセントの力を出せてないアンタに勝てても満足できないし」


「言いたいことは二人と同じだよ。……ボクの知識で役に立てることがあれば、迷うことなく利用してくれ」


「お前ら……‼」


 それぞれらしい口ぶりで、三人は協力の意志を表明してくれる。それはまさしく、暗闇の中に舞い込んできた眩しいくらいの光だった。


「さ、そうと決まったら作戦会議よ。行き詰まったヒロトをどうやってサポートするか……あたしたちの腕の見せ所ね?」


 挑戦的な目線をネリンが二人に送ると、それに力強い頷きが返って来る。……そうして、俺の現状を打開するための一手を探す作戦会議が始まるのだった。

それぞれのチームとしての動きはありますが、それでもパーティの絆が途切れることはありません。ヒロトの窮地を打破するべくどんな考えが飛び出してくるのか、楽しみにしていただけると嬉しいです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!ツイッターのフォローも是非お願いします!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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