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第三百二十七話『変えていくもの』

「名前を売るつもりはないという考えは大いに理解できます。ですが、あなたの料理は人を惹きつけるだけの十分な価値がある。懇親会の成功のために、あなたの力は非常に大きな助けになるんです」


 俺たちは勝負している立場ではあるが、『懇親会を成功させる』というゴールに関しては皆一緒になって見据えているものだ。その大前提があるからお互いにある程度のアドバイスはするし、必要なことは皆で動く。そもそも懇親会の成功が無ければ、俺たちの勝負が気持ちよく決着することもないんだからな。


「『どの区画の展示が一番良かったかを投票してもらう』というコンセプトがある以上、お客さんには全区画をできれば回ってほしい。そのために、『謎の絶品屋台』というのは中々に良い理由になるとは思いませんか?」


「中々ロマンがある話だとは思うね。……だが、その宣伝はどうするんだい?今のアタシは無名の屋台だからね。腕前がいくら優れていようと、宣伝がうまくいかなければ客足は上向かないよ」


 この現状が何よりの証拠さ、と店主は言ってのける。確かに、ここの店の実力ならば屋台であろうと行列ができていたってなにもおかしくはない。だがそうならないのは、店主がうまい感じにこの店の評判を抑え込んでいるからなのだ。そこを越えなければ、確かに俺の策は夢物語に終わってしまいそうではあった。


 だがしかし、それに対していい対策が思いつくわけでもなく。俺が首をひねったままでいると、隣で俺たちを見つめていたアリシアがすっと手を上に伸ばした。


「……その点については、ボクから提案してもいいだろうか」


「アリシア……⁉」


「本人がやらないと言っていることを強制する気はボクたちにだってないさ。それならば、少しでも懇親会がいいものになるよう動いた方が有意義だろう?」


 突然の援軍に俺が驚いていると、アリシアがそう言って片目を瞑る。他の二人に目をやると、その意見に同意するかのような力強い頷きが二人から返ってきた。


 ライバルとしてみると強敵だが、仲間としてならこれ以上にありがたい存在もそうはいない。懇親会の成功を実現するべく、俺たちは一時的な停戦協定を結んだ形だ。


「その点に関しては、移動調理という形で解決できるんじゃないだろうか。……その屋台、可動式だろう?」


「そうだね。一応、動かしながら調理することもできなくはないけど――」


「それなら、食べ歩きできるものを特別メニューとして提供してもらうのはどうだろうか。このお店の料理は香りも魅力的だから、調理しているだけである程度注目はされるはずだ。それで食べた人が未知の絶品料理に感動して、周囲にその反応を見せてくれればこっちのものさ」


「後はそれにつられた人がやってきて、その人にまた人がつられて……って感じね。確かに、それなら事前の宣伝とかもいらずに、料理のおいしさだけで勝負ができるかも」


「移動式の屋台で経営する以上、メニューは食べ歩きに狙いを絞った物がいいかもしれないな。事前に大まかな移動スケジュールなどを示しておけば、それに合わせて回る人も出てくるだろう」


 アリシアの質問を皮切りに、次々と案が出されていく。それらすべてが重なり、俺が打ち立てた『謎の絶品屋台計画』は徐々にその形を現実のものにしつつあった。


「持ち帰り用、食べ歩き用の料理作りか。……アタシの本来のジャンルではないけれど、そこはどう思ってるんだい?」


「そっちの方が都合がいいとまで思ってるわよ。同じような屋台を探すだけじゃこの店にはたどり着けないし、人が増えすぎるようなことは無いと思うわ」


 専門外のことをやらせるのは申し訳ないけれど、とネリンは苦笑する。その堂々とした答えに続いて、俺はもう一度頭を下げた。


「懇親会の成功は、俺たちだけじゃなくてたくさんの人が望んでる最高の結果です。……どうか、力を貸してくださいませんか?」


 ここまで選択肢を提示しては来たが、最終的にどうするのかを決めるのは店主自身だ。店主がどんな選択をしても俺たちはそれを責められないし、懇親会を成功するために手を尽くさなければならない。……これだって、その一環なんだからな。


 俺からワンテンポ遅れて、三人も同じように頭を下げる。それを見て、店主は目を丸くした。


「……懇親会が変わったって噂は、本当なんだねえ」


「……はい。変わったし、変えていきます」


 それがいい方向と言えるかどうかは、当日の結果次第だ。だから、そこに至るまでに全力を尽くす。その大一歩がここだ。……ここから、もっと大きく変えていくのだ。


「……アタシね、去年までの懇親会は少し苦手だったんだ。きらびやかではあるんだけど、その影でいろんなものを押し殺しているようで。アタシの屋台にも、当然声はかからなかった。……そのまま一生、関わることもないんだと思ってたんだけどね」


「……って、ことは……!」


 含みを持たせた言い方に、ネリンがパッと表情を明るくする。それに対して力強く頷くと、店主は豪快な笑顔を浮かべて――


「きっとこれも何かの縁だ。『謎の絶品屋台』とやらに、成ってみようじゃないか」


 堂々と、懇親会への参戦を表明してくれたのだった。

ヒロトたちの決意で、色々な人たちが動いていきます!こうして懇親会が出来上がっていく様を、楽しんでご覧になれていれば幸いです!もし気に入っていただけたらブックマーク登録、高評価などぜひしていってください!

――では、また明日の午後六時にお会いしましょう!

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