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第三百二十九話『誤魔化せない不安』

「……そんなわけで、一つ目玉になるものが作れたと思います。それをどれだけ生かせるかは、まだまだこっからの研究次第だと思いますけど」


「……ワシが知らないうちに、お前はとんでもないことをしでかしてくれるのだな……」


 パーティ総出での交渉から一夜。俺の報告に、ジーランさんは感心とも呆れともつかないような表情を浮かべる。まあ、勝手に契約してきましたって言われてもそういうリアクションをするほかにないような気はした。


「それでも、魅力的なものは増やせたんでいいんじゃないですか?そこをどう生かすかが、こっからの俺たちの戦いにおける一番のポイントかと思いますし」


「……そうだな。どんな魅力を作り出すかというのは、ワシらにとって一番大きなテーマだ。……だからこそ、お前が持ってきてくれたものを使うのにワシは慎重にならなければならん」


 その眼がどこまで見据えているのか、俺には読み取ることが出来ない。だが、その口ぶりは何かしらを思いついているかのように感じられた。


「……慎重さも大事ですけど、それをし過ぎていると時間もなくなりますよ?」


「ああ、そこも一大事だ。オウェルがどこまで皆の士気を保っていられるかは分からないが、それが尽きる前にワシらはワシらの役割を全うしなければならん。……だからこそ、今回のそれはタフな仕事なのだよ」


 慎重かつ大胆にという矛盾を抱えなければならないのが辛いところだが、その均衡点を正確に取って見せないと俺たちの勝利もなさそうなのが現状だ。新しい事をするというスローガンはわかり易くもあったが、わかり易く無限に広がった可能性というのは俺たちを迷わせるのに十分すぎる選択肢を与えてきている。……その中から何を選び取るかは、俺たち次第だ。


「ワシらのチーム運営は非常に危うい。だからこそ、早めに地盤を固めないと話にならんな」


「その通りですね。……ちょうど、仲間とも同じような話を昨日したところです」


 地固めの大切さを、懇親会の準備を通して俺は痛いくらいに実感している。新しいことをやるという言葉自体は聞こえがいいものだが、言い方を変えれば思い付きでしかないのだ。それがよく寝られないうちから発動するのは、言ってしまえば見切り発車。そして、それが孕むリスクが表に出てきたのが俺たちの現状という訳である。


「自分たちの間だけでやれることに関しては手早く進むけど、それ以外のこととなるとからっきしですもんね……何をやるかもわからない区画に店を出すなんて、商売的にはリスクの塊でしかないわけですし」


「そういう冒険気質の商人は王都に多いという話を聞くくらいだからな。この街で安定した収入を得ている者たちからしたら、そういう冒険というのは一番切り捨てるべきものだ」


 誰しも自分の商売に対する矜持はある物だからな、とジーランさんは商人たちに理解を示す。かくいうジーランさんも普段は商売人であるわけだし、そこら辺への理解は俺なんかよりよっぽど深いだろう。


「人の考え方ってのは簡単には動かないですもんね……。だからこそ、どうやってその人たちに店を出す意義を感じさせるかって課題になってくるわけですし。早い話が、俺たちの展示にどんな価値があるかってのを見せたいんですけど」


「それをするにはある程度の作業の進捗がいる。だが、進捗を得るための士気を保つには明確な進展の証拠が欲しい。―—手詰まりだな」


「ダブルバインドって言葉にふさわしい状況ですね……これが続くなら、大体のところと契約が結べないじゃないですか」


 もちろん作業の進捗を待てば契約してくれるところも出てくるのだろうが、それを待っている間に他のチームがその店との契約を持っていくだろう。『いずれ形にするからそれまで待っててください』っていうところと、『今案が既にあります』って言ってくるところのどちらと契約を結ぶかって聞かれたら多くの人が後者を選ぶだろう。多分俺もそうする。そんなわけで、状況は思っていた以上に悪かった。


「完成系が見えてくるのはもう少し後のことになるだろうな……。そのころにどれだけの店が残っている事やら」


 その言葉に含まれた心配の色は濃い。俺たちが追い込まれている状況は、俺たちのルール設定も相まってかなりの窮地を俺たちに見せていた。


「……何か、対策はないんですか?」


「あるにはある。……だが、苦肉の策というほかないだろうな」


 その表情は渋く、活き活きと制作に取り組んでいるパーティメンバーとは対照的だ。この問題に本腰を入れて取り組めるのが俺たちしかいないというのも、この問題が煮詰まるのに拍車をかけている気がした。


「……やるしかない、ですかね」


「そうだな。……ついてきてくれるか?」


「勿論ですよ。勝手に動いた身として、今度はジーランさんの判断についていきます」


 その言葉にジーランさんは軽く頷くと、制作の現場を離れて街へと繰り出していく。この先の展望が見えない不安感に覆われながら、俺たちの交渉行脚二日目が始まるのだった。

少しずつ不穏な雰囲気を醸し出しながら、着々と懇親会は続いていきます。果たしてヒロトたちはこの困難を打ち破ることが出来るのか、見守っていただければと思います!

ここからは宣伝となるのですが、今日の午後七時に新作が投稿されます!魔法学園を舞台にした下剋上の物語となっていますので、興味があれば是非そちらもご覧いただけると嬉しいです!

もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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